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鉄の城、黄金の土台(いしずえ)  作者: 水前寺鯉太郎


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第十一話:暁の脱出、泥濘(でいねい)の轍

第十一話:暁の脱出、泥濘でいねいの轍

要塞「安土」の崩落は、進の予想を上回る速度で始まっていた。島田の意識をバックアップした高密度磁気ディスクを、進は引き裂かれるような思いで懐にねじ込んだ。

「先生、必ず……必ず連れて帰るからな!」

背後で、島田を繋ぎ止めていた巨大な計算機が火花を散らし、崩れ落ちる。地底の闇が、かつての恩師の肉体を飲み込んでいった。

「進、ぐずぐずするな! 天井が落ちるぞ!」

辰造の怒号が、通信機を震わせた。

地底の決死行

脱出ルートは一つ。自分たちが掘り進めてきた、あの細い「逆襲のトンネル」しかない。だが、そこには織田の治安維持隊が、地上から雪崩のように押し寄せていた。

「正一さん、ダンプだ! 強行突破するぞ!」

「おう、任せとけ! こいつのエンジンは、戦車用をさらに二基掛けした特別製だ!」

正一が操る巨大な改造ダンプ「明智零号」が、瓦礫を蹴散らして地下通路を爆走する。荷台には辰造と健太、そして進の『桔梗』が踏ん張っている。

前方からは、織田の軽装甲歩兵隊が機銃掃射を浴びせてくる。

「健太、目潰しを頼む!」

「了解! 特製の閃光焼夷弾だ、拝んでな!」

健太が放った特殊弾が狭い通路で炸裂し、兵士たちの視界を奪う。その隙を、正一が「力の支点」を見極めた巧みなハンドル捌きで、装甲車を壁面に押し潰しながら突き進んだ。

地震の予兆

地上では、熱田の街が異様な揺れに見舞われていた。地下要塞の自爆シークエンスと、進が仕掛けた「構造的破壊」の連鎖が、地盤を激しく揺さぶっているのだ。

「代表、あと三百メートルで地上だ! だが、出口が織田の部隊に完全に包囲されてる!」

正一の叫び声。モニターには、地上出口に布陣する数十体の動力甲冑『信長』と、重戦車が映し出されていた。

「構わん、全開で突っ込め! 辰さん、重機の排土ブレードを最大角に!」

「おうよ! 泥泥どろどろの人生、最後に見せてやるぜ!」

『桔梗』が進み出で、ダンプの前面に覆いかぶさるようにして盾となる。進は神経接続の感度を限界まで引き上げた。脳が焼けるような熱気。だが、その向こう側に、懐かしい熱田の風の匂いを感じた。

暁の咆哮

「開けぇぇぇぇ!」

咆哮と共に、ダンプはアスファルトを突き破って地上へと躍り出た。

朝日が眩しく差し込む。そこは、九年前に父・源造が殺された、あの熱田の倉庫跡地だった。

織田の軍勢が、一斉に砲口を向ける。

だが、その時。

ドォォォォォォォン……!

地響きと共に、彼らの背後で織田重工の象徴である「安土要塞」の通気塔が、ゆっくりと、しかし確実に崩壊を始めた。進が計算し、島田が導き出した「解体の方程式」が、地下から地上へと牙を剥いたのだ。

「な、なんだ!? 地盤沈下か!?」

「逃げろ! 飲み込まれるぞ!」

混乱する織田の部隊を尻目に、正一は巧みにダンプをスピンさせ、包囲網の僅かな隙間を突いた。

泥の中の帰還

熱田の街外れ。追っ手を振り切り、泥だらけになった「明智建設」の一行は、朝日を浴びる自分たちの「明智第一ビル」を遠くに望んでいた。

進は『桔梗』から降り、泥濘の上に膝をついた。

手元にあるのは、島田の意識を宿した冷たいディスク。そして、全身に刻まれた戦いの傷。

「一度、引き上げるぞ」

進は立ち上がり、懐のディスクを強く握りしめた。

「織田信長はまだ生きている。あいつは、この崩落さえも利用して、さらなる恐怖でこの国を塗りつぶそうとするだろう」

辰造が進の肩に大きな手を置いた。

「ああ。だがよ、進。今日、俺たちは確かにあいつの『城』を一つ、土に返してやったんだ。九年前の借りの、一平目だ」

正一は愛車のエンジンを切り、健太は次の作戦のための電子機器を整理し始めた。

彼らの視線の先には、煤けた空の下、変わらず動き続ける名古屋の街があった。

昭和四十五年、冬。

地上の風は冷たかったが、彼らの胸に灯った火は、もう誰にも消せはしなかった。

「明智建設、次の工程に移る。……これからは、地上戦だ」

父の命日に合わせたかのように、初雪が舞い始めた。

泥と、雪と、鉄の匂い。

少年から男へと成った進の戦いは、ここから第二章へと突入する。

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