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時をかけるアラフォー 〜あの子には性別がない〜  作者: 双子相
第2幕(ep20〜36)「3年生・勝負の年」
24/50

第24話 「なんでわかるの」の、最初のやつ


 5月の末。


 体育祭まであと2週間だった。


 生徒会室で書類をやっていたら、扉が開いた。


 キョンだった。


 「あ。まだいた。」


 「いる。何だ。」


 「図書室が満員で。サナに鍵もらったから。」


 「どうぞ。」


 向かいの椅子に座った。

 リュックを降ろして、スケッチブックと参考書と——あとは布の小さいサンプルを出した。


 (布のサンプル。)

 (何かを考えながら来た。)


 「なんの勉強だ。」


 「勉強じゃない。」


 「じゃあ何。」


 「……服の話。」


 スケッチブックを開いた。

 鉛筆で描かれたシルエット。

 1枚のブラウスが何パターンも並んでいた。


 「今作ってる服。」


 「どれも似てるが。」


 「微妙に違う。襟の形と裾の長さ。」


 (確かに違う。)

 (ただ見てもどれがいいかわからない。)

 (でも——一個だけ、目が止まるやつがある。)


---


 「どれにするか決まらなくて。」


 キョンが布のサンプルを並べた。

 白に近いベージュ。薄い。少し透ける。


 「この素材で作るつもりで。でもシルエットによっては、着心地が全然変わって。」


 「シルエットが着心地に影響するのか。」


 「素材が薄いから。体のラインが出やすい。ゆったりさせるか、ある程度フィットさせるか——」


 キョンが少し止まった。


 「……どっちにすればいいかわからない。」


 (落ち着けアラフォー。)

 (これは聞いてくれているのか。)

 (俺に。)


 (……聞いてくれている。)


---


 スケッチブックのパターンを改めて見た。


 (6パターン。)

 (全部見た。)

 (2026年のキョンが作っていた服を、俺は知っている。)

 (あのアカウントのプロフィールに貼ってあった服の写真。)

 (白に近いベージュ。薄い素材。ゆったりとしたシルエット。)

 (体のラインを出さない。でも貧相でもない。)

 (「着る人を選ばない」形。)


 (お前は20年後、このパターンに辿り着いている。)

 (今はまだ迷っている。)

 (でも答えは持っている。)


 (38歳の俺は、その答えを知っている。)

 (だから——言える。)


 「着心地を先にした方がいい。」


 キョンが顔を上げた。


 「……なんで即答なの?」


 「シルエットは後から調整できる。着てる感は変えにくい。」


 「……そう?」


 「薄い素材なら特に。最初の一着でフィットさせすぎると、着るたびに体のラインが気になる。」


 キョンが少し止まった。


 「……なんで知ってるの?」


 (なんで知ってるか。)

 (お前の20年後を知っているからだ。)

 (とは言えない。)


 「服を作ってる人が周りにいた。話を聞いてた。」


 「……誰が。」


 「遠い親戚。」


 (嘘じゃない。架空の話でもない。)

 (2026年のキョンは遠い親戚だ。)

 (タイムリープ的な意味で。)


 キョンが「ふうん」と言って、スケッチブックを見た。


 「……着心地を先に、か。」


 「お前が「着る人を選ばない服を作りたい」と言ってた。それならなおさらそうだと思う。」


 キョンが俺を見た。


 「……それ、最初に言ったときのこと覚えてる?」


 「覚えてる。生徒会室の片付けのとき。」


 「……なんで覚えてるの?」


 (落ち着けアラフォー。)

 (なんで覚えてるか、って。)

 (聞かれた。)


 「お前が話してくれたから。大事な話だったから。」


 キョンがまた少し止まった。

 スケッチブックを見たまま、何かを考えるような顔をした。


 (落ち着けアラフォー。)

 (このくらいで動揺するな。)

 (……全然落ち着けない。)


---


 「……決めた。」


 キョンが言った。


 「着心地を先にする。この素材なら、ゆったりめにした方がいい。」


 「そうだな。」


 「シルエットは後で考える。」


 「それでいい。」


 キョンがスケッチブックを閉じた。

 1枚のパターンを残した。


 (ゆったりめのやつだ。)

 (6枚の中で、俺が目に止まったやつだ。)

 (わかってた。)


 「選ぶの、早かったな。」


 「決め方を教えてもらったから。」


 「俺は何もしてない。」


 「してる。」


 キョンが少し俺を見た。


 「柳くんとか、リュウって、なんかそういうとこある。」


 「どういうとこ。」


 「……聞いてくれたあとで、答えを教えてくれる感じ。答えを押し付けてくるんじゃなくて。」


 (それが38歳の接し方というやつだ。)

 (20年分の人付き合いを経て、ようやく身についた。)

 (高校生の頃の俺にはなかった。)


 「そういうつもりはないが。」


 「そういうつもりじゃないから、そう見える。」


 (言い方が鋭い。)

 (落ち着けアラフォー。)


 「……参考書、やった方がいいぞ。」


 「うん。」


 キョンがスケッチブックと布のサンプルを片付けて、参考書を開いた。


 俺も書類に戻った。


 (38歳の俺は、2026年のキョンの服を知っている。)

 (それを言えないまま、こうして隣に座っている。)


 (おかしな話だ。)

 (でも——いい。)

 (今日、キョンが「決めた」と言った。)

 (俺の言葉で動いた。)


 (落ち着けアラフォー。)

 (それだけのことだ。)

 (それだけで、十分すぎる。)


 (俺はまだ言ってない。)

 (でも今日はキョンが自分から来た。)

 (服の話をした。聞いてくれた。)

 (それがまず、積み上がっている。)


第24話です。キョンが服のことで詰まっていた。リュウが「着心地を先に」と即答した。38歳の記憶の中に、2026年のキョンが作っていた服がある。だから答えが出た。「なんで覚えてるの?」「大事な話だったから」——このやりとりが今回の核心です。次回は体育祭本番へ。

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