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時をかけるアラフォー 〜あの子には性別がない〜  作者: 双子相
第2幕(ep20〜36)「3年生・勝負の年」
35/50

第35話 10月7日。去年と違う誕生日の渡し方


 10月になった。


 文化祭まで1ヶ月を切った。


 (やることが多い。)

 (企画書の最終確認、クラス展示の予算調整、来賓対応の担当割り振り。)

 (昨日も生徒会室で22時まで資料を作っていた。)

 (22時というのは学校の施錠の関係で追い出されただけで、終わっていない。)


 朝のランニングをしながら、今日のタスクを整理した。


 (今日は——10月7日だ。)


 (落ち着けアラフォー。)

 (そうだ。今日はキョンの誕生日だ。)

 (文化祭の書類がある。でも今日は10月7日だ。)


 (去年、糸のセットを渡した。)

 (翌日「骨格診断みたいなことを言った」と木村さんに指摘された日だ。)

 (今年は——去年と同じ流れでいいのか。)

 (違う。去年と今年は、俺たちの距離が違う。)


 (何を渡す。)


---


 朝ごはんを食べながら、考えた。


 (服飾の消耗品は去年使った。)

 (お菓子はサナが毎年やるだろう。)

 (本や雑誌は、趣味が合わないとずれる。)


 (キョンが好きなもの。)

 (服を作ること。音楽を聴くこと。カフェに行くこと。)


 (カフェ。)


 (スタビのギフト券、というのがある。)

 (バータが俺の誕生日にくれた。)

 (キョンと行くカフェ——春休みのあのカフェに、使えるとしたら。)


 (いや、ギフト券は違う気がする。)

 (もっと、キョンが「あっ」と思うようなものがいい。)

 (でも派手なものは向かない。)

 (キョンへのプレゼントは、小さくて、的確なものの方が伝わる。)


 (的確なもの。)

 (キョンが今、何を必要としているか。)


 (NOIR EDGE。)


 (……そうか。)

 (キョンがアルバム3枚持っているということは、CDで聴いている。)

 (でも展示会に行くとき、MDウォークマンで聴いていた。)

 (MDに落としている。)

 (なら——MDは消耗品だ。)


 (MDディスク。)

 (録音用の、ちゃんとしたやつ。)


 ランドセルから財布を引っ張り出した。


---


 学校の帰り道に文具屋があった。


 放課後、生徒会の作業が一区切りついた隙を縫って寄った。


 録音用MDが並んでいた。

 5枚入りのパックがある。

 ちゃんとしたメーカーのやつ。


 (これだ。)

 (ただの消耗品だ。でも「使うだろうと思って」と言える。)

 (去年の糸のセットと同じ発想だが、今年の方がキョンのことをよく知った上で選んでいる。)


 買った。


---


 ミニモニに先を越されるかもしれない、と思っていた。


 案の定、昼休みにミナミが走ってきた。


「柳くん!今日!」


「わかってる。」


「え、知ってた!?」


「去年もやった。」


「あ、そっか!! じゃあ今日も一緒に!!」


 (ミナミのスピードは毎回速い。)


 「今日は別々にしないか。」


 ミナミが止まった。


「……え、なんで?」


「去年はみんなで一緒に渡した。今年は、それぞれで渡した方がいいと思って。」


 ミナミがじっとこっちを見た。

 3秒。


「……なんか大人な理由がある感じ。」


「そういうわけじゃない。ただ、去年と同じじゃつまらないから。」


「……そっか。わかった! じゃあ私たちは私たちでやる。柳くんはどうするの?」


「俺は俺でやる。」


「……頑張れ。」


 ミナミが小声で言って、走っていった。


 (ミナミ。)

 (お前の応援はいつも小声で来る。)

 (それが一番効く。)


---


 ミニモニの3人が先に動いた。


 15時頃、廊下でキョンがミナミ・サナ・リサから囲まれているのが見えた。


「キョン!!!!誕生日おめでとう!!!!」


「いや待って、毎年大声でやるのやめて。」


「毎年やるから毎年大声でいいの!!」


「それは違う。」


 サナが「おめでとう」と言った。

 リサが「おめでとうございます」と言った。


「なんで敬語?」


「雰囲気。」


 (リサ。たまに面白い。)


 キョンがプレゼントを受け取っていた。

 南さんがアクセサリー系の袋、サナが食べ物らしい包み、リサが薄い本。


 (リサが本か。)

 (キョンが好きそうな系統を選んだのか、それともリサが読んでほしい本なのか、どちらかわからない。)


 (俺はまだ廊下の端にいる。)

 (今は近づかない。)

 (タイミングを見る。)


---


 放課後の作業が終わったのは18時を過ぎていた。


 廊下に出ると、キョンがまだいた。


 図書室の方から歩いてきた。

 一人だった。

 鞄を肩にかけて、帰ろうとしている。


「キョン。」


 キョンが振り返った。


「リュウ。まだいたの。」


「書類が残ってた。」


「そっか。」


 歩いてきた。

 いつも通りの顔だった。


「これ。」


 MDの5枚パックを差し出した。


 キョンが受け取った。

 パッケージを見た。


「……MD。」


「録音用。ちゃんとしたメーカーのやつ。」


「……なんで?」


「使うだろうと思って。」


 キョンが少し固まった。


 (落ち着けアラフォー。)

 (的外れだったか。)

 (でも間違いなく使う。NOIR EDGEをMDに録音しているはずだ。)


「……去年は糸のセットだったけど。」


「そうだな。去年は服を作るのに使えると思って。今年は音楽を聴くのに使えると思って。」


 キョンがまた黙った。

 MDのパッケージを見たまま、少し考えるような顔をした。


「……なんで覚えてるの? 去年のこと。」


「覚えてる。」


「ミナミから聞いたから?」


「去年もそうだったけど、今年は聞かなくても覚えてた。」


 キョンがゆっくり俺を見た。


 (この間が長い。)

 (何かを測っているような目だ。)

 (落ち着けアラフォー。)


「……ありがとう。使う。」


 キョンが言った。


 去年と同じ言葉だった。

 でも声が少し違った。

 去年より、少し低かった。


 (落ち着けアラフォー。)

 (声の高さを分析するな。)


「誕生日おめでとう。」


「……ありがとう。」


 廊下を並んで歩いた。

 下駄箱で靴を履き替えた。

 外に出ると、10月の夜気が冷たかった。


---


 駅まで歩く間、お互いあまり喋らなかった。


 でも、沈黙が苦じゃなかった。


 (キョンと歩くとき、黙っていられる。)

 (元の歴史では、2人きりになると何か言わなきゃと焦った。)

 (今はそうじゃない。)

 (黙っていても、ここにいる。)


「ねえ。」


 キョンが言った。


「何。」


「去年の糸、全部使った。」


(——。)


「全部か。」


「うん。今年の春に最後の1本を使いきった。」


 (去年の10月に渡した糸のセットを、1年かけて全部使いきった。)

 (服を作るたびに使った。)

 (今日また俺からもらった。)


「……そうか。」


「なんか——続いてる感じがする。」


(続いてる感じ。)


 (落ち着けアラフォー。)


「そうだな。続いてる。」


 キョンが少し前を向いた。


「NOIR EDGE、次の曲、考えてある。」


「待ってる。」


「……会長の仕事、今月大変そうだね。」


「文化祭があるから。」


「終わったら、また聴かせる。」


(終わったら。)

(文化祭が終わったら、また聴かせる。)

(キョンが、先の約束をした。)


「楽しみにしてる。」


「うん。」


 ホームに着いた。

 電車を待った。


 (俺はまだ言ってない。)

 (でも今日——「続いてる」とキョンが言った。)

 (糸が続いていると言った。)

 (俺には、それが糸だけの話じゃない気がした。)


 電車が入ってきた。

 2人で並んで乗り込んだ。


第35話、キョンの誕生日(3年目・10月7日)です。去年の糸のセットを引き継いで、今年はMDディスク。「去年の糸、全部使った」という一言が今回の核心でした。ミナミの「頑張れ」が小声で来るのが毎回好きです。文化祭が終わったら次の曲を聴かせるという約束——リュウはまだ言っていないけど、続いています。

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