第71話 相談があります
翌朝。
たかしは職場へ向かった。
昨夜届いたメッセージが頭から離れない。
「来月の勤務について、少し相談があります」
何度も読み返した。
良い話ではない。
そんな気がしていた。
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出勤すると、上司から声をかけられた。
「たかしさん、ちょっといい?」
「はい」
事務所の奥へ移動する。
椅子に座る。
上司は少し言いにくそうな顔をしていた。
「来月なんだけどな」
「はい」
「仕事量がかなり減っていて……」
たかしは黙って聞いていた。
「勤務日数を、今月より減らすことになると思う」
予想していた。
それでも。
実際に言われると胸が重くなる。
「……どれくらいですか?」
「まだ確定じゃないけど、今の七割くらいになる可能性がある」
七割。
たかしの頭の中で数字が動いた。
今の給料。
そこから三割減る。
家賃。
返済。
食費。
大阪。
全部。
「分かりました」
「申し訳ない」
上司が言う。
たかしは反射的に、
「いえ、こちらこそすみません」
と言った。
上司が少し驚いた。
「いや、たかしさんが謝ることじゃないよ」
「……」
たかしは何も言えなかった。
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仕事が終わる。
帰り道。
スマートフォンを見る。
女性からメッセージ。
『今日もお仕事お疲れさまです』
たかしは笑った。
『ありがとう』
続けて、
『来月、会う日決めようか』
と届いた。
たかしは画面を見つめた。
「……」
嬉しい。
でも。
怖い。
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帰宅。
机に座る。
電卓を出す。
来月の予想収入。
現在の借金。
家賃。
食費。
光熱費。
返済。
計算する。
赤字。
かなりの赤字。
大阪へ行く以前に。
普通に生活するだけでも足りない。
たかしは椅子にもたれた。
「……どうすんねん」
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スマートフォンを見る。
女性から、
『どうしました?』
と来ていた。
たかしは、
『なんでもないよ』
と返信した。
『無理してませんか?』
その言葉に。
たかしの指が止まった。
無理している。
間違いなく。
でも。
『大丈夫』
と送った。
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その瞬間。
自分自身に腹が立った。
また。
大丈夫。
何も大丈夫ではないのに。
なぜ。
いつも同じ言葉を使ってしまうのか。
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たかしは財布を開いた。
中にあるカード。
借入用のカード。
クレジットカード。
銀行カード。
どれも。
「まだ使える」。
そのことが。
怖い。
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その夜。
たかしは布団の中で考えた。
もし。
大阪へ行かなければ。
女性に会わなければ。
プレゼントを買わなければ。
少なくとも。
これ以上の支出は抑えられる。
でも。
女性から、
「会いたい」
と言われている。
その言葉を断ることが。
できなかった。
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翌日。
女性から、
『日にち決まりました!』
とメッセージが来た。
『来月○日どうですか?』
たかしはカレンダーを確認する。
その日は仕事だった。
勤務表を見る。
休めば行ける。
休めば。
給料はさらに減る。
それでも。
たかしは、
『大丈夫。その日行くよ』
と送った。
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送信した直後。
胸が苦しくなった。
また約束した。
また。
未来の自分に負担を押しつけた。
でも。
返信が来た。
『やった!楽しみです』
たかしは画面を見て。
笑った。
その笑顔を見た瞬間。
すべての不安が一瞬だけ消えた。
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その日の夜。
たかしは借入アプリを開いた。
150,000円。
入力する。
確認画面。
そして。
今回は。
すぐにボタンを押さなかった。
長い時間。
画面を見つめる。
「……」
借りれば。
会える。
借りなければ。
会えない。
そんな二択に。
いつの間にかなっていた。
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たかしはスマートフォンを置いた。
「今日はやめとこ」
そう言った。
そして。
紙に書いた。
「大阪に行かない方法」
その下に。
一つ目。
「会うのを断る」
二つ目。
「自分で払わない」
三つ目。
「お金を借りない」
たかしは三つ目を丸で囲んだ。
そして。
その紙を机の前に貼った。
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翌朝。
目を覚ます。
紙を見る。
「お金を借りない」
たかしは少し笑った。
「これでええ」
しかし。
出勤途中。
スマートフォンが鳴った。
女性からだった。
『昨日、友達にたかしさんのこと話したんです』
たかしは画面を見る。
続いて。
『すごく優しい人だって言われました』
たかしの胸が熱くなった。
そして。
最後の一文。
『また、プレゼント欲しいなって思っちゃいました』
たかしは立ち止まった。
貼り紙の言葉が。
頭から消えていく。
「……」
スマートフォンを握る手に。
力が入った。
そして。
たかしは。
再び借入アプリを開いた。




