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時をかけるアラフォー 〜あの子には性別がない〜  作者: 双子相
第3幕 (ep37〜45)決着(卒業式・告白)
44/50

第44話 あと1日


 3月14日の夜。


 机に座って、天井を見ていた。


 今日一日のことを、順番に思い出していた。


 朝の電車。ミナミの誕生日。昼のバータとユースケ。フミの合格通知。


 そして——17時。下駄箱の前。


 キョンが薄紙の包みを受け取った。手の中で重さを確かめるように持った。「……なに?」と言ったから「開けてみろ」と言った。


 立ち止まって、薄紙を開けた。


 中から布が出てきた。夕方の光の中で、少し輝いた。


 キョンが動きを止めた。3秒。4秒。


 「……前に、見たやつだ。」


 (知ってる。)

 (お前が値段を見て戻したやつだ。)


 「1.5メートルある。シャツ1枚作れる分。何を作るかは、お前が決めていい。」


 キョンが俺を見た。「なんでそんな詳しいの?」「お店の人に聞いた。」


 少し間があって、「なんか、バレンタインのチョコと真逆だね」とキョンが言った。「私がリュウにあげたのは、形があって、完成してるものだったから。」「リュウがくれたのは、まだ何もなくて、これから形になるやつだから。」


 (キョンが気づいていた。)


 「……そういうつもりだった。」と俺は言った。


 キョンが「……何を作るか、考える。」と言った。


 「楽しみにしてる。」


 「……できたら、最初に見せる。」


---


 電車の中で。


 「リュウって呼び始めてから、なんか全然違う感じがして。」とキョンが急に言った。「柳くんは、誰にでも言える感じ。リュウは、私だけが言う感じがして。ずっとそう思ってた。」


 (落ち着けアラフォー。)

 (落ち着けアラフォー。)


 清峰駅のアナウンスが入ったとき、キョンが立ち止まった。


 「明日の式——終わったら、少し待てる?」


 「待てる。」


 「また明日。」


 ドアが閉まった。ホームに立って、1回だけ振り返った。電車が動き出した。


 (落ち着けアラフォー。)

 (「待てる?」と聞いてきた。)

 (俺は「待てる」と答えた。)


---


 ガラケーを開いた。


 カレンダーを確認した。


 卒業式:3月15日。


 今日が14日。あと1日。


 (あと1日、ある。)

 (多いか少ないかわからない。でも——1日あれば言える。)


---


 机にノートを開いた。


 元の歴史での告白は——どうだったか。


 言葉は用意していた。「好きだ」じゃなくて、もっと長い言葉。「高校3年間、ずっとそばにいたかった」とか、「これからも一緒にいたい」とか。でも全部、頭の中にしかなかった。声が出なかった。


 キョンの顔を見たら、全部どこかへ行った。


 卒業式の校庭。3月の光。キョンが俺を見ていた。そのまま、何も言えなかった。


 (俺はあの瞬間から20年以上、後悔した。)


 (今回は違う。)


 「好きだ」の4文字だけでいい。


 (キョンは「みんなみたいに好きって言えないかもしれない」と言った。だから俺も「好きだ」以上は言わなくていい。ただ、その4文字をちゃんと言う。声に出して。届くように。)


 ノートに書いた。「好きだ。」


 (こんなもの書いてどうするんだ。)


 (練習だ。38年分の後悔があるから、今度は準備してから言う。それだけだ。)


 (落ち着けアラフォー。)


---


 フミのことを思った。


 今日、生徒会室で「法学部、行ける。今日来た。一般入試の結果。」とフミが言った。


 「おめでとう」と俺は言った。「弁護士になれ。絶対なれる。」


 フミが「……わかった。」と言った。


 (フミがそれを言うときは、本当にそう思っているときだ。)


 生徒会で3年間、ずっと隣にいた。弁当を食べながら、経済の話をして、橘さんの話を観察して、「お前に「卒業式の後に言え」とか言わないから、自分で決めろ」とは一度も言わなかったが、その態度でそう言っていた。


 (フミ。同じ高校に来てくれてよかった。)


---


 バータのことも思った。


 「リュウが動くとき、変な動き方しないから。大丈夫だと思う。」


 昼休みに、ユースケの横でそう言った。感情のない声で。でも「大丈夫だと思う」をバータが言うのは、珍しい。


 (バータ。お前の「大丈夫」は重い。)


 (ありがとう。)


---


 ガラケーが鳴った。


 ユースケからだった。


「リュウ!!明日卒業式だ!!俺絶対言うから!!」


 (ユースケ。)

 (夜中にこれを送ってくるのはお前しかいない。)


「応援してる。」


「リュウも頑張れよ!!橘さんのこと!!!」


 (声がないのにうるさい。)


「わかった。寝ろ。」


「冷たい!!でもありがとな!!おやすみ!!!」


 (落ち着けアラフォー。)

 (38歳が17歳と同じタイミングで告白する。)

 (おかしくない。おかしくない。それだけのことだ。)


 (ユースケ。お前はいつも全力だ。それでいい。頑張れ。)


---


 電気を消した。


 窓の外、3月の夜空が静かだった。


 天気予報は晴れだ。昨日調べた。


 (3年前にここに戻ってきて、「やり直しリスト」を作った。)


 (7番:キョンに、ちゃんと言う準備をする。)


 (準備は終わった。)


 (あとは言うだけだ。)


 (元の歴史では声が出なかった。全部頭の中にあって、声だけが出なかった。)


 (今回は——言う。「言える」じゃない。「言う」だ。)


 (落ち着けアラフォー。)


 (明日だ。)


第44話。前夜の話です。ノートに「好きだ」と書いた男がいます。練習、と本人は言っています。フミの合格通知もバータの一言もユースケのメールも、全部今日あったことで、今夜ひとりで順番に確認していました。やり直しリスト7番の準備は終わっています。次回——卒業式当日。「好きだ」を言います。

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