第十八話:巨塔侵攻、鉄と血の秒読み
第十八話:巨塔侵攻、鉄と血の秒読み
昭和五十年、冬。
名古屋の夜空を不気味な黄金色に染める「織田タワー」。高さ五百メートルを超えるその巨塔は、もはや建築物の域を超え、街全体を監視し、支配する鋼鉄の神殿と化していた。
「……これより、最終工事を開始する」
熱田の地下、静まり返ったトンネル内で進が低く告げた。
明智建設の五人は、それぞれの役割を確認し、父・源造の手拭いを固く結び直した。
第一段階:基礎への楔
作戦の先陣を切ったのは、進と辰造だった。
二機に増設された動力甲冑――進の駆る**『桔梗』と、辰造が操る重装解体仕様の『阿吽』**が、地下からタワーの基礎部分へと肉薄する。
「辰さん、予定通り『主脚』の右後方を叩く! 警備を地上に引き付けてくれ!」
「おうよ! 暴れるのは俺の専売特許だ。進、お前は兄貴を信じて先に行け!」
『阿吽』が地中から躍り出た。巨大な圧砕機を振り回し、タワー外縁の防衛ドロイドを次々と粉砕していく。地上に警報が鳴り響き、織田の最新鋭甲冑部隊が辰造に殺到した。
その隙を突き、進は『桔梗』の高周波ドリルでタワーの外壁を一閃。生じたわずかな亀裂から、身軽な三つの影が吸い込まれるように内部へ侵入した。鉄男、健太、そして正一だ。
第二段階:迷宮の垂直登攀
タワー内部は、幾何学的なパイプと電子回路が剥き出しになった、まさに「機械の体内」だった。
「健太、状況はどうだ」
鉄男が小声で尋ねる。
「最悪だよ。セキュリティが生き物みたいに書き換わってる。……だけど、ここから先は俺の『指先』の領分だ」
健太は携帯型のハッキング端末を制御盤に繋ぎ、次々と隔壁を解除していく。
「正一さん、重いのは持つぜ。爆薬の準備を」
「へっ、心配すんな。黒田ダムで運んだセメントに比べりゃ、ダイナマイトなんて羽毛みたいなもんだ」
三人はエレベーターシャフトを、命綱一本で駆け上がった。
目指すは地上三百メートル地点にある「エネルギー共振室」。そこは、タワーを支える四本の主柱にエネルギーが分配される、構造上の「急所」だった。
第三段階:血戦の踊り場
しかし、地上百五十メートル。貨物用デッキで、彼らを待ち構えていた影があった。
織田重工・特殊工作部隊。彼らは動力甲冑を脱ぎ捨て、狭い室内での戦闘に特化した強化外骨格を纏っていた。
「……ネズミが三匹。ここから先は許可が必要だ」
「許可だと? ……そんなもんは、ガキの頃に工事現場に置き忘れてきたよ!」
鉄男が叫ぶと共に、戦闘が始まった。
正一が爆薬の入った鞄を庇い、健太が目眩ましを投げる。鉄男は、かつて現場で培った「バール」一本を武器に、強化兵をなぎ倒した。
「進! 兄ちゃんたちは中に入った! 俺も……もう持たねぇぞ!」
外部では、辰造の『阿吽』がボロボロになりながらも、十数体の『信長』を食い止めていた。
『進……急ぐのだ……。タワーの……エネルギー臨界まで……あと五分……!』
「わかってる、先生!」
進は『桔梗』の出力を最大に上げ、タワーの「骨」を伝って垂直に駆け上がった。
外部の装甲を無理やり引き剥がしながら、進は内側にいる兄たちのバイタルサインを追う。
第四段階:共振室の死闘
ついに鉄男たちは目的の共振室に到達した。
そこには、九年前、父を殺した「黄金の結晶」が、巨大なガラス容器の中で鼓動するように輝いていた。
「これか……。親父を殺し、この街を狂わせたのは……」
鉄男が爆薬を仕掛けようとしたその時、背後のモニターから織田信長の声が響いた。
「壊してみるがいい。その瞬間、名古屋は焦土と化す。お前たちは、父と同じ道を辿ることになるのだ」
「……いいや、違うね」
天井を突き破り、進の『桔梗』が室内に突入した。
「俺たちは壊すんじゃない。あんたが歪めた『力の流れ』を、ただ元に戻すだけだ」
進は『桔梗』の腕を、共振装置の接続プラグへ差し込んだ。
島田の意識を介した、超精密な負荷分散。
「兄ちゃん、今だ! 仕掛けろ!」
「おうッ! 明智建設、最終爆破工程……開始だぁ!」
鉄男が起爆スイッチを押し込む。
爆破。しかしそれは、建物を破壊する爆音ではなく、エネルギーの「回路」を断ち切るための鋭い衝撃だった。
第五段階:崩壊の序曲
タワー全体が、身震いするように大きく揺れた。
四本の主柱に均等にかかっていた荷重が、進の操る『桔梗』の制御によって、一気に「外側」へと逃がされていく。
「信長、あんたの塔は、土台から腐ってたんだよ」
タワーの黄金色の輝きが、急速に色褪せていく。
外では、辰造が最後の一体を仕留め、倒れ込んだ。
「……進、終わったか……?」
「ああ。これからが、本当の『解体』だ」
タワーの最上階から、崩落の音が響き始める。
それは、九年間に及ぶ復讐の終わりであり、新しい名古屋を建てるための、最初の一歩でもあった。
明智建設、潜入戦。
それは、血を分けた兄弟と、泥の中で出会った仲間たちが、ついに「権力の頂点」をその手で引きずり下ろした瞬間だった。
だが、塔の最上階には、まだ一人の男が立ち尽くしている。
最終話。沈みゆく黄金の城で、進と信長、二人の「創造主」の決着がつく。




