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『僕が日常で壊れていくまで』  作者: こうた


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第69話 断れない約束

大阪へ行く前日。


たかしは仕事を終えると、まっすぐ家へ帰った。


玄関を開ける。


静かな部屋。


誰もいない。


たかしは靴を脱ぎ、机の上に置いたバッグを見る。


明日の準備はできている。


財布。


スマートフォン。


充電器。


薬。


そして。


小さなプレゼントの箱。


「……」


箱を手に取る。


明日、これを渡す。


それだけを考えると、不思議と気持ちが軽くなった。


---


スマートフォンが鳴った。


りょうたからだった。


『明日、何時に来る?』


たかしは時間を確認する。


『昼過ぎには着く』


『了解。夜は七時からな』


『分かった』


少しして。


『一応、女の子も来るから』


たかしは、


『ありがとう』


と返した。


すると。


『たかし、楽しみにしすぎやろ笑』


と返ってきた。


たかしも笑った。


『まあな』


---


その夜。


たかしは財布の中身を確認した。


現金。


カード。


そして借金。


スマートフォンで銀行口座を見る。


残高は少ない。


けれど。


大阪へ行くための金は確保してある。


「これで最後」


たかしは呟いた。


大阪へ行くのも。


借金するのも。


無理をするのも。


これで最後。


そう決めた。


---


翌朝。


北海道は冷えていた。


たかしは厚着をして家を出る。


駅まで歩く。


足が痛い。


何度か立ち止まる。


それでも戻らない。


「約束したから」


それだけを考える。


---


移動中。


女性からメッセージが来た。


『今日楽しみです』


たかしはすぐに返信した。


『俺も』


そして。


『気をつけて来てな』


送信。


すぐに返事。


『ありがとうございます』


また。


ありがとう。


たかしは笑った。


---


大阪に着いた。


駅の人混み。


懐かしい景色。


たかしは少しだけ胸を張った。


スマートフォンを見る。


りょうたから、


『今どこ?』


『着いた』


『じゃあホテル寄って荷物置いたら店な』


『了解』


たかしは歩き出した。


---


ホテルに荷物を置く。


部屋に入り。


鏡を見る。


少し疲れている。


髪を整える。


服を確認する。


そして。


バッグからプレゼントを取り出した。


「……よし」


箱を見つめる。


これを渡したら。


喜んでくれる。


きっと。


そう思った。


---


夜。


店に入る。


五人が集まっていた。


「たかし!」


「久しぶり!」


「元気やったか?」


「うん」


たかしは笑った。


女性も来ていた。


前回と同じ女性。


たかしの顔が明るくなる。


「こんばんは」


「こんばんは」


女性が笑う。


その笑顔だけで。


たかしは今日ここへ来た意味があったと思った。


---


しばらくして。


たかしはプレゼントの箱を取り出した。


「これ」


女性が驚く。


「私に?」


「うん」


「開けていいですか?」


「もちろん」


箱を開ける。


女性の顔が明るくなる。


「えっ……かわいい」


「よかった」


「ありがとうございます」


その言葉。


たかしは笑った。


「どういたしまして」


女性は何度も箱を見る。


「大事にします」


たかしは嬉しかった。


二万四千円。


高かった。


でも。


今は。


その金額が安く感じた。


---


友達が笑う。


「たかし、ほんま優しいな」


「昔からやで」


「ほんま変わらんな」


たかしは笑った。


でも。


胸の奥では。


少しだけ違和感があった。


昔と今。


何が違うのだろう。


答えは分からない。


---


酒が進む。


料理が並ぶ。


女性が笑う。


たかしも笑う。


そして。


店員が伝票を持ってくる。


りょうたが見る。


「結構いったな」


たかしは伝票を見る。


金額。


八万九千円。


前回ほどではない。


たかしは財布を出した。


「俺が払う」


りょうたが止める。


「今日は割り勘でええって」


「いや」


たかしは首を振った。


「俺が出す」


「たかし」


「大丈夫」


また。


その言葉。


---


誰も強く止めなかった。


「じゃあ……悪いな」


たかしはカードを出した。


決済。


八万九千円。


終わった。


---


店を出る。


女性が、


「今日は本当にありがとうございました」


と言った。


たかしは笑う。


「また会おうな」


「はい」


女性は笑った。


たかしは、その笑顔を見ていた。


そして。


ふと。


昨日までの自分を思い出した。


請求書。


病院。


借金。


仕事。


全部が頭をよぎる。


それでも。


今は幸せだった。


---


ホテルに戻る。


財布を開く。


ほとんど残っていない。


たかしはベッドに座った。


スマートフォンを見る。


女性からメッセージ。


『今日はありがとうございました。プレゼント、本当に嬉しかったです』


たかしは何度も読み返した。


そして。


『こちらこそありがとう』


と返す。


---


スマートフォンを置く。


静かな部屋。


たかしは天井を見る。


今日使った金。


プレゼント。


食事。


交通費。


ホテル。


全部合わせれば。


かなりの金額だ。


借金も増えた。


でも。


たかしは笑った。


「……楽しかったな」


そして。


もう一度。


自分に言い聞かせる。


「これで最後や」


その言葉を。


今度こそ本気で信じようとした。


しかし。


翌朝。


たかしのスマートフォンに届いた一通のメッセージが。


その決意を簡単に揺らすことになる。


『今度、二人で会えませんか?』

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