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時をかけるアラフォー 〜あの子には性別がない〜  作者: 双子相
第1幕(ep1〜19)「やり直し開始・2年生」
16/50

第16話 ホワイトデー作戦会議を主導した


 3月14日。


 「柳くん! 今日! ホワイトデー!!」


 朝、教室に着いたら南さんが待ち構えていた。


 「知ってる。」


 「坂田くんが何か持ってくるか、今日決まる!!」


 「そうだな。」


 「緊張する!!!」


 (3つ感嘆符をつけた。南さんにしても多い。)


 「落ち着け。」


 「落ち着けない!!」


 (俺もよく言う言葉だが、他人に言われると確かに落ち着けないものだな。)


 「今日お前がやることを確認しよう。」


 「やること?」


 「坂田くんから何かもらったとき、何を言うかを決めておく。」


 「えっ、決めるの?」


 「決めておかないと焦って変なことを言う。」


 「……言うかも。」


 「言う。俺から見てお前はそういうタイプだ。」


 南さんが少し黙った。


 「ひどい。」


 「正確だ。」


 「……でも正確かも。」


 (わかってるなら準備ができる。)


 「『ありがとう。バレンタイン、喜んでもらえてよかった』と言え。それだけでいい。余計なことを言うな。」


 「余計なことって?」


 「『実は本命だったんですけど』は言うな。」


 「言おうとしてた!!」


 「やめろ。今日は受け取る回だ。次の機会に言えばいい。」


 南さんが「なんか作戦みたいだね」と言った。


 「作戦だ。」


 「柳くんって、なんかそういうの得意だよね。」


 「見聞きした範囲だ。」


---


 昼休み。


 購買で並んでいたら、ユースケがいた。


 手に小さな袋を持っていた。


 「ユースケ。」


 「……見るな。」


 「何だ。」


 「クッキーを買った。去年好きだった子に渡す。」


 (去年好きだった子。)

 (バレンタインで落ち込んでいたあの子か。)


 「渡せそうか。」


 「わからない。でも——リュウに『時間をかけても伝わる気持ちはある』って言われたから。」


 (ああ。あれを実行する気だ。)


 「頑張れ。」


 「応援だけ?」


 「それ以上何をしろというんだ。」


 「一緒に来てほしい。」


 「そこまでは無理だ。」


 「でしょ? 無理だよな。自分でやる。」


 「行ってこい。」


 「行ってくる。」


 ユースケが購買の列から抜けた。

 小さな袋を持って、廊下の向こうに消えた。


 (ユースケ。)

 (うまくいくといいな。)


---


 午後の授業が終わって、廊下を歩いていたら、南さんが走ってきた。


 「柳くん!!!!」


 (今日何回走ってくるんだ。)


 「もらった!!!!」


 「そうか。」


 「ちゃんと言えた!!!!」


 「よかった。」


 「『ありがとう。喜んでもらえてよかった』って言ったら、坂田くんが笑って『こっちこそ、また何かあれば』って!!!」


 (また何かあれば、か。)

 (脈がある。)


 「次の機会に繋がったな。」


 「繋がった!! どうしよう!!」


 「どうもしなくていい。今日は終わりだ。今日の達成分だけ受け取れ。」


 「受け取る!!」


 南さんがまた走って行った。

 どこに向かったのかはわからない。


 (南さん。)

 (お前は毎回走って来て走って行く。)

 (それだけエネルギーがあるのは羨ましい。)

 (38歳には、なかったものだ。)


---


 帰り際。


 フミが廊下にいた。


 珍しく、弁当箱を持っていない。

 手ぶらで壁にもたれていた。


 「フミ。」


 「今日は早く終わった。」


 「そうか。」


 「……ユースケが何かしていたな。」


 「見てたのか。」


 「廊下を通ったら目に入った。」


 (目に入る、か。)

 (フミには全部入ってくる。)


 「うまくいったかは聞いてない。」


 「俺も聞いてない。でも——なんか、よかった気がした。」


 フミが言った。


 感情的な言い方ではなかった。

 ただ、事実として言った。


 (フミ。)

 (お前が「よかった気がした」と言うのは珍しい。)


 「そうだな。」


 「今日はそれだけだ。」


 フミが歩き始めた。


---


 帰りの電車。


 今日はキョンと同じ車両に乗れた。


 「今日、なんか変な日だったな。」


 キョンが言った。


 「何があった。」


 「朝から廊下がそわそわしてた。」


 「ホワイトデーだから。」


 「そっか。南さんが騒いでたね。」


 「騒いでた。」


 「解決したの?」


 「解決した。」


 「よかった。」


 キョンが少し窓の外を見た。


 「柳くんって、なんかそういう相談、よく乗ってるよね。」


 「そうかもしれない。」


 「なんか、頼まれやすいんだろうな。」


 (頼まれやすい、か。)

 (38歳の落ち着きがそう見えるのかもしれない。)


 「頼まれれば乗る。それだけだ。」


 「……リュウっぽい。」


 (2回目だ。「リュウっぽい」は今日で2回目だ。)


 清峰駅が近づいた。


 「今日、ユースケが動いた。」


 「動いた?」


 「好きな子に、時間をかけてでも渡せると思って渡した。」


 「……なんか、いい話だね。」


 「そうだな。」


 「うまくいくといいね。」


 「そう思う。」


 扉が開いた。

 キョンが降りた。


 (俺はまだ言ってない。)

 (でも今日は——まあ、そういう日だった。)


 電車が動き始めた。


第16話、ホワイトデーです。南さんが「ありがとう。喜んでもらえてよかった」を実行できました。ユースケが自分でクッキーを買いに行きました。橘さんが「リュウっぽい」と言いました。2回目です。次回、卒業式があります。先輩たちが巣立ちます。

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