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『僕が日常で壊れていくまで』  作者: こうた


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第64話 返事が来ない

朝から、たかしはスマートフォンを何度も確認していた。


女性からの返信はない。


昨日の夜。


「また会いたいです」


そう言ってくれた。


だから、たかしは安心していた。


きっと、また連絡が来る。


そう思っていた。


しかし。


午前九時。


来ない。


午前十一時。


来ない。


昼になっても。


来ない。


「……忙しいんかな」


自分に言い聞かせる。


---


たかしは、昨日の会話を思い出していた。


笑っていた。


楽しそうだった。


アクセサリーを渡したときも、


「ありがとうございます」


と言ってくれた。


そして最後に、


「また会いたいです」


と言った。


たかしは、その言葉を何度も思い出した。


「嘘やないよな……」


スマートフォンを見る。


通知はない。


---


午後。


たかしは大阪の街を一人で歩いていた。


本当なら北海道へ帰る準備をするはずだった。


しかし。


帰りたくなかった。


帰れば。


仕事。


借金。


病院。


生活。


全部が待っている。


大阪にいる間だけは。


それらを忘れられる。


だから。


たかしは喫茶店に入った。


窓際の席に座る。


コーヒーを注文する。


スマートフォンをテーブルに置く。


五分。


十分。


何度も画面を見る。


何もない。


---


そのとき。


りょうたから電話が来た。


「たかし、今どこ?」


「大阪」


「まだおるん?」


「うん」


「今日帰るんちゃうかった?」


「……まあ」


りょうたが笑う。


「昨日楽しかったから、もう一泊する?」


たかしは一瞬迷った。


ホテル代がかかる。


帰りの交通費も必要。


財布には三万六千円しかない。


でも。


「……そうしようかな」


と言ってしまった。


「じゃあ夜、また飲む?」


「うん」


電話を切る。


たかしは財布を見た。


「……まあ、なんとかなる」


また。


同じ言葉だった。


---


夜。


りょうたたちと合流する。


「たかし、今日も来たんか」


「うん」


「好きやなあ」


笑い声。


たかしも笑った。


店に入る。


今夜も酒を飲む。


しかし。


昨日とは違った。


たかしは何度もスマートフォンを見る。


女性からの連絡を待っている。


来ない。


「どうした?」


りょうたが聞く。


「いや、なんでもない」


「女の子から連絡待ってるん?」


「……まあ」


「焦るなって」


りょうたは笑った。


「また会えるやろ」


「……うん」


---


二時間後。


会計。


今回は、りょうたたちも払うと言った。


「今日は俺らも出すわ」


たかしは少しホッとした。


「ありがとう」


財布を出そうとした。


しかし。


りょうたが止めた。


「今日はええって」


「でも……」


「昨日たかしが出してくれたやん」


たかしは黙った。


「……うん」


それで終わった。


誰もたかしを責めていない。


むしろ。


助けてもらった。


それなのに。


たかしの胸には、別の感情が生まれていた。


申し訳ない。


まただ。


---


ホテルに戻る。


ベッドに座る。


スマートフォンを見る。


まだ返信はない。


たかしは女性へメッセージを送った。


『今日はどうしてる?』


送信。


既読にならない。


数分後。


また送ろうとして。


やめた。


「……しつこいよな」


スマートフォンを置く。


---


午前一時。


通知音。


たかしは飛び起きた。


女性からだった。


『昨日はありがとうございました』


たった一文。


たかしは何度も読む。


そして返信する。


『こちらこそ。楽しかった。また会いたい』


既読。


しばらくして返信。


『ありがとうございます』


それだけ。


たかしは画面を見つめた。


「……」


昨日とは違う。


「また会いたいです」


今日は書いていない。


たかしは不安になった。


---


数分後。


りょうたからメッセージ。


『女の子、また会いたいって言ってたで』


たかしは驚いた。


『ほんま?』


『うん』


『いつ?』


しばらく返信がない。


そして。


『また予定合わせるって』


たかしはホッとした。


「よかった……」


その一言が出た。


---


しかし。


その安心と同時に。


別の考えが浮かんだ。


――また会うなら。


――また金が必要になる。


たかしは財布を見る。


残り。


三万六千円。


北海道へ帰る交通費。


生活費。


借金返済。


そして。


次に会うためのお金。


「……足りへんな」


たかしは呟いた。


---


翌朝。


たかしはホテルをチェックアウトした。


財布の中身を確認する。


残金は、さらに減っている。


帰りの交通費を払う。


残りはわずか。


北海道へ戻れば。


また借金の返済が待っている。


仕事も減っている。


それでも。


スマートフォンには、りょうたからのメッセージ。


『また大阪来いよ』


たかしは画面を見た。


そして。


少し考えてから、


『うん』


と返信した。


その瞬間。


たかしの頭に、昨日の女性の笑顔が浮かんだ。


そして。


無意識に、借入アプリを開いていた。


借りられる金額が表示されている。


たかしは画面を見つめた。


まだ。


借りられる。


指が。


ゆっくりと、


「借入」


のボタンへ近づいていった。

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