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時をかけるアラフォー 〜あの子には性別がない〜  作者: 双子相
第2幕(ep20〜36)「3年生・勝負の年」
27/50

第27話 展示会の約束が成立した。ライバルの気配も成立した


 期末試験が終わった。


 7月に入った最初の週。

 廊下が急に明るくなった気がした。

 テスト期間中は誰もが一段暗い顔をしているが、答案を提出した瞬間から人間の顔が戻ってくる。


 (38歳から見れば高校の期末試験など大した問題ではない。)

 (ただし生徒会長として「できて当たり前」という目線がある。下手な点数は取れない。)

 (無事に乗り切った。)


---


 テスト終わりの昼休み。


 バータが「終わったああ!!」と廊下で叫んだ。


 「声でかい。」

 「うるせー!解放感!」


 バータが肩を組んでくる。

 大柄な体格でそれをされると、純粋に重い。


 「外れたよな、今年の数学。」

 「どのへんが?」

 「微分積分全然出なかった。俺が一番やったとこなのに。」


 (バータ。積分と微分は別物だ。)

 (でもここで言っても頭に入らない。)


 「今日の放課後、説明する。」

 「お、さすが会長。頼んだ!」


---


 昼休みの後半。


 ユースケが来た。


 「テスト、どうだった。」

 「普通に終わった。お前は。」

 「英語が死んだ。」


 「どのへんで。」

 「分詞構文。意味上の主語が変わるやつ。」


 「放課後に30分くれ。図解で説明する。」

 「ほんとか!助かる!」


---


 放課後。


 生徒会室でバータに積分の基礎を説明し、ユースケに分詞構文の仕組みを図で書いた。

 2人とも「あ、そういうことか」と言った。


 「バータ、もう一問解いてみろ。」

 「えー。」

 「解け。」


 バータが問題集を引っ張り出した。

 3分後、答えを見せてきた。


 「合ってる?」

 「合ってる。」

 「よっしゃ!俺バカだから心配してたんだよな。」


 ユースケが「ありがとな」と荷物をまとめた。

 バータも立ち上がった。


 「お前ほんと会長向きだよな。なんか、人が動きやすくなる感じ。押し付けじゃないっていうか。」


 「……そうか。」


 「まあ、お前みたいな先輩が会長やってくれてよかったわ。」


 ユースケが「ほんとに。」と頷いた。


 (2人とも、素直だ。)


 2人が出ていった。


---


 書類を整理していた。


 扉が開いた。


 キョンだった。


 「あ、まだいた。」


 「何だ。」


 「フミと一緒にいたんだけど、フミが先に行って。図書室行ったら満員で。」


 「どうぞ。」


 向かいの椅子に座った。

 ノートと参考書を広げている。


 しばらく静かだった。


---


 「ねえ。」


 10分ほどして、キョンが顔を上げた。


 「何。」


 「展示会の話、前にしたじゃん。」


 (来た。)


 「ああ。」


 「チケット、取ったんだよね。」


 「そうか。」


 「……1人で行くつもりだったんだけど。」


 キョンが少し止まった。


 「サナとか誘っても、あんまり興味なさそうで。服の話って、みんなに通じるわけじゃないから。」


 「ミナミは?」


 「方向音痴で代々木に行けない。」


 「リサは?」


 「本の話なら来るけど服はよくわかんないって。」


 キョンが手元のノートを見た。


 「……別に1人でも行けるんだけど。」


 (言うか。今度こそ、言うか。)


 「……俺、その日空いてるけど。」


 キョンが顔を上げた。


 「え。」


 「8月の半ばに予定はない。服のことは全然わからないけど、行けなくはない。」


 キョンが少し黙った。


 「……来る気、ある?」


 「ある。」


 「……じゃあ、一緒に行く?」


 「ああ。」


 キョンが少し笑った。


 (笑った。)

 (38歳のくせに高校生の笑い方でドキドキしている。)

 (情けない。でも止まらない。)


 「ありがとう。なんか、一緒に行ける人がいると安心するから。」


 「詳しい日時は、後で教えてくれ。」


 「うん。」


 キョンが視線をノートに戻した。


---


 翌日。


 昼休みにバータが走ってきた。


 「おい。聞いたか。」


 「何を。」


 「3Aの山岸が、橘さんのことかなり気にしてるって話。」


 (——止まった。)


 「誰から聞いた。」


 「ミナミ。ミナミが3Aだから。山岸が橘さんのこと聞いてたって。」


 「それだけか。」


 「え?ちょっと気にならない?」


 (気になる。全力で気になる。)


 「情報が少ない。それだけじゃ何も言えない。」


 「……お前、落ち着いてるな。」


 (落ち着いてない。落ち着けアラフォーを脳内で10回唱えてる。)


 「確認しに行って何になる。」


 「それはそうだけど。」


 「……ありがとう。」


 「おう。」


 バータが去った。


 (山岸。3Aの山岸。)

 (落ち着けアラフォー。)

 (落ち着けアラフォー。)


---


 放課後。


 生徒会の書類を片付けて廊下に出たら、フミがいた。


 「帰るか。」


 「ああ。」


 並んで歩いた。


 しばらく経って、フミが言った。


 「山岸の話、聞いたか。」


 「バータから聞いた。」


 「そうか。」


 「お前がどうするか決めることだ。俺が言えることはない。」


 「……わかってる。」


 「ただ。」


 フミが少し止まった。


 「何もしないまま夏が終わると、秋は違う景色になる可能性がある。それだけだ。」


 「わかった。」


 「そうか。」


 それだけだった。


---


 改札でフミと別れた。


 ホームで電車を待ちながら、ガラケーを出した。


 キョンからメールが来ていた。


 「展示会、8月14日の午前中。場所は代々木の会場。10時集合でどう?」


 (来た。もう日程が来た。)

 (「一緒に行く?」から半日も経っていない。)


 「了解。10時でいい。」


 少し経って返信が来た。


 「よかった。楽しみ。」


 (楽しみ。)

 (キョンが「楽しみ」と言った。)

 (落ち着けアラフォー。ガラケーをポケットにしまえ。)

 (ホームで1人でにやにやするな。)


 電車が来た。


 (秋は違う景色になる可能性がある。)

 (フミの一言が、頭から離れない。)


 電車に乗った。

 窓の外に、梅雨明け直前の空が広がっていた。

 濃い青だった。


 (夏が始まる。)


7月回でした。テスト終わりの解放感の中、2つの動きが重なりました。生徒会室でのキョンとの会話、そして展示会の約束。翌日バータが「聞いたか」と走ってくる。山岸の登場です。フミの「秋は違う景色になる可能性がある」が今回の核心。キョンから届いた「楽しみ。」の一言。次回、夏休みへ。

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