第27話 展示会の約束が成立した。ライバルの気配も成立した
期末試験が終わった。
7月に入った最初の週。
廊下が急に明るくなった気がした。
テスト期間中は誰もが一段暗い顔をしているが、答案を提出した瞬間から人間の顔が戻ってくる。
(38歳から見れば高校の期末試験など大した問題ではない。)
(ただし生徒会長として「できて当たり前」という目線がある。下手な点数は取れない。)
(無事に乗り切った。)
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テスト終わりの昼休み。
バータが「終わったああ!!」と廊下で叫んだ。
「声でかい。」
「うるせー!解放感!」
バータが肩を組んでくる。
大柄な体格でそれをされると、純粋に重い。
「外れたよな、今年の数学。」
「どのへんが?」
「微分積分全然出なかった。俺が一番やったとこなのに。」
(バータ。積分と微分は別物だ。)
(でもここで言っても頭に入らない。)
「今日の放課後、説明する。」
「お、さすが会長。頼んだ!」
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昼休みの後半。
ユースケが来た。
「テスト、どうだった。」
「普通に終わった。お前は。」
「英語が死んだ。」
「どのへんで。」
「分詞構文。意味上の主語が変わるやつ。」
「放課後に30分くれ。図解で説明する。」
「ほんとか!助かる!」
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放課後。
生徒会室でバータに積分の基礎を説明し、ユースケに分詞構文の仕組みを図で書いた。
2人とも「あ、そういうことか」と言った。
「バータ、もう一問解いてみろ。」
「えー。」
「解け。」
バータが問題集を引っ張り出した。
3分後、答えを見せてきた。
「合ってる?」
「合ってる。」
「よっしゃ!俺バカだから心配してたんだよな。」
ユースケが「ありがとな」と荷物をまとめた。
バータも立ち上がった。
「お前ほんと会長向きだよな。なんか、人が動きやすくなる感じ。押し付けじゃないっていうか。」
「……そうか。」
「まあ、お前みたいな先輩が会長やってくれてよかったわ。」
ユースケが「ほんとに。」と頷いた。
(2人とも、素直だ。)
2人が出ていった。
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書類を整理していた。
扉が開いた。
キョンだった。
「あ、まだいた。」
「何だ。」
「フミと一緒にいたんだけど、フミが先に行って。図書室行ったら満員で。」
「どうぞ。」
向かいの椅子に座った。
ノートと参考書を広げている。
しばらく静かだった。
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「ねえ。」
10分ほどして、キョンが顔を上げた。
「何。」
「展示会の話、前にしたじゃん。」
(来た。)
「ああ。」
「チケット、取ったんだよね。」
「そうか。」
「……1人で行くつもりだったんだけど。」
キョンが少し止まった。
「サナとか誘っても、あんまり興味なさそうで。服の話って、みんなに通じるわけじゃないから。」
「ミナミは?」
「方向音痴で代々木に行けない。」
「リサは?」
「本の話なら来るけど服はよくわかんないって。」
キョンが手元のノートを見た。
「……別に1人でも行けるんだけど。」
(言うか。今度こそ、言うか。)
「……俺、その日空いてるけど。」
キョンが顔を上げた。
「え。」
「8月の半ばに予定はない。服のことは全然わからないけど、行けなくはない。」
キョンが少し黙った。
「……来る気、ある?」
「ある。」
「……じゃあ、一緒に行く?」
「ああ。」
キョンが少し笑った。
(笑った。)
(38歳のくせに高校生の笑い方でドキドキしている。)
(情けない。でも止まらない。)
「ありがとう。なんか、一緒に行ける人がいると安心するから。」
「詳しい日時は、後で教えてくれ。」
「うん。」
キョンが視線をノートに戻した。
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翌日。
昼休みにバータが走ってきた。
「おい。聞いたか。」
「何を。」
「3Aの山岸が、橘さんのことかなり気にしてるって話。」
(——止まった。)
「誰から聞いた。」
「ミナミ。ミナミが3Aだから。山岸が橘さんのこと聞いてたって。」
「それだけか。」
「え?ちょっと気にならない?」
(気になる。全力で気になる。)
「情報が少ない。それだけじゃ何も言えない。」
「……お前、落ち着いてるな。」
(落ち着いてない。落ち着けアラフォーを脳内で10回唱えてる。)
「確認しに行って何になる。」
「それはそうだけど。」
「……ありがとう。」
「おう。」
バータが去った。
(山岸。3Aの山岸。)
(落ち着けアラフォー。)
(落ち着けアラフォー。)
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放課後。
生徒会の書類を片付けて廊下に出たら、フミがいた。
「帰るか。」
「ああ。」
並んで歩いた。
しばらく経って、フミが言った。
「山岸の話、聞いたか。」
「バータから聞いた。」
「そうか。」
「お前がどうするか決めることだ。俺が言えることはない。」
「……わかってる。」
「ただ。」
フミが少し止まった。
「何もしないまま夏が終わると、秋は違う景色になる可能性がある。それだけだ。」
「わかった。」
「そうか。」
それだけだった。
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改札でフミと別れた。
ホームで電車を待ちながら、ガラケーを出した。
キョンからメールが来ていた。
「展示会、8月14日の午前中。場所は代々木の会場。10時集合でどう?」
(来た。もう日程が来た。)
(「一緒に行く?」から半日も経っていない。)
「了解。10時でいい。」
少し経って返信が来た。
「よかった。楽しみ。」
(楽しみ。)
(キョンが「楽しみ」と言った。)
(落ち着けアラフォー。ガラケーをポケットにしまえ。)
(ホームで1人でにやにやするな。)
電車が来た。
(秋は違う景色になる可能性がある。)
(フミの一言が、頭から離れない。)
電車に乗った。
窓の外に、梅雨明け直前の空が広がっていた。
濃い青だった。
(夏が始まる。)
7月回でした。テスト終わりの解放感の中、2つの動きが重なりました。生徒会室でのキョンとの会話、そして展示会の約束。翌日バータが「聞いたか」と走ってくる。山岸の登場です。フミの「秋は違う景色になる可能性がある」が今回の核心。キョンから届いた「楽しみ。」の一言。次回、夏休みへ。




