第37話 クリスマス。去年は5文字だった
12月25日。
(クリスマスだ。)
(去年は、キョンから「メリークリスマス」の5文字が届いた。)
(今年は——。)
(落ち着けアラフォー。)
(プレッシャーをかけるな。)
朝から、ガラケーを確認する頻度が上がっていた。
自覚はある。
でも止まらない。
38歳でもクリスマスの朝にガラケーを確認する。
人間そういうものだ。
(コンテキストとしては、こうだ。)
(去年:俺は何もしていない。キョンから来た。)
(今年:俺から先に送るか、それとも待つか。)
(どちらが正解かは——わからない。)
(でも。)
(去年と同じ「待つ側」でいるのは、なんか違う気がする。)
(3年になって、電車で何十回も話して、展示会に行って、誕生日にMDを渡して、「呼ぶ練習」を聴いて——)
(そこまで来ておいて、クリスマスに「待つ」だけか。)
ガラケーを開いた。
打った。
「メリークリスマス。」
5文字。
(去年、お前が俺に送ってきた文字数だ。)
(今年は俺が先に送る。)
送信した。
(落ち着けアラフォー。)
(送った。終わった。あとは待つだけだ。)
(それ以上のことは考えるな。)
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朝ごはんを食べた。
父が珍しく早起きしていた。
「クリスマスか。」
「うん。」
「ケーキは?」
「母さんが昨日買ってきた。」
「夜食うか。」
「食う。」
(お父さん。)
(去年より、少し話しやすくなった気がする。)
(距離が縮まった、というより、俺が変わったのかもしれない。)
父が「今年はよく頑張ったな」と言った。
(生徒会長の話か、それとも別の意味か。)
(わからないが——この一言が、今年一番重かった。)
「ありがとう。」
「来年も頑張れ。」
それだけだった。
でもそれで十分だった。
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昼過ぎ、返信が来た。
「メリークリスマス。去年と逆になった。」
(去年と逆。)
(ちゃんと覚えていた。)
(去年は向こうから来たこと、今年は俺から先に送ったこと——両方わかった上で、そう言った。)
(落ち着けアラフォー。)
「覚えてたのか。」
「覚えてる。」
少し間があった。
「今日どうするの?」
(今日どうするの。)
(去年も同じようなことを聞かれた気がする。)
(「また来年」と言って終わった。)
「家族とケーキ食う。リュウは。」
「同じ。」
「そっか。」
また少し間があった。
「NOIR EDGE、聴いてた。」
「何を。」
「夜の縁。リュウが好きなやつ。」
(俺が好きなやつ。)
(「一発で来た」と言った曲だ。)
(キョンがそれを、今日聴いていた。)
(落ち着けアラフォー。)
(意味を深読みするな。)
「俺も今年それ何回も聴いた。」
「何回。」
「数えてない。でも多い。」
「……そっか。」
もう1通来た。
「1月、また聴かせるよ。」
(1月。)
(「文化祭が終わったら」と言っていたが、文化祭はもう終わっている。)
(11月に終わった。)
(1月に聴かせるという約束が来た。)
「楽しみにしてる。」
「うん。今年もよろしく。」
(今年もよろしく。)
(2007年がまだ来ていないのに、「今年も」と言った。)
(これはきっと——来年の約束だ。)
「こちらこそ。」
そこで終わった。
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夕方、ユースケからメールが来た。
「リュウ!!!今日クリスマスじゃん!!!なんかしてる!?」
「家にいる。」
「え!!俺も!!さみしい!!!」
(ユースケ。)
(お前には好きな子がいるんじゃないのか。)
「先月ご飯に行ったんじゃないのか。」
「行ったけど!!クリスマスは別!!」
(そういうものか。)
(高校生のクリスマスは、行事として別格なのか。)
「来年は予定を作れ。」
「来年!!俺まだ受験生だよ!!」
(そうか。そうだった。)
(来年の1月にセンター試験がある。)
(ユースケにとってはそれどころじゃない時期だ。)
「受験頑張れ。終わったら祝う。」
「でしょ!!!約束だよ!!!」
(でしょ、はここでも使うのか。)
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バータからも来ていた。
「クリスマスか。まあ。」
(バータのクリスマスは「まあ」だった。)
(このシンプルさが好きだ。)
「お前は今日どうしてる。」
「家で事業計画書を書いてる。」
「クリスマスに。」
「まあ、ちょうどいい。」
(バータ。)
(お前は起業に向いてる。)
(クリスマスに事業計画書を書くやつが起業家になる。)
「頑張れ。」
「まあ。」
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夜、家族でケーキを食べた。
去年と同じコンビニのケーキだった。
去年と違うのは——俺が最後の1ピースを取る前に、父が「お前がいいか」と聞いてきたことだ。
「どうぞ。」
父が取った。
(去年と逆になった。)
(ちょっと笑えた。)
(俺が先に取るやつだったのに。)
(今年は父が取った。)
「まあいいか。」
「何が。」
「なんでもない。」
父が首をかしげた。
母が「2人とも変なこと言わないで」と言った。
(家族のクリスマスだ。)
(これで十分だ。)
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夜、部屋に戻った。
机の上のガラケーを見た。
(今日、俺から先に送った。)
(去年はキョンから来た。今年は俺から行った。)
(「去年と逆になった」とキョンが言った。)
(それが嬉しかった。なぜかはうまく言えない。)
(でも——逆になった、ということは、今年は俺がいた。)
(キョンが「来るのを待っていた」わけじゃない。)
(俺がいて、キョンがいて、どちらからでも始められる場所に、今年は来た気がする。)
(俺はまだ言ってない。)
(でも「今年もよろしく」と言ってくれた。)
窓の外に、12月の夜が広がっていた。
(1月に、次の曲を聴く。)
(それが来年の最初の約束だ。)
第37話、クリスマス(2年目)です。去年(ep10)はキョンから「メリークリスマス」5文字が届いた。今年はリュウから先に送った。「去年と逆になった」とキョンが気づいていた——両方覚えていた。バータのクリスマスが「まあ」だった件は今年の名シーンです。1月に次の曲を聴く約束。次回——1月。ライブリンクショック発動。「呼ぶ練習」へ続きます。




