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時をかけるアラフォー 〜あの子には性別がない〜  作者: 双子相
第1幕(ep1〜19)「やり直し開始・2年生」
17/50

第17話 卒業式。キョンに「残してきたもの」と言った


 3月に入った。


 先生への交渉は、2月の最終週に済ませてあった。


 職員室の前で立花先生を捕まえて、生徒会の引き継ぎを名目に、キョンと同じクラスに入れてもらえないか確認した。先生は「文系が複数クラスできるなら、考えてみる」と言った。確約はない。でも可能性は作った。


 クラス発表は3月20日だ。

 それまでの間、毎日少しずつ何かを待っている感じがあった。


---


 3年生の卒業式があったのは、3月15日だった。


 在校生は式に参加する。

 体育館の後方に2年生が並んで、前方で3年生が証書を受け取るのを見る。

 それだけのことだが——俺には、普通の2年生と同じ視点では見られなかった。


 (38歳の記憶がある。)

 (今あの場所に立っている先輩たちのうち、何人かの「その後」を俺は知っている。)

 (知っているが——どの顔と名前が一致するかまでは覚えていない。)

 (だから知っているようで、知らないままでいるしかない。)


 整列した列の中で、前を見た。


---


 式が始まった。


 卒業生が入場した。

 担任に引率されて、整然と歩いてくる。


 在校生代表の送辞があった。

 卒業生代表の答辞があった。


 「——3年間、この学校で過ごしたことは、生涯忘れません——」


 (生涯忘れない。)

 (その言葉を、俺は38歳になってから何度聞いただろうか。)

 (でも——この瞬間の熱量は、本物だ。)

 (20年経っても忘れないことは、確かにある。)


 国歌斉唱のあと、会場がざわめいた。


---


 式が終わって、外に出た。


 3月の外気は冷たいが、日差しが強くなっていた。

 春の光だ。


 校庭に3年生が出てきた。

 卒業証書を持って、友達と写真を撮っている。

 泣いている子もいる。

 笑っている子もいる。


 (俺の卒業式は——どうだったか。)


 考えてみると、元の歴史の卒業式の記憶は、思ったより薄かった。

 「ごめん」を言ったあの日から半年後のことだ。

 あの頃の俺は、どこか上の空だった気がする。


 (今度は、ちゃんと迎えたい。)


 来年の自分たちの卒業式のことを、少しだけ思った。


---


 フミが隣に来た。


 いつの間にか並んでいた。


 「……リュウ。」


 「何。」


 「あの先輩。」


 フミが校庭の一点を顎で示した。


 長い黒髪の3年生の女の子が、先生と話していた。


 「誰だ。」


 「法学部志望の先輩。ゼミの見学に行ったとき話した。」


 「そうか。どんな人だった。」


 「……厳しい人だった。」


 フミが少し間を置いた。


 「でも、的確だった。何が足りないかを正確に指摘してくれた。」


 「いい先輩だったな。」


 「……そうだ。」


 また間があった。


 「なんか悔しかった。」


 「何が。」


 「的確に指摘されたことが。自分に足りないところがあることが、わかったから。」


 (フミが悔しいと言った。)

 (こいつが感情を言葉にするのは珍しい。)


 「それは——いいことだと思う。」


 「何が。」


 「足りないとわかれば、埋められる。わからないまま進むよりずっとましだ。」


 フミが前を向いたまま言った。


 「……そうだな。」


---


 別の場所で、バータが3年生の先輩に肩を組まれていた。


 「おい、馬場! 来年頑張れよ!!」


 「まあ。」


 「お前、起業するんだろ。絶対やれよ!」


 「俺バカだからよくわかんないけど、やる。」


 「バカとか関係ないって! 俺も応援してるから!」


 先輩が豪快に笑っていた。

 バータは淡々としていたが、少しだけ耳が赤かった。


 (バータ。)

 (お前は人に応援されている。)


---


 ユースケが走ってきた。


 「リュウ! さっきの件、報告!!」


 「ホワイトデーの件か。」


 「そう! 昨日また話せて、来月一緒にご飯行くことになった!!」


 (おっと。)

 (動いた。)


 「そうか。よかった。」


 「よかった、だけ!?」


 「あとは自分でやれ。」


 「リュウ冷たい! でも——ありがとう。バレンタインの後、言ってくれたこと。」


 「時間をかけても伝わる気持ちはある、か。」


 「そう。あれで動けた。」


 「よかったな。」


 「よかった!! 春だ!!」


 ユースケが叫んだ。


 (声がでかい。)

 (でも——まあ、今日くらいはいいか。)


---


 式の後半、在校生で片付けを手伝った。

 パイプ椅子を折りたたんで、台車に積む。


 キョンが近くにいた。


 「重いのは俺がやる。」


 「いい。私もできる。」


 「そうか。」


 並んで椅子を運んだ。


 しばらく無言で動いた。


 「来年、ここに立つんだね。」


 キョンが言った。


 「そうだな。」


 「なんか、実感ないな。」


 「今は実感がなくていい。」


 「……そっか。来年になったらわかるのかな。」


 椅子を積んだ。

 台車が重くなった。


 「先輩たちって、もう来ないんだよね。この場所には。」


 「毎年来る人もいれば、来ない人もいる。」


 「リュウはどっちだと思う。自分が卒業したら。」


 (俺は——。)


 (元の歴史では来なかった。一度も。)

 (でも、やり直した今は——)


 「来ると思う。」


 「なんで?」


 「ここに残してきたものがあるから。」


 キョンが少し首をかしげた。


 「残してきたもの?」


 「まだうまく言えないが——たぶん、そういうことだ。」


 キョンが「ふうん」と言った。

 今回のふうんは「それ以上聞かない」のではなく、「なんかわかる気がする」の「ふうん」だった。


 (俺には、その違いが少しずつわかるようになってきた。)


---


 帰り道。


 ユースケとバータとフミと、4人で駅まで歩いた。


 「来年はどうなるんだろうな。」


 ユースケが言った。


 「受験がある。」


 バータが言った。


 「それはわかってる。それ以外の話だ。」


 「……変わる。」


 フミが言った。


 「全部変わる。それだけだ。」


 「……そうだな。」


 「バータ。」


 「うん。」


 「お前は変わらないな。」


 「何が。」


 「何があっても『まあ』と言いそう。」


 「まあ。」


 ユースケが笑った。

 フミが口元を少し動かした。


---


 夜。


 自室の机で、「やり直しリスト」を見た。


 7番:キョンに、ちゃんと言う準備をする


 (クラス発表はまだ先だ。)

 (でも——先生には頼んだ。可能性は作った。)

 (あとは結果を待つだけだ。)


 (春が来る。)

 (3年が始まる。)

 (それからが、本番だ。)


 窓から外を見た。

 3月の夜風が、今日は少し温かかった。


第17話、卒業式です。先生への交渉は2月末に済ませてあった——という形でep18の時系列と繋げました。フミが「悔しかった」と言い、バータが耳を赤くし、ユースケが「春だ!!」と叫びました。橘さんが「残してきたもの、なんかわかる気がする」と言わなかったのに伝わりました。次回はクラス発表と春休みです。

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