第十六話:鉄の檻、名古屋城下包囲網
第十六話:鉄の檻、名古屋城下包囲網
昭和五十年。
山、海、そして魔の泥さえも伏せさせた明智建設の帰還は、織田信長にとって「いたずら」で済ませられる段階をとうに過ぎていた。
「明智進……。貴様は、私の庭を荒らしすぎた」
信長は、名古屋市全域に「国家緊急事態宣言」を発令。表向きは反政府テロリストの掃討、その実態は、明智建設を物理的に抹殺するための**「名古屋包囲網」**であった。
要塞都市・ナゴヤ
かつての平和な街並みは一変した。
名古屋に入るすべての主要道路は、織田重工製の巨大な可動式防壁「鋼鉄の門」によって封鎖された。東名高速、国道一号線、そして中央本線。物流は遮断され、空には無数の無人偵察機と、武装飛行甲冑『大鷲』の編隊が旋回している。
「おいおい、これじゃあまるで戦争だぜ。俺たちの街が、巨大な檻になっちまった」
正一は、名古屋郊外の山道でトラックを止め、双眼鏡を覗き込みながら舌打ちした。
かつて彼らが建てた「明智第一ビル」も、今や織田の治安維持隊に包囲され、ハナや鉄男の安否も不明なままだった。
鉄のカーテン
信長が敷いた包囲網は、単なる物理的な壁ではなかった。
名古屋を取り囲むように、超高出力の「磁気干渉フィールド」が展開されたのだ。これは電子機器の動作を狂わせるもので、並の動力甲冑であれば、境界線を越えた瞬間に制御を失い、鉄の塊と化す。
「進、どうする? 正面突破は自殺行為だ。あの磁気嵐を抜けられるのは、織田の最新型だけだぜ」
健太がモニターを指し示す。そこには、街の境界線に沿って整然と並ぶ、織田重工の最新鋭機『信長・肆式』の姿があった。
『進……。信長は……君の「構造」を……恐れている……。だから……物理的な接触を……拒んでいるのだ……』
島田の声が、『桔梗』のコックピットに響く。
『だが……どんな強固な包囲網にも……必ず「つなぎ目」がある。建築学的に……完璧な円環など……存在しない……』
明智建設、闇の着工
進は、泥だらけの図面を広げた。それは、かつて自分が建築科で学んだ名古屋の「旧地下鉄路線図」と、織田重工が建設した「新型インフラ網」を重ね合わせたものだった。
「信長は、空と地上を塞いだ。……だが、奴は忘れている。俺たちが鍋立山で何を学んだかを」
進の瞳に、冷徹な火が灯る。
「圧力は、一点に集中させれば破壊の力になるが、分散させれば『隠れ蓑』になる。名古屋全体にかかっている磁気と物理の圧力を、俺たちの力で『バイパス(迂回)』させるんだ」
進の作戦は、信長が設置した巨大防壁の「基礎」を逆利用することだった。
防壁が重ければ重いほど、地盤には巨大な荷重がかかる。その荷重によって生じる地中の「歪み」を、鍋立山で習得した技術で制御し、一時的に磁気フィールドに穴を開ける――。
決死の突入
「正一さん、合図と共に全開で突っ込んでくれ! 辰さん、防壁の脚部、三番杭を狙え! 健太、妨害電波の指向性を一点に絞れ!」
深夜。激しい雷雨の中、明智建設の逆襲が始まった。
正一の駆るダンプが、磁気嵐の境界線へと突進する。
『桔梗』がその肩を貸し、高周波振動で防壁の基礎を揺さぶった。
「壊すんじゃない……『隙間』を作るんだ!」
ズズズ……と、巨大な防壁が一瞬だけ、数センチ浮き上がった。
その刹那、物理法則の歪みが生じ、磁気フィールドに目に見えない亀裂が入る。
「今だぁぁぁぁ!」
正一の咆哮。ダンプは火花を散らしながら、織田の防衛線を紙一重で突破。
雷光に照らされたその先には、黄金に輝く「織田タワー」が、傲然とそびえ立っていた。
「信長、今帰ったぞ。……溜まりに溜まった『解体費用』、きっちり払ってもらうからな」
包囲網を内側から食い破った反逆の徒。
ついに舞台は、因縁の地・名古屋の中枢へと移る。
街の影では、ハナを守り抜き、この時を待っていた鉄男が、自作の爆薬を手に立ち上がろうとしていた。




