表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時をかけるアラフォー 〜あの子には性別がない〜  作者: 双子相
第1幕(ep1〜19)「やり直し開始・2年生」
6/50

第6話 「好きなの?」と聞かれたので全力でそらした


 その週の木曜日。


 (ミナミが余計なことをしそうな予感がしていた。)


 昼休みに廊下を歩いていたら、後ろから「ちょっとちょっと!」という声がした。


 振り向くと、南美奈が走ってきていた。


 (南さん。世話焼き。自分の恋愛こじらせ中。方向音痴。)

 (「ねえ聞いて!」が口癖。)


 (来た。)


 「柳くん!少しいい?!」


 「何?」


 「話!大事な話!」


 (大事な話。)

 (38歳のビジネスマンが「大事な話があります」と言われるとき、だいたいロクでもないことが多い。)

 (高校でも変わらない予感がする。)


 南さんに引っ張られて、廊下の端に連れて行かれた。

 周りをちらちら確認してから、声を潜めた。


 「柳くんって、キョンのこと好きなの?」


 (来た。)


 (来たか。)


 「……なんでそう思う?」


 「だって!なんか最近、キョンのことよく見てるじゃん。廊下でも!生徒会室の片付けもキョンに頼んでたじゃん!」


 (わかりやすすぎる。)

 (38歳がこんなにわかりやすいのか。)

 (プロのSEがシステムの脆弱性を見逃すよりも情けない。)


 「そういうわけじゃ——」


 「顔!今顔変わった!」


 「変わってない。」


 「変わった!絶対変わった!赤くなった!」


 (なってない。)

 (なっているとしたら、それは外気温の問題だ。)


 「俺は別に——」


 「でしょ!!やっぱり!!」


 (「でしょ」じゃない。「やっぱり」じゃない。俺は何も言っていない。)


 南さんが興奮している。

 両手を合わせて、「えー!」という顔をしている。


 (やばい。)

 (こいつを止める方法が思い出せない。)


---


 「南さん。」


 「な、なに?!」


 「落ち着け。」


 「わたしは落ち着いてる!」


 (落ち着いていない。)


 「キョンには言うなよ。」


 「言わない!言わないけど——」


 「絶対に言うなよ。」


 「……わかった。」


 (信じていいのか。)


 南さんが「でもさでもさ」とまだ言っている。

 廊下を歩く生徒がちらちらこっちを見ている。


 (まずい。目立つ。)


 「とにかく、今は何もないから。そういうことにしておいてくれ。」


 「今は、ってことは、将来的には——」


 「今は、だ。」


 南さんは少し考えた顔をしてから、「わかった!応援する!」と言った。


 (応援しなくていい。)


 「南さん。」


 「なに?」


 「余計なことはしないでくれ。」


 「しない!絶対しない!でも応援する!」


 (それが余計なことだ。)


 南さんが走って行った。

 廊下に一人残った。


 (……。)


 (わかりやすすぎる、と思ったが。)

 (俺がわかりやすいのか。)


 (38歳が高校生に一発で見抜かれている。)

 (恥ずかしい。)


---


 午後の授業中。


 隣のクラスの南さんが、廊下越しにこっちを見てウインクした。


 (やめてくれ。)


 目線を黒板に戻した。


 (俺はまだ言ってない。)

 (だから南さんには余計なことをさせない。)

 (言いたくなったとき、自分で言う。)

 (それまでは、誰にも動かせない。)


---


 放課後。


 生徒会の仕事を終えて教室に戻ったとき、フミがいた。


 弁当箱を片付けながら、チラッとこっちを見た。


 「南さんと話してたな。」


 「見てたのか。」


 「廊下を歩いてたら見えた。」


 「……何でもない話だ。」


 「そうか。」


 (また「そうか」だ。)

 (フミの「そうか」コレクションが増えていく。)


 「何でもない話だ。本当に。」


 「そうか。」


 (4回目。)


 「お前は何もかも観察するな。」


 「別に。目に入ってくるだけだ。」


 (目に入ってくるだけで全部わかるのか。)

 (弁護士向きだな。本当に。)


 フミが弁当箱を持って立ち上がった。


 「リュウ。」


 「何。」


 「焦んな。順番にやれば、たいていのことはうまくいく。」


 (フミ。)

 (お前それ、俺への言葉か。)

 (それとも自分への言葉か。)


 「……そうだな。」


 フミは何も言わずに教室を出ていった。


---


 帰り道の廊下。


 キョンが向こうから歩いてくるのが見えた。

 早川さんと何か話していた。

 早川さんが「いや待って」と言って、キョンが「だから」と言い返している。


 (日常だ。)

 (キョンの日常が、そこにある。)


 すれ違う瞬間、キョンがこっちに気づいた。


 一瞬、目が合った。


 「……柳くん、」とも「リュウ、」とも言わなかった。

 俺も何も言わなかった。


 でも、キョンが少しだけ歩みを遅らせた。

 ほんの一歩分だけ。


 (……気のせいか。)


 (落ち着けアラフォー。)


 (一歩分の意味を読み解こうとするな。)


 (でも——確かに、遅らせた。)


 キョンと早川さんが廊下の曲がり角に消えた。

 廊下の向こうから、南さんが俺を見つけてまたウインクした。


 (やめてくれ。)


 電車に乗った。


今日は一人だ、と思っていたら——


清峰駅でキョンが乗ってきた。


 いつものドア付近。

 いつものリュック。

 イヤホンを片耳だけつけていた。


目が合った。


キョンが少し首をかしげた。


(——なんだ。)

(廊下で「一歩遅らせた」やつが、今ここにいる。)

(落ち着けアラフォー。)


キョンが右のイヤホンを外した。

俺の方に、差し出した。


(来た。)

(今日も来た。)


受け取った。

音楽が流れ始めた。


「どこにも属せない 名前のない場所にいる」


(落ち着けアラフォー。)

(廊下で一歩遅らせて、電車でイヤホンを渡してくる。)

(それが普通のことのように。)

(俺にだけ気のせいに見えるようなさりげなさで。)

(38歳でも、これには慣れない。)


2人とも何も言わなかった。

窓の外を、夕暮れが流れていった。


清峰駅のアナウンスが入った。

キョンがイヤホンを受け取った。

降りた。

1回だけ振り返った。


(1回だけ、振り返った。)


(落ち着けアラフォー。)

(振り返るやつの気持ちを1時間考えるな。)

(でも——振り返った。)


ドアが閉まった。

電車が動き始めた。


(フミの「焦んな」が、頭に残っている。)

(そうだな。)

(順番にやれ。)

(今日は今日やることをやった。)

(それでいい。)


ミナミの「でしょ!!やっぱり!!」に対してリュウは何も言っていない。フミの「焦んな」はテンポがいい。帰り道、キョンが一歩だけ歩みを遅らせた。

次回——ミニモニ全員集合。「低いのは事実だから」が来ます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ