第12話 生徒会長に当選した
1月の半ばから、廊下にポスターが貼られ始めた。
「生徒会長立候補 柳 龍(2年B組)」
(落ち着けアラフォー。)
(自分の名前がラミネートされて廊下に貼ってあるのは、38年生きて初めての体験だ。)
ユースケが隣で腕を組んで仁王立ちしていた。
「どうだ。写真が3割増しだと思わないか。」
「誰が撮ったんだよ。」
「俺。」
「なんで自慢顔なんだ。」
「3割増しになったじゃないか。」
(ユースケ。ありがとう。でも自慢顔はやめてくれ。)
バータが後ろから覗き込んできた。
「でかい。字が。」
「標準のサイズだよ。」
「まあ、いい意味でな。」
バータが腕を伸ばしてポスターを指した。
「キャッチフレーズ、なんて書いた。」
「「生徒会を動かす」。」
「シンプルだな。」
「難しいことは言わない方がいい。」
「俺でも言えそう。」
(お前に言えない言葉は書かない。そういうことだ。)
バータが「まあ」と言った。
「応援してる。俺バカだから投票の仕方わかるかな。」
「用紙に名前を書くだけだ。」
「よかった。それはできる。」
(頼むから他の候補に書くなよ。)
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フミが推薦文を持ってきたのは、翌日の昼休みだった。
「書いた。」
B4の用紙を1枚渡された。
ルーズリーフだった。
見た。
```
推薦理由(古川文)
1. 副会長として1年間、会議の進行と議事録の精度が高かった
2. 1年次の文化祭準備で納期を守った唯一の役員だった
3. 後輩への指示が具体的で怒らない
4. 今の会長が退任すれば惰性で動く可能性がある。それを変えられる候補が他にいない
```
(箇条書きだ。)
(「推薦文は箇条書きで出す」と言っていたが、本当に箇条書きだった。)
(でも4番が怖い。お前は本当に怖い。)
「……ありがとう。」
「4番は判断でいれた。削っていい。」
「削らない。」
「そうか。」
フミが弁当の蓋を閉めた。
「当選したら、具体的に何をやるつもりだ。」
「文化祭の予算配分を変える。去年は3年が使いすぎだった。」
「知ってる。それ以外は。」
「あとは……来年の自分たちが困らないような会議の仕組みを作る。毎年ゼロから始めてるのは無駄だ。」
フミが少し黙った。
「38歳みたいな発想だな。」
(——。)
(落ち着けアラフォー。)
「会社で働いてる親の話を聞いてたら自然とそうなった。」
「そうか。」
フミが俺の顔を1秒だけ見た。
「当選しろよ。」
それだけだった。
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選挙の日は、1月の末だった。
体育館に全校生徒が集まった。
3分間の演説時間が与えられた。
原稿を持たずに話した。
惰性の話をした。
前例の話をした。
「仕組みを作る」という話をした。
難しい言葉は使わなかった。
でも一つ一つ、言い切った。
体育館が静かだった。
「以上です。」
拍手が来た。
まあまあの音量だった。
(落ち着けアラフォー。)
(社内会議のプレゼンより全然楽だった。)
(なんだこれ。)
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結果が貼り出されたのは、翌朝だった。
「次期生徒会長 柳 龍」
「おおー!」
ユースケが廊下で声を上げた。
バータが後ろから俺の背中を叩いた。
「やったじゃないか。」
「痛い。」
「よかったな。」
フミが遠くから見ていた。
何も言わなかった。
でも少し、目が細くなった。
(フミ。それで十分だ。)
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帰りの電車だった。
中丸駅で西都線に乗り換えた。
キョンが隣に来た。
「……当選したって聞いたよ。」
キョンが言った。
前を向いたまま。
「うん。」
少し間があった。
「……すごいじゃん。おめでとう。」
(落ち着けアラフォー。0.5秒を数えるな。)
「やることが増えるだけだよ。」
「それが好きなんじゃないの?」
(そうかもしれない。)
「まあな。」
「……がんばれ。」
それだけだった。
でもキョンが「がんばれ」と言うのは、初めて聞いた気がした。
(俺はまだ言ってない。)
(でも「がんばれ」くらいは受け取っていい。)
右のイヤホンは、今日は差し出されなかった。
キョンはリュックからMDウォークマンを出して、一人で聴いていた。
(そういう日もある。)
(それでいい。)
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2月に入った。
3年の進路選択の用紙が配られた。
「文系・理系」を選ぶ紙だ。
(落ち着けアラフォー。)
(この用紙一枚で、来年のクラスが変わる。)
元の未来では、理系を選んだ。
キョンは文系だった。
3年は別のクラスだった。
(今回は、違う。)
用紙の「文系」に丸をつけた。
(落ち着けアラフォー。)
(文系で本当に困ることはない。経営学部を目指すなら当然の選択だ。)
(キョンと同じクラスになるのは、副次的なことだ。)
(副次的な。)
(……副次的、ということにしておこう。)
第12話です。選挙が終わりました。リュウが会長になりました。フミの箇条書き推薦文、4番が全部持っていきました。電車でキョンから「がんばれ」をもらった日。
次回——当選後。フミが奨学金を頼みに来ます。8番のメモが生まれる回。




