第70話 二人で会うために
朝。
たかしはホテルのベッドで目を覚ました。
カーテンの隙間から、大阪の光が差し込んでいる。
まだ頭がぼんやりしていた。
スマートフォンを手に取る。
通知が一件。
昨夜の女性からだった。
『今度、二人で会えませんか?』
たかしは動きを止めた。
「……二人で?」
何度も読み返す。
胸が高鳴る。
昨日までとは違う。
友達の集まりではない。
二人。
自分と彼女だけ。
たかしはしばらく返信できなかった。
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『もちろん』
ようやく送る。
数秒。
既読。
『嬉しいです』
その返信を見た瞬間。
たかしは笑った。
自然と笑顔になっていた。
「……よかった」
そして。
次のメッセージ。
『今度は私が払います』
たかしは画面を見つめた。
一瞬。
嬉しかった。
同時に。
少しだけ不安になった。
『気にせんでええよ』
そう送る。
すると。
『でも、いつもたかしさんに払ってもらってるから』
たかしは返事を考えた。
「いつも……」
まだ二回だ。
しかし。
彼女にとっては。
すでに、
「たかしが払う」
ことが当たり前になりつつある。
そのことに。
たかし自身も気づいた。
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ホテルを出る。
北海道へ戻るため、駅へ向かう。
電車の中でも。
ずっとメッセージを読み返していた。
二人で会う。
その言葉だけが頭の中に残っている。
しかし。
ふと。
現実が戻ってくる。
財布。
借金。
仕事。
そして。
来月の返済。
たかしは銀行アプリを開いた。
残高を見る。
昨日の支払いで減っている。
「……」
さらに。
カードの利用額を確認する。
昨日の八万九千円。
プレゼント。
交通費。
ホテル。
合計すると。
かなりの金額。
たかしは画面を閉じた。
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北海道へ向かう列車。
窓の外は雪だった。
たかしは眠れなかった。
女性からのメッセージを見る。
『次はいつ会えますか?』
たかしは嬉しくなった。
『来月なら……』
そこまで入力する。
しかし。
来月。
仕事は減る。
返済もある。
大阪へ行けば。
また交通費がかかる。
ホテルも必要。
食事も必要。
そして。
二人で会うなら。
当然、自分が払うつもりだった。
たかしは電卓を開いた。
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交通費。
ホテル。
食事。
プレゼント。
最低でも十万円。
余裕を持つなら。
十五万円。
たかしは数字を見つめる。
「……」
そして。
借入アプリを開いた。
借入可能額。
まだ表示されている。
たかしの指が止まる。
「また……?」
自分でも分かっていた。
ここで借りたら。
また同じことになる。
それでも。
女性からの、
『次はいつ会えますか?』
という言葉が頭に浮かぶ。
自分を必要としてくれている。
会いたいと言ってくれている。
その気持ちを失いたくなかった。
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たかしは画面を閉じた。
「まだ借りん」
そう決めた。
今度こそ。
自分の給料から出す。
少しずつ貯めればいい。
そう思った。
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帰宅。
部屋に入る。
机の上には。
請求書が並んでいる。
たかしは椅子に座った。
一枚ずつ確認する。
返済日。
家賃。
光熱費。
食費。
そして。
カードの請求。
昨日の八万九千円。
たかしは息を吐いた。
「……」
数字を見るほど。
現実が重くなる。
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そのとき。
スマートフォンが鳴った。
彼女から。
『今日は帰るんですよね?』
『うん』
『気をつけて帰ってくださいね』
『ありがとう』
『また連絡します』
たかしは笑った。
そして。
無意識に言った。
「ありがとう」
誰もいない部屋で。
一人で呟いた。
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数日後。
給料日。
たかしは銀行口座を確認した。
残高は。
予想以上に少なかった。
勤務日数が減った。
それに加えて。
大阪で使った金。
返済。
生活費。
計算すると。
来月まで持たない。
たかしは椅子に座ったまま動けなくなった。
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その日の夜。
彼女からメッセージが届いた。
『来月、いつ会えますか?』
たかしは画面を見つめる。
返信欄を開く。
『まだ分からない』
と入力。
しかし。
消した。
『予定確認してみるね』
送信。
すぐに返事。
『楽しみにしてます』
たかしは笑った。
そして。
机の上の請求書を見る。
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「……どうしよう」
初めて。
たかしは声に出した。
これまでは。
「大丈夫」
だった。
でも。
今回は違う。
大丈夫ではない。
明らかに。
お金が足りない。
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たかしは銀行アプリを開いた。
借入画面を見る。
金額を入力する。
150,000円。
指が止まる。
「……」
画面には、
「この金額を借りる」
という確認が表示されている。
たかしは目を閉じた。
そして。
頭の中に、彼女の言葉が浮かんだ。
「楽しみにしてます」
たかしは目を開けた。
指を動かす。
しかし。
その直前。
スマートフォンに別の通知が届いた。
職場からだった。
たかしは画面を開く。
そこには。
「来月の勤務について、少し相談があります」
と書かれていた。
たかしは。
借入画面と職場からのメッセージを。
交互に見つめた。
そして初めて。
自分が立っている場所が。
思っていたよりずっと危険なところだったことに。
気づき始めた。




