第十七話:熱田の血脈、鉄の絆
第十七話:熱田の血脈、鉄の絆
名古屋市街地。かつての活気は消え失せ、織田の治安維持隊の装甲車が徘徊する「死の街」と化した路地裏。包囲網を突破した進たちの前に、ボロボロの作業着を纏い、片目に深い傷を負った男が立ち塞がった。
「……随分と派手な帰宅じゃねぇか、進」
低く、だが聞き慣れた声。陰から現れたのは、兄・鉄男だった。
二人の再会
「兄ちゃん!」
『桔梗』のハッチから飛び出した進は、鉄男の元へ駆け寄った。
父が死に、進が刑務所に送られた後、一人で家を守り続けてきた鉄男。その手は、過酷な労働と織田への抵抗で、岩のように硬く、無数の傷が刻まれていた。
「ハナは……妹はどうした!?」
「安心しろ。島田先生のツテで、今は岐阜の山奥に隠してある。……それより進、よく戻ったな。お前が山や海で暴れ回ってる噂は、この檻の中まで届いてたぜ」
鉄男は、腰に下げたズタ袋を叩いた。中には、織田重工の工事現場から命懸けで盗み出した「織田タワー」の最終構造図面と、高純度の爆薬が詰まっていた。
「俺は建築の理屈は分からねぇ。だが、あのタワーの『どこを叩けば一番痛いか』は、長年現場でこき使われてきたこの体が覚えてる」
宿命の兄弟、共同作業
明智建設の四人に、最強の「現場の目」を持つ鉄男が加わった。
彼らが潜伏先に選んだのは、皮肉にも、九年前に父・源造が殺された「熱田の第四秘密倉庫」の地下深く、進たちが掘り抜いたあの潜入トンネルの残骸だった。
「進、見てろ。織田タワーはただのビルじゃねぇ」
鉄男は図面を広げ、タワーの基部を指差した。
「この四本の主脚。こいつらは地下で、あの時親父が運ばされた『黄金の結晶』……高密度エネルギー源に直結してる。タワー全体が巨大な動力甲冑の『ジェネレーター』なんだよ。力ずくで壊そうとすれば、名古屋ごと吹き飛ぶ」
「……なるほどな。だから『解体』が必要なんだ」
進の目が、技術者のそれに変わる。
「爆破するんじゃない。エネルギーの流れを『逆流』させ、自重で自壊させる。兄ちゃん、あんたが爆薬を仕掛けるポイントと、俺が『桔梗』で負荷をかけるポイントを完全に同期させれば、名古屋を傷つけずにあの塔だけを降ろせる」
熱田の夜、決戦の準備
辰造が重機の整備を仕上げ、正一が脱出路を確認し、健太が織田の通信網にノイズを流す。
そして、進と鉄男は、父がかつて使っていた古びた手拭いを分け合い、それぞれの腕に巻いた。
「親父が見てるぜ、進。尾張の土工の意地、見せてやろうや」
「ああ。壊して、更地にして、そこからまた始めよう」
島田の意識を宿した『桔梗』が、静かに青い光を放つ。
『進……鉄男……。血の繋がりが……構造を……超える……。いざ……着工だ……』
昭和五十年。
明智建設、最後にして最大の現場。
ターゲットは、名古屋の空を汚す黄金の巨塔「織田タワー」。
工事名は――「織田信長・全人格および権力の完全解体」。
闇夜に紛れ、五人の影が動き出す。
父・源造が散った熱田の地から、反撃の火蓋がついに切られた。




