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時をかけるアラフォー 〜あの子には性別がない〜  作者: 双子相
第1幕(ep1〜19)「やり直し開始・2年生」
8/50

第8話 骨格診断で「似合う」と断言したアラフォーの話


 10月に入った。


 (気がつけば1ヶ月が経った。)

 (文化祭からもう1ヶ月だ。)


 朝の電車は続いている。

 清峰でキョンが乗ってくる。

 右のイヤホンを渡される。

 40分、片耳ずつ同じ音楽を聴く。


 (この時間が好きだ。)

 (とは言わない。)

 (言えない。)


 バンド名はまだ教えてもらっていない。

 「教えて」と聞いたら「どうせ知らない」と言われた。

 「知らないから聞いてる」と返したら「……今度」と言われた。


 (今度はまだ来ていない。)


---


 10月7日。


 登校して席に着いたとき、南さんが走ってきた。


 「柳くん!今日!」


 「何が。」


 「橘さんの誕生日!!」


 (来た。)


 (落ち着けアラフォー。)

 (知ってる。知ってるが、知ってると言えない。)


 「そうなのか。」


 「そうなの! みんなで何かしようってなってるんだけど、柳くんも来る?!」


 「みんなって。」


 「私と早川さんと木村さんで! 放課後、ちょっとしたプレゼントを持ち寄って渡そうって。橘さんに内緒で!!」


 (サプライズか。)

 (38歳の記憶の中に、キョンの誕生日が10月7日だという情報がある。)

 (でも2026年の今の俺に「おめでとう」と言う機会はなかった。)

 (20年ぶりに、ちゃんと祝える日が来た。)


 「参加する。」


 南さんが「やった!!!」と言った。


---


 午後の授業中、なんを贈るかを考えた。


 (キョンへの誕生日プレゼント。)

 (38歳が16歳に贈る。)

 (何が適切か。)


 ハンドメイド用品は喜ぶはずだ。

 でも何が今手元にないかがわからない。

 直接聞くわけにもいかない。


 (落ち着けアラフォー。)

 (シンプルに、使えるものを贈れ。)


 放課後前に購買に寄った。

 文具コーナーを見た。


 裁縫用の糸のセットがあった。

 いくつかの色が揃っている。

 綺麗にまとめられた、ちょっとしたギフト用のもの。


 (これだ。)

 (服を作るやつには、使える。)

 (気取りすぎず、でも考えた感じは伝わる。)


 買った。


---


 放課後、南さんと早川さんと木村さんの4人で待ち合わせた。


 「柳くん、それ何入ってるの?」


 南さんが袋を覗こうとした。


 「糸のセット。」


 「え、センス!!」


 「キョンが服作るって聞いてたから。」


 早川さんが少し目を細めた。


 「柳くん、意外と把握してるね。」


 「話を聞いてたら覚える。」


 「……いや待って、なんか普通にいい話だな。」


 木村さんが「適切だと思う」と言った。

 木村さんはほとんどそれだけを言った。


---


 キョンを廊下で捕まえたのは、帰り支度の時間だった。


 南さんが「橘さん!」と呼んで、4人で囲む形になった。


 「え、何。」


 「誕生日おめでとう!!!」


 南さんがはじける。

 早川さんが「おめでとう」と言った。

 木村さんが無言で差し出した。

 俺は少し遅れて「おめでとう」と言った。


 キョンが少し固まった。


 「……覚えてたの。」


 「誕生日、前に言ってたし。」と南さんが言った。


 キョンが4つのプレゼントを受け取った。

 南さんがアクセサリー、早川さんがお菓子の詰め合わせ、木村さんがポストカード。


 そして糸のセット。


 キョンがそれを見た。


 「……糸。」


 「服作るから使えると思って。」


 「……誰が言った?」


 「南さんから聞いた。」


 キョンがちらっと南さんを見た。

 南さんが「私! 教えたのは私!」と言った。


 (南さんが情報源で助かった。)

 (俺が知っているのはおかしいから。)


 「……ありがとう。」


 キョンが言った。


 俺ではなく、4人全員に向けて。

 でも糸のセットをもう一度見てから、少しだけ俺の方を向いた気がした。


 (落ち着けアラフォー。)


---


 翌日の昼休み。


 ミニモニのグループと一緒に食っていた。


 南さんが何かを発見したように言った。


 「橘さん!最近そのパーマどうにかしないの?」


 キョンが箸を止めた。


 「どういうこと。」


 「ちょっとバサバサしてきてるじゃん。セットとかしないの?」


 「してる。」


 「しても広がる。」


 早川さんが「わかる〜」と言った。


 「ストレートパーマかければいいんじゃない?」


 「考えたことある。」


 「じゃあなんでしないの?」


 「なんか似合わない気がして。」


 (ここだ。)


 (38歳の眼力を、使うなら今だ。)


 「似合う。」


 全員がこっちを見た。


 キョンが俺を見た。


 「……なんで急に?」


 「ストレートにしたら似合う。」


 「なんでわかるの?」


 (なんでわかるか。)

 (2026年のお前を知っているからだ。)

 (ストレートパーマをかけた後のお前が、どれだけ変わるかを知っているからだ。)


 「なんとなく。」


 「なんとなくって。」


 「……輪郭。輪郭が、ストレートのほうが映える形だと思う。」


 キョンが少し固まった。


 南さんが「ひえ〜!」と言った。

 早川さんが「いや待って急すぎる」と言った。

 木村さんが本から目を上げて「骨格診断みたいなこと言ってる」と言ってまた本を読み始めた。


 (木村さんはたまに鋭い。)


 「……コンタクトは?」


 キョンが言った。


 「メガネのかわりに。似合うと思う?」


 「似合う。」


 「なんでわかるの?」


 「なんとなく。」


 「また38歳の眼力?」


 「そう。」


 南さんが「もう!根拠を言いなよ!」と割り込んだ。


 「輪郭、と目の形。メガネのフレームが目立ちすぎてる。外したほうがバランスが取れる。」


 「……本当に何者なの。」


 早川さんが言った。


 (何者かというと、アラフォーだ。)

 (でもそれは言えない。)


 キョンが少し考えた顔をした。


 「……考えてみる。」


 (やった。)

 (心の中の38歳がガッツポーズした。やめろ。)


---


 帰りの廊下で、フミと一緒になった。


 「昼休み、あっちのグループにいたな。」


 「そうだな。」


 「橘さんに、見た目のアドバイスをしていた。」


 「……まあ。」


 「なんで。」


 「似合うと思って。」


 フミがこっちを見た。


 「お前、なんとなくが多い。でも——」


 「何。」


 「お前の『なんとなく』は説明できるやつだ。でも説明しない。」


 (フミ。怖い。本当に怖い。)


 「……気のせいだ。」


 「そうか。」


 信じていない「そうか」だった。


 「一つ聞いていいか。」


 「何。」


 「お前、橘さんのことちゃんと好きなのか。」


 「……。」


 「雰囲気で好きとか、なんとなく好きとか、そういうことじゃなくて。」


 「……どういう意味だ。」


 「そのまんまの意味だ。」


 フミは弁当箱を持ち直した。


 「別に答えなくていい。ただ確認したかっただけだ。」


 歩き始めた。


 (フミ。お前の確認はいつも急所を突いてくる。)


 ちゃんと好きかどうか。


 (好きだ。)

 (38年かけて、それだけは確かだ。)


 (俺はまだ言ってない。)

 (でも、好きだということだけは、ずっとちゃんとそうだ。)


第8話です。キョンの誕生日(10月7日)が来ました。糸のセットを選んだリュウ、38歳がじわっと出ています。翌日「ストレートにしたら似合う」「38歳の眼力で」のやり取りもありました。お誕生日に糸のセット。骨格診断「似合う」断言。フミの「ちゃんと好きなのか」が刺さった人、正しいです。

次回——キョンが自分から動きます。「やってみる」が来ます。

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