表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時をかけるアラフォー 〜あの子には性別がない〜  作者: 双子相
第1幕(ep1〜19)「やり直し開始・2年生」
13/50

第13話 フミが2度頼んできた日


 2月の最初の月曜日。


 当選から数日が経った。


 廊下を歩くと「会長」と呼ばれるようになった。

 1年の後輩が頭を下げてくる。

 クラスの連絡事項が増えた。


 (落ち着けアラフォー。)

 (「会長」という呼び名に38歳が照れている。)

 (慣れろ。)


 ユースケが「会長だ……」と廊下でつぶやくのを3日で5回聞いた。

 バータは「まあ、よかった」を今週で3回言った。


 (みんな、それぞれの言い方で祝ってくれている。)


---


 昼休み。


 生徒会室に行ったら、フミが先に来ていた。


 「来たか。」


 「来た。」


 フミが弁当箱を開けながら、少し間を置いた。


 「演説、よかった。」


 (フミが褒めた。)

 (フミが褒めた。)


 「……そうか。」


 「言葉が具体的だった。『みんなが使いやすい生徒会』じゃなくて、『連絡の仕組みを変える』と言った。あの具体性は、他の候補になかった。」


 (さすが弁護士志望。評価が精確だ。)


 「ありがとう。」


 「礼はいい。仕事をしろ。」


 「わかってる。」


 フミが卵焼きを箸で割った。


 「奨学金、書類通過した。」


 (おお。)


 「そうか! よかった。」


 「次の選考結果が来月出る。」


 「何か手伝えることがあれば言ってくれ。」


 フミが少し間を置いた。


 「……小論文の添削をやってほしい。」


 (来た。)

 (フミが頼んできた。)


 「わかった。いつでもいい。日程を決めよう。」


 「今週の水曜。」


 「わかった。」


 フミがおひたしを食べた。


 少しの間があった。


 「……経済は苦手だ。」


 「それも手伝えるか。」


 「法学部の入試で経済が要る。独学だと限界がある。」


 (SE時代に経済誌を毎月読んでいた俺には、得意分野だ。)


 「教える。週1でいいか。」


 フミが少し間を置いた。


 「……それでいい。」


 (フミがまた頼んできた。)

 (2回目だ。)

 (こいつが2度頼んでくる相手は、信頼している相手だ。)


 静かな昼休みだった。


 (フミ。)

 (お前が頼んでくれた。)

 (それだけで、今日の当選より少し、嬉しかった気がする。)


---


 午後の授業が終わって、廊下を歩いていたら、キョンがいた。


 サナと何かを話しながら歩いてきた。

 サナが先に気づいて、「あ、会長だ」と言った。


 (急に呼び方が変わった。)


 「呼び捨てでいい。」


 「いや待って、会長って呼んでみたかった。」


 (サナ。お前も意外とそういうことを言う。)


 キョンが少し俺を見た。


 「おめでとう。」


 「ありがとう。」


 「演説、聞いてたよ。」


 「そうか。」


 「連絡の仕組みを変えるって言ってたね。」


 「言った。」


 「……ちゃんとやれそうな感じがした。」


 (ちゃんとやれそうな感じ。)


 (落ち着けアラフォー。)

 (「ちゃんとやれそうな感じ」は、別に大した言葉じゃない。)

 (でも——キョンが言うとなぜか違う重量がある。)


 「ありがとう。やる。」


 「うん。」


 キョンがサナと一緒に歩き始めた。


---


 夕方の廊下で、バータに声をかけた。


 「会長、まあよかった。」


 「ありがとう。バータ——起業の話、今どこまで考えてる?」


 「資料はある。」


 「本当か。」


 「うん、ちゃんとある。見るか。」


 「来週の放課後に持ってこい。」


 バータが少し間を置いた。


 「……わかった。まあ。」


 (バータ。)

 (お前の「まあ」は全部本気だ。)

 (会長になった今、ちゃんと向き合える。)


---


 夜、自室で会長就任後のやることリストを作った。


 1. 生徒会室の掲示物を整理する

 2. 各クラスへの連絡手順をルール化する

 3. 学校行事の年間スケジュールを一覧化する

 4. フミの小論文添削サポートをする

 5. フミへの経済の勉強サポートを始める

 6. バータの起業相談に時間を作る

 7. ユースケの英語の進捗を確認する


 (6番と7番が一番生徒会と関係ない。でも外せない。)


 リストを眺めた。


 (38歳のSEが会長職を担当する。)

 (やれることがある。)

 (それだけで、十分じゃないかと思う。)


 リストの一番下に、一行付け足した。


 8. キョンに、ちゃんと言う準備をする


 (まだ言ってない。)

 (でも、8番は消さない。)


---


 翌朝の電車。


 清峰で乗ってきたキョンが、いつも通り右のイヤホンを外して差し出した。


 受け取った。

 耳に差した。


 音楽が流れた。

 NOIR EDGEだった。


 (俺は知っている。)

 (知っていて、毎回初めて聴くふりをしている。)

 (これが38歳のずるいところだ。)


 窓の外、2月の空が白い。


 (当選した。)

 (フミが頼んできた。)

 (キョンに「ちゃんとやれそう」と言われた。)


 (悪くない。)


 (俺はまだ言ってない。)

 (でも——今日も並んで電車に乗っている。)


4人全員キャラを発揮した回。フミが小論文添削と経済週一を頼んできました。こいつが二度頼む相手は信頼してる相手です。8番のメモが生まれた夜。

次回——バレンタイン。誤解と絡みが飛び流れます。「受け取ってくれる?」が来ます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ