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時をかけるアラフォー 〜あの子には性別がない〜  作者: 双子相
第1幕(ep1〜19)「やり直し開始・2年生」
4/50

第4話 2人きりの生徒会室で、話が止まらなかった


 翌日の放課後。


 生徒会室に入ると、段ボールが昨日と同じ場所にあった。

 誰も手をつけていない。当然だった。


 (俺しかやる人間がいない。)

 (副会長という役職は、こういうときに動くものだ。)


 38歳のSEとして、プロジェクトの整理整頓はそれなりにやってきた。

 段ボールの中身を確認する。

 文化祭の看板、チラシの残部、備品の空き箱。

 捨てるもの、保管するもの、返却するものに分ける。


 (これは普通に仕事だ。)


 15分ほど作業をしていたとき、ドアがノックされた。


 「開いてる。」


 キョンが入ってきた。


 鞄を置いて、段ボールを見て、少し眉をひそめた。


 「多い。」


 「多い。」


 「昨日から変わってない。」


 「誰もやっていなかった。」


 「……そっか。」


 キョンは上着を脱いで、隣の段ボールを開けた。

 何も言わずに作業を始めた。


 (キョン。)

 (来てくれた。)

 (落ち着けアラフォー。)


---


 「捨てていいやつと残すやつがわからない。」


 「捨てていいのはチラシと看板。箱類は残す。」


 「わかった。」


 しばらく2人で黙って作業をした。

 段ボールを開ける音。紙の束が動く音。

 それだけが部屋に聞こえていた。


 (38歳の余裕。使え。落ち着け。)

 (焦るな。ここにいるだけでいい。)


 (この沈黙が苦じゃない。)

 (キョンと一緒にいると、沈黙が苦じゃない。)

 (16歳の頃もそうだったな。)


 「キョン、これどっち。」


 袋を持ち上げた。

 中にテープと画鋲が入っている。


 「残す。備品。」


 「わかった。」


 作業が続いた。


---


 気がついたら口から出ていた。


 「文化祭、どうだった?」


 キョンが振り向いた。


 「うちのクラスのほうは。」


 「まあまあ。お化け屋敷だったけど。」


 「お化け屋敷。怖かったか。」


 「怖くなかった。でもミナミが途中で叫んで、自分が一番怖かったって言ってた。」


 「……それはミナミらしい。」


 「そう。」


 (笑わなかったが、声が少し緩んだ。)

 (アラフォー、静かにしろ。)


 「うちは喫茶だった。バータがホットケーキ運んで、客に『かわいい』と言われてた。」


 「……バータが?」


 「ホットケーキが。」


 「そっか。」


 少しだけ、キョンの口角が上がった。

 笑いとまでは言えない。でも何かが動いた。


 (じわっと来た。)

 (アラフォー、黙れ。)


---


 会話が続いた。

 途切れない。

 途切れそうになっても、また始まった。


 (これが、元の歴史にはなかったやつだ。)

 (あの頃の俺は、2人きりになると黙り込んだ。)

 (何か言わなきゃと焦って、でも何も出てこなくて、気まずくなった。)


 (今は違う。)

 (38年分の会話が、ちゃんと出てくる。)


 「キョン、服作るって聞いた。」


 「誰から?」


 「ミナミ。」


 「……あの子、なんでも言う。」


 「どういうの作るの?」


 キョンは少し考えた。


 「……着やすいやつ。」


 「着やすい?」


 「体に自然に馴染む感じの。フィットしすぎないやつ。」


 「どういう形で?」


 「シルエットが、あんまり『男らしい』でも『女らしい』でもないやつ。」


 少しの間があった。


 「……うまく説明できないけど。」


 「いや、わかる。」


 キョンが振り向いた。


 「わかるの?」


 「着る人を選ばない服、ってこと?」


 「……そんな感じ。」


 (わかる。)

 (2026年のキョンが作っていた服が、そういう服だった。)

 (でも今はまだ、お前はその言葉を持っていない。)


 「面白い発想だな。」


 「そう?みんなそう作ってるわけじゃないの?」


 「そうでもない。」


 キョンはまた段ボールに目を戻した。


 「……でも、作り方がまだわからない。」


 「学んでいけばいい。」


 「時間かかる。」


 「かかるだろうな。」


 「やる気失せる言葉。」


 (しまった。)

 (なぐさめる気がなかったが、確かにやる気失せる言葉だった。)


 「でも、お前が作りたいと思った形は正しい。それはわかる。」


 キョンが少し間を置いた。


 「……なんで?」


 「なんとなく。」


 「なんとなく?」


 「なんかそういう感じがした。」


 「……変なやつ。」


 キョンが段ボールを閉じた。

 「変なやつ」は悪口じゃなかった。

 そういうトーンではなかった。


 (変なやつ。)

 (キョンに言われる変なやつは、悪くない。)


---


 作業が終わって、2人で部屋を出た。

 廊下を並んで歩いた。


 階段のところで道が分かれた。


 「じゃあ。」とキョンが言った。


 「ありがとう。」と俺が言った。


 キョンが少し立ち止まった。


 「服の話。聞いてくれてよかった。」


 「別に。」


 「別に、じゃなくて。なんか……ちゃんと聞いてくれた感じがして。」


 (ちゃんと聞いてくれた感じ。)


 (落ち着けアラフォー。)


 「……また話してくれ。」


 「うん。」


 キョンが階段を下りていった。


 (俺はまだ言ってない。)


 (でも——ちゃんと話せた。)

 (元の歴史では、こういう時間がなかった。)


 階段を下りながら、明日の朝のことを考えた。

 明日、また同じ電車に乗る。


元の歴史ではここで黙り込んでいた。今回は話が止まらない。「着る人を選ばない服」の意味は、第1話のキョンの「ノンバイナリ」と繋がっています。

次回——朝の電車、右のイヤホンが来ます。この作品のプロトタイプシーン。

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