第13話 フミが2度頼んできた日
2月の最初の月曜日。
当選から数日が経った。
廊下を歩くと「会長」と呼ばれるようになった。
1年の後輩が頭を下げてくる。
クラスの連絡事項が増えた。
(落ち着けアラフォー。)
(「会長」という呼び名に38歳が照れている。)
(慣れろ。)
ユースケが「会長だ……」と廊下でつぶやくのを3日で5回聞いた。
バータは「まあ、よかった」を今週で3回言った。
(みんな、それぞれの言い方で祝ってくれている。)
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昼休み。
生徒会室に行ったら、フミが先に来ていた。
「来たか。」
「来た。」
フミが弁当箱を開けながら、少し間を置いた。
「演説、よかった。」
(フミが褒めた。)
(フミが褒めた。)
「……そうか。」
「言葉が具体的だった。『みんなが使いやすい生徒会』じゃなくて、『連絡の仕組みを変える』と言った。あの具体性は、他の候補になかった。」
(さすが弁護士志望。評価が精確だ。)
「ありがとう。」
「礼はいい。仕事をしろ。」
「わかってる。」
フミが卵焼きを箸で割った。
「奨学金、書類通過した。」
(おお。)
「そうか! よかった。」
「次の選考結果が来月出る。」
「何か手伝えることがあれば言ってくれ。」
フミが少し間を置いた。
「……小論文の添削をやってほしい。」
(来た。)
(フミが頼んできた。)
「わかった。いつでもいい。日程を決めよう。」
「今週の水曜。」
「わかった。」
フミがおひたしを食べた。
少しの間があった。
「……経済は苦手だ。」
「それも手伝えるか。」
「法学部の入試で経済が要る。独学だと限界がある。」
(SE時代に経済誌を毎月読んでいた俺には、得意分野だ。)
「教える。週1でいいか。」
フミが少し間を置いた。
「……それでいい。」
(フミがまた頼んできた。)
(2回目だ。)
(こいつが2度頼んでくる相手は、信頼している相手だ。)
静かな昼休みだった。
(フミ。)
(お前が頼んでくれた。)
(それだけで、今日の当選より少し、嬉しかった気がする。)
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午後の授業が終わって、廊下を歩いていたら、キョンがいた。
サナと何かを話しながら歩いてきた。
サナが先に気づいて、「あ、会長だ」と言った。
(急に呼び方が変わった。)
「呼び捨てでいい。」
「いや待って、会長って呼んでみたかった。」
(サナ。お前も意外とそういうことを言う。)
キョンが少し俺を見た。
「おめでとう。」
「ありがとう。」
「演説、聞いてたよ。」
「そうか。」
「連絡の仕組みを変えるって言ってたね。」
「言った。」
「……ちゃんとやれそうな感じがした。」
(ちゃんとやれそうな感じ。)
(落ち着けアラフォー。)
(「ちゃんとやれそうな感じ」は、別に大した言葉じゃない。)
(でも——キョンが言うとなぜか違う重量がある。)
「ありがとう。やる。」
「うん。」
キョンがサナと一緒に歩き始めた。
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夕方の廊下で、バータに声をかけた。
「会長、まあよかった。」
「ありがとう。バータ——起業の話、今どこまで考えてる?」
「資料はある。」
「本当か。」
「うん、ちゃんとある。見るか。」
「来週の放課後に持ってこい。」
バータが少し間を置いた。
「……わかった。まあ。」
(バータ。)
(お前の「まあ」は全部本気だ。)
(会長になった今、ちゃんと向き合える。)
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夜、自室で会長就任後のやることリストを作った。
1. 生徒会室の掲示物を整理する
2. 各クラスへの連絡手順をルール化する
3. 学校行事の年間スケジュールを一覧化する
4. フミの小論文添削サポートをする
5. フミへの経済の勉強サポートを始める
6. バータの起業相談に時間を作る
7. ユースケの英語の進捗を確認する
(6番と7番が一番生徒会と関係ない。でも外せない。)
リストを眺めた。
(38歳のSEが会長職を担当する。)
(やれることがある。)
(それだけで、十分じゃないかと思う。)
リストの一番下に、一行付け足した。
8. キョンに、ちゃんと言う準備をする
(まだ言ってない。)
(でも、8番は消さない。)
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翌朝の電車。
清峰で乗ってきたキョンが、いつも通り右のイヤホンを外して差し出した。
受け取った。
耳に差した。
音楽が流れた。
NOIR EDGEだった。
(俺は知っている。)
(知っていて、毎回初めて聴くふりをしている。)
(これが38歳のずるいところだ。)
窓の外、2月の空が白い。
(当選した。)
(フミが頼んできた。)
(キョンに「ちゃんとやれそう」と言われた。)
(悪くない。)
(俺はまだ言ってない。)
(でも——今日も並んで電車に乗っている。)
4人全員キャラを発揮した回。フミが小論文添削と経済週一を頼んできました。こいつが二度頼む相手は信頼してる相手です。8番のメモが生まれた夜。
次回——バレンタイン。誤解と絡みが飛び流れます。「受け取ってくれる?」が来ます。




