↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『僕が日常で壊れていくまで』  作者: こうた


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
77/80

第77話 気づかれたくない

「誰にも言わんかったら、大丈夫や」


そう言った翌朝。


たかしは目覚ましが鳴る前に目を覚ました。


眠った気がしなかった。


頭の中に。


昨日借りた十五万円が浮かんでいる。


そして。


まだ返していない借金も。


いくつもある。


---


スマートフォンを見る。


メッセージはない。


少し安心した。


誰からも何も聞かれない。


それだけで。


今日は大丈夫な気がした。


---


仕事へ向かう。


歩くたび。


足が痛む。


以前より痛みが長く続くようになっていた。


靴を脱いで確認すると。


傷の周りが赤くなっている。


「……帰ったら病院行くか」


そう思った。


けれど。


診察代を考えた。


そして。


「まあ、もうちょっと様子見よ」


と靴を履き直した。


---


昼休み。


同僚が言った。


「たかしさん、最近ちょっと痩せました?」


「そう?」


「顔色もあんまり良くないですよ」


たかしは笑った。


「夜勤続きやったからかな」


「ちゃんと食べてます?」


「食べてる食べてる」


また嘘。


---


午後。


仕事で小さなミスをした。


上司が確認する。


「ここ、数字違うで」


「すみません」


「最近どうしたんや?」


「寝不足で……」


「病院とか行ってる?」


「はい」


また。


嘘。


---


仕事が終わる。


上司が帰り際に言った。


「ほんまに無理するなよ」


「ありがとうございます」


たかしは頭を下げた。


---


帰宅途中。


スマートフォンが鳴った。


ひろしだった。


「たかし、今度飲もうや」


「いつ?」


「来週」


たかしはカレンダーを見る。


来週は。


仕事が減っている。


時間だけなら空いている。


でも。


金がない。


「……ちょっと今月きついわ」


初めて。


そう言いかけた。


---


しかし。


ひろしが言った。


「ええやん、俺が払うし」


「……」


たかしは黙った。


本当に払ってもらえばいい。


それでいいはずだった。


---


なのに。


胸がざわついた。


「いや……」


「ん?」


「俺も出すで」


「いやいや、今回は俺が出すって」


「大丈夫やって」


「たかし、最近ほんま大丈夫なんか?」


その言葉に。


たかしの心臓が跳ねた。


---


「大丈夫やで」


「ほんま?」


「ほんまほんま」


「ならええけど」


電話が切れる。


---


たかしは歩きながら。


何度もスマートフォンを見た。


気づかれた。


そう思った。


でも。


何に気づかれたのか。


自分でも分からない。


---


帰宅。


机の引き出しを開ける。


そこには。


請求書。


借入明細。


カード利用明細。


病院からの書類。


全部。


一つの封筒に入れていた。


たかしはそれを見た。


---


「……見られたら終わりや」


誰にも見られたくない。


だから。


引き出しの奥へ押し込む。


さらに。


その上に服を置く。


---


翌日。


なおとから連絡が来た。


『たかし、今度飯行こうや』


たかしは返信する。


『ええで』


『金大丈夫?』


その一文。


たかしの指が止まった。


---


なおとは続けて送ってきた。


『最近、たかしばっかり払ってるから、今回は俺が出すわ』


たかしは。


しばらく画面を見つめた。


優しい言葉だった。


本当に。


悪意なんてない。


---


だからこそ。


たかしは。


言えなかった。


「実は借金がある」


「給料が減った」


「病院にも行けていない」


「もう余裕がない」


---


代わりに。


『ありがとう』


と送った。


---


なおとから。


『無理すんなよ』


と返ってきた。


たかしは。


その文字を見て。


少し泣きそうになった。


---


無理している。


自分でも分かっている。


でも。


「無理してる」


と認めた瞬間。


全部が崩れそうだった。


だから。


認めない。


---


夜。


女性からメッセージ。


『来月、何着ていこうかな』


たかしは。


『何でも似合うと思うよ』


と返す。


『たかしさん、優しいですね』


その言葉。


たかしは何度も読み返した。


---


そして。


引き出しの中の請求書を見る。


女性の言葉を見る。


また請求書を見る。


---


「優しい」


その言葉を失いたくなかった。


---


だから。


たかしは決めた。


借金のことは。


絶対に言わない。


仕事が減ったことも。


言わない。


身体のことも。


言わない。


---


誰かに心配されることさえ。


怖くなっていた。


---


心配されれば。


本当のことを言わなければならない。


本当のことを言えば。


止められる。


止められたら。


友達との約束を守れない。


女性との約束も守れない。


必要とされなくなる。


---


だから。


たかしは。


誰にも気づかれないことを。


「安心」と思うようになった。


---


その夜。


引き出しを閉める。


鍵をかける。


そして。


ベッドに入る。


---


スマートフォンには。


友達からのメッセージ。


女性からのメッセージ。


全部。


普通の日常だった。


---


たかしは目を閉じる。


「俺は大丈夫」


小さく呟く。


けれど。


その言葉の本当の意味は。


もう。


「誰にも、本当の俺を見つけないでくれ」


に変わっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。