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時をかけるアラフォー 〜あの子には性別がない〜  作者: 双子相
第2幕(ep20〜36)「3年生・勝負の年」
28/50

夏休み。山岸が動いていた。8月3日、誕生日が来た


 夏休みが始まった。


 7月後半。終業式の翌日から、俺は生徒会室にいた。

 文化祭の準備。学校行事のスケジュール調整。後期の選挙の告知資料。

 どれも締め切りが秋なので、今のうちに積み上げておかないと後で詰む。


 (38歳の経験則:「後でやればいい」は全部嘘だ。)


 書類を広げた。

 窓の外で部活の朝練の声がする。


---


 午前中で書類を片付けた。


 帰ろうとした廊下で、ミナミとぶつかった。

 曲がり角から勢いよく出てきて、俺の脇腹に肩をぶつけた。


 「いたっ。」


 「……ごめん。前見てなかった。」


 「ミナミ。廊下は走らない。」


 「わかってる!でも急いでたんだもん!」


 ミナミが学校に来ているということは部活か遊びか。

 3Aは文系だ。夏休みの部活はない。


 「何の用で来た。」


 「テニス部の友達と遊ぶ約束。待ち合わせが11時だった。やば。」


 (3Aといえば——フミとミナミのクラスだ。そして、山岸のクラスだ。)


 「ミナミ。山岸の話。」


 ミナミが止まった。


 「……なんで急に。」


 「バータから聞いた。キョンのことを気にしてると。」


 「……柳くんって、キョンに気があるよね。」


 (直球だ。)


 「それとこれとは別だ。情報が欲しい。」


 「別じゃなくない?」


 「急いでるんじゃないのか。」


 「やばい!!!また後で!!!」


 ミナミが走った。

 またぶつかりそうになりながら、角を曲がっていった。


 (また後で、という約束をした。)


---


 翌々日、また学校に来た。


 書類を片付けて帰ろうとした廊下で、ミナミがいた。

 今度は待っていた感じがした。


 「柳くん。山岸の話。」


 (来た。)


 「聞く。」


 ミナミが廊下の端に移動した。


 「山岸ね、キョンのことを気にしてる。それはバータが言った通り。」


 「ああ。」


 「でね。先週、私に聞いてきたの。キョンの好きなものとか、よく行くとことか。」


 (止まった。)

 (好きなものを聞いた。)

 (そこまで来ている。)


 「お前は何て答えた。」


 「知らないって言った。私よく知らないし。」


 「山岸は他にも誰かに聞いてるか。」


 「わかんない。でも……なんか、積極的なタイプっぽい。ちゃんと行動する感じ。」


 (積極的なタイプ。ちゃんと行動する感じ。)

 (38年の経験則が「それは脅威だ」と言っている。)


 「わかった。ありがとう。」


 「……柳くんさ。」


 ミナミが少し声を落とした。


 「焦らないの?」


 「焦ってる。」


 正直に言った。


 ミナミが少し驚いた顔をした。


 「じゃあ——」


 「ただ、焦りと行動は別だ。焦ったまま動くのが一番よくない。」


 ミナミがじっとこっちを見た。


 「……なんか頼りになるんだけど、その分余計ハラハラするっていうか。キョンが嬉しそうなの見てると、こっちも嬉しいし。でも山岸みたいなのが来ると、柳くんどうすんのって心配になる。」


 (ミナミ。これは、応援してくれている。)


 「……ありがとう。」


 「うん。がんばれ。」


 ミナミが廊下を歩き出した。

 途中で振り返った。


 「方向音痴じゃなかったら展示会一緒に行ったのにな、私も。」


 「代々木は難しいか。」


 「池袋から乗り換えたら迷子になる自信ある。一度代々木で行方不明になったことある。」


 「行かなくていい。無事でいろ。」


 「それが正解だよね。じゃあ!」


 ミナミが曲がり角を、今度はちゃんと曲がっていった。


---


 その日の夕方、ガラケーを確認した。


 キョンからメールが来ていた。


 「夏休みどう過ごしてる?」


 「生徒会の書類。会長の夏休みはそんな感じ。」


 少し待ったら返ってきた。


 「大変だね。私は服の型紙引いてた。」


 「展示会向けか。」


 「それもあるけど、今は別の。夏の間に1着作りたくて。」


 「どんな服。」


 「……まだ決まってない部分がある。形は決まってるんだけど、素材で迷ってて。」


 「どのへんで迷ってる。」


 「着心地と見た目のバランス。すごく柔らかい素材にすると、シルエットがだれる。しっかりした素材にすると、着てる感が強くなる。」


 「どっちを先に優先したいかで決まるんじゃないか。」


 しばらく間があった。


 「……そうだね。」


 もう1通来た。


 「なんかリュウって、当たり前のことを当たり前に言ってくれるよね。」


 「当たり前のことしか言えてないだけだ。」


 「でもそれが結構ありがたい。ありがとう。」


 (落ち着けアラフォー。)

 (「ありがとう」でこんなにテンションを上げるな。)


---


 8月3日。


 (俺の誕生日だ。)

 (38歳の誕生日は、一人でコンビニのケーキを食った。)

 (16歳の誕生日は、母が朝から張り切っていた。)


 朝ごはんのテーブルに、小さいケーキが置いてあった。


 「誕生日おめでとう。」


 母が言った。


 「ありがとう。」


 父がテレビを見ながら「おめでとう」と言った。

 短かった。でも悪意はない。


 (お父さん。)

 (今年も元気だ。ありがたい。)


---


 学校に着いたら、バータが生徒会室にいた。


 「連絡事項はないが、来た。」


 「来たなら何かしろ。」


 「まあ。」


 バータが封筒を差し出した。


 「なんだ。」


 「開けてみろ。」


 開けた。


 スタビのギフト券が入っていた。


 「……ありがとう。」


 「まあ。ユースケが言ってたから。」


 (ユースケがバータに流したのか。)


 「書類、手伝ったほうがいいか。」


 「封筒を並べるだけやってくれ。」


 「わかった。」


 バータが無言で封筒を並べ始めた。


 (バータ。こいつが誕生日を覚えてプレゼントを用意する。)

 (言葉は少ない。でも行動がある。)


---


 昼になってバータが帰った。


 昼過ぎ、フミからメールが来た。


 「誕生日か。」


 「そうだ。」


 「おめでとう。余計なことするな。」


 (フミの誕生日メッセージに「余計なことするな」が付いている。)

 (これはフミらしい。)


 「ありがとう。余計なことはしない。」


---


 夕方、書類を片付けて帰ろうとした。


 ガラケーをポケットに戻そうとした。


 もう1通届いていた。


 差出人を見た。


 京。


 (——。)


 開いた。


 「誕生日、おめでとう。」


 それだけだった。


 (誕生日を知っていた。)

 (キョンが、俺の誕生日を知っていた。)


 (いつ言ったんだ。)

 (でも——知っていた。)


 返信を打った。


 「ありがとう。知ってたのか。」


 5分ほど待った。


 返信が来た。


 「ミナミから聞いた。先週。」


 (ミナミ。)

 (お前は本当に、そういう仕事が速い。)


 「そっか。ミナミに感謝する。」


 「なんか今日どうするの?」


 「友達と飯食いに行く。」


 「そっか。楽しんで。」


 少し間があった。


 もう1通来た。


 「あと、展示会まで11日だね。」


 (——。)


 (展示会まで11日。)

 (キョンが、カウントしていた。)


 (落ち着けアラフォー。)

 (ガラケーを握りしめるな。)


 「そうだな。楽しみにしてる。」


 「私も。」


 (私も。)

 (落ち着けアラフォー。)


---


 夜、ユースケとロイヤルサイドに行った。


 「リュウ!!誕生日!!!」


 「声がでかい。」


 「でかくなる。誕生日だもん。」


 席に着いたら、ユースケが鞄からリストバンドを出した。


 「はい。誕生日プレゼント。毎朝走ってるって言ってたから。」


 「……ありがとう。使う。」


 「よかった!! じゃあ何食う!!」


 (今日は——悪くない誕生日だ。)

 (バータがギフト券を持ってきた。)

 (フミが「余計なことするな」と送ってきた。)

 (ユースケがリストバンドを用意してきた。)

 (そして——キョンが「おめでとう」を送ってきた。)

 (展示会まで11日、と添えて。)


 (俺はまだ言ってない。)

 (でも今日、キョンが知っていた。)

 (それだけで、今年の誕生日は十分だった。)


夏休み前半。ミナミから山岸の動向が届いて、キョンからは「当たり前のことを当たり前に言ってくれる」と言ってもらって、誕生日には4人それぞれの流儀でお祝いが来た。「展示会まで11日」をカウントして添えてくるキョン。次回、いよいよ展示会前夜へ。

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