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時をかけるアラフォー 〜あの子には性別がない〜  作者: 双子相
第1幕(ep1〜19)「やり直し開始・2年生」
12/50

第12話 生徒会長に当選した


 1月の半ばから、廊下にポスターが貼られ始めた。


 「生徒会長立候補 柳 龍(2年B組)」


 (落ち着けアラフォー。)

 (自分の名前がラミネートされて廊下に貼ってあるのは、38年生きて初めての体験だ。)


 ユースケが隣で腕を組んで仁王立ちしていた。


 「どうだ。写真が3割増しだと思わないか。」


 「誰が撮ったんだよ。」


 「俺。」


 「なんで自慢顔なんだ。」


 「3割増しになったじゃないか。」


 (ユースケ。ありがとう。でも自慢顔はやめてくれ。)


 バータが後ろから覗き込んできた。


 「でかい。字が。」


 「標準のサイズだよ。」


 「まあ、いい意味でな。」


 バータが腕を伸ばしてポスターを指した。


 「キャッチフレーズ、なんて書いた。」


 「「生徒会を動かす」。」


 「シンプルだな。」


 「難しいことは言わない方がいい。」


 「俺でも言えそう。」


 (お前に言えない言葉は書かない。そういうことだ。)


 バータが「まあ」と言った。


 「応援してる。俺バカだから投票の仕方わかるかな。」


 「用紙に名前を書くだけだ。」


 「よかった。それはできる。」


 (頼むから他の候補に書くなよ。)


---


 フミが推薦文を持ってきたのは、翌日の昼休みだった。


 「書いた。」


 B4の用紙を1枚渡された。


 ルーズリーフだった。


 見た。


```

推薦理由(古川文)


1. 副会長として1年間、会議の進行と議事録の精度が高かった

2. 1年次の文化祭準備で納期を守った唯一の役員だった

3. 後輩への指示が具体的で怒らない

4. 今の会長が退任すれば惰性で動く可能性がある。それを変えられる候補が他にいない

```


 (箇条書きだ。)

 (「推薦文は箇条書きで出す」と言っていたが、本当に箇条書きだった。)

 (でも4番が怖い。お前は本当に怖い。)


 「……ありがとう。」


 「4番は判断でいれた。削っていい。」


 「削らない。」


 「そうか。」


 フミが弁当の蓋を閉めた。


 「当選したら、具体的に何をやるつもりだ。」


 「文化祭の予算配分を変える。去年は3年が使いすぎだった。」


 「知ってる。それ以外は。」


 「あとは……来年の自分たちが困らないような会議の仕組みを作る。毎年ゼロから始めてるのは無駄だ。」


 フミが少し黙った。


 「38歳みたいな発想だな。」


 (——。)


 (落ち着けアラフォー。)


 「会社で働いてる親の話を聞いてたら自然とそうなった。」


 「そうか。」


 フミが俺の顔を1秒だけ見た。


 「当選しろよ。」


 それだけだった。


---


 選挙の日は、1月の末だった。


 体育館に全校生徒が集まった。


 3分間の演説時間が与えられた。


 原稿を持たずに話した。


 惰性の話をした。

 前例の話をした。

 「仕組みを作る」という話をした。


 難しい言葉は使わなかった。

 でも一つ一つ、言い切った。


 体育館が静かだった。


 「以上です。」


 拍手が来た。

 まあまあの音量だった。


 (落ち着けアラフォー。)

 (社内会議のプレゼンより全然楽だった。)

 (なんだこれ。)


---


 結果が貼り出されたのは、翌朝だった。


 「次期生徒会長 柳 龍」


 「おおー!」


 ユースケが廊下で声を上げた。

 バータが後ろから俺の背中を叩いた。


 「やったじゃないか。」


 「痛い。」


 「よかったな。」


 フミが遠くから見ていた。

 何も言わなかった。

 でも少し、目が細くなった。


 (フミ。それで十分だ。)


---


 帰りの電車だった。


 中丸駅で西都線に乗り換えた。

 キョンが隣に来た。


 「……当選したって聞いたよ。」


 キョンが言った。

 前を向いたまま。


 「うん。」


 少し間があった。


 「……すごいじゃん。おめでとう。」


 (落ち着けアラフォー。0.5秒を数えるな。)


 「やることが増えるだけだよ。」


 「それが好きなんじゃないの?」


 (そうかもしれない。)


 「まあな。」


 「……がんばれ。」


 それだけだった。


 でもキョンが「がんばれ」と言うのは、初めて聞いた気がした。


 (俺はまだ言ってない。)

 (でも「がんばれ」くらいは受け取っていい。)


 右のイヤホンは、今日は差し出されなかった。

 キョンはリュックからMDウォークマンを出して、一人で聴いていた。


 (そういう日もある。)

 (それでいい。)


---


 2月に入った。


 3年の進路選択の用紙が配られた。


 「文系・理系」を選ぶ紙だ。


 (落ち着けアラフォー。)

 (この用紙一枚で、来年のクラスが変わる。)


 元の未来では、理系を選んだ。

 キョンは文系だった。

 3年は別のクラスだった。


 (今回は、違う。)


 用紙の「文系」に丸をつけた。


 (落ち着けアラフォー。)

 (文系で本当に困ることはない。経営学部を目指すなら当然の選択だ。)

 (キョンと同じクラスになるのは、副次的なことだ。)

 (副次的な。)

 (……副次的、ということにしておこう。)


第12話です。選挙が終わりました。リュウが会長になりました。フミの箇条書き推薦文、4番が全部持っていきました。電車でキョンから「がんばれ」をもらった日。

次回——当選後。フミが奨学金を頼みに来ます。8番のメモが生まれる回。

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