第18話 先生に頼んで、クラスが決まった
卒業式から5日が経った。
3月20日。
クラス発表の日が来た。
フミとの経済勉強は2月から続けている。週1で小論文も見ている。クラス発表を待ちながら、俺はひたすら手を動かしていた。
先生への交渉は2月の最終週に終わっていた。「考えてみる」という言葉をもらって以来、返事を待っていた。結果は今日出る。
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廊下の掲示板に、名前が並んだ。
3年A組。
3年B組。
3年C組。
B組の列を上から確認した。
「柳龍」。
あった。
その5つ上に、「京」の文字があった。
少し下に、「早川沙奈」の名前もあった。
(あった。)
(落ち着けアラフォー。)
(掲示板の前でガッツポーズはするな。)
(——心の中の38歳がガッツポーズした。やめろ。)
廊下の向こうで、ユースケが声を上げた。
「リュウ!D組だった!理系!D組!!」
「それは最初からわかってただろ。」
「でもD組だ!昼に来るから!」
バータが少し離れたところにいた。
「俺はC組だった。まあ。」
「また昼休みに来い。」
「わかった。まあ。」
フミがどこかにいるはずだった。
探すと、掲示板から少し離れたところに立っていた。
目が合った。
フミがちょっとだけ頷いた。
俺も、ちょっとだけ頷いた。
(フミは全部わかってる。)
(言葉はいらない。)
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その夜、フミから電話が来た。
「クラス発表、見た。」
「見た。フミはAだな。」
「そうだ。……お前はBだ。」
「そうだ。」
少しの間があった。
「キョンもBだ。」
「そうだな。」
「……先生に頼んだのか。」
(——フミ。)
(言わなかったが、見抜いているのか。)
「頼んだ。」
「そうか。」
「何かまずいか。」
「まずくはない。」
また間があった。
「余計なことはするな、とは言った。」
「言った。」
「今回は——余計じゃないな。」
(フミが認めた。)
(余計じゃないと言った。)
「ありがとう。」
「礼はいい。3年、ちゃんとやれ。」
「やる。」
「あと——生徒会の仕事も増える。俺はAだから直接手伝えない場面が出てくる。そのつもりでいろ。」
「わかった。サナがBだから、サナに動いてもらう。」
「……早いな。」
「考えておいた。」
フミが「そうか」と言った。
今日の「そうか」は、信じていない「そうか」ではなかった。
電話が切れた。
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翌日の帰り、電車の中だった。
中丸駅で西都線に乗り換えた。
キョンが隣に来た。
「クラス発表、見た?」
キョンが言った。
「見た。」
「B組だったね。」
「俺も。」
少し間があった。
キョンが前を向いたまま、少しだけ首を動かした。
「……また同じクラスになったね。」
「そうだな。」
「また1年、よろしく。」
「こちらこそ。」
(落ち着けアラフォー。)
(「よろしく」の声が、少し柔らかかった。)
(気のせいじゃないと思う。気のせいかもしれない。)
(どっちでもいい。)
右のイヤホンが、無言で差し出された。
受け取った。
NOIR EDGEが流れ始めた。
冬が終わりかけていた。
窓の外の光が、2月より少しだけ明るかった。
(ここから先は、3年だ。)
(俺はまだ言ってない。)
(でも——3年になったら、キョンとの時間がまた変わる。)
(その日が来る。)
(まだだ。まだ言わない。)
(でも、来る。)
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春休みが始まった。
夜、「やり直しリスト」をもう一度見た。
7番:キョンに、ちゃんと言う準備をする
(準備は——できているのか。)
(完全にできているとは言えない。)
(でも——できないまま待ち続けることもない。)
(言う。)
(3年のどこかで、ちゃんと言う。)
(それが決意だ。今夜、そう決めた。)
(ただ——)
(「余計なことはするな」とフミに言われた。あれは正しかった。)
(でも今回の先生への交渉は「余計じゃない」とフミが言った。)
(フミは正確だ。あいつが余計じゃないと言うなら、余計じゃない。)
(だとすれば、8番も同じだ。余計じゃない。)
(だから消さない。消せない。)
ガラケーにメールを打った。
宛先:京
本文:「クラス発表、見た。また来月。」
送信した。
3分後に返信が来た。
「見た。よろしく。」
(よろしく。)
(たった4文字だが——キョンにしては饒舌な返信だ。)
(俺はまだ言ってない。)
(でも——「よろしく」と言ってくれた。)
(それだけで、今夜は十分だった。)
第18話です。卒業式から5日後、クラス発表。先生への交渉は2月末に済ませておいた——その結果がここで出ました。「今回は余計じゃないな」のフミの一言、「また同じクラスになったね」のキョンの声。ここまで来た。次回は春休みのカフェ。言いそうになって、止める話です。




