第57話 初めての拒絶
朝。
たかしは目覚ましが鳴る前に目を覚ました。
身体が重い。
頭も痛い。
昨夜の酒が残っている。
「……しんど」
ベッドから起き上がろうとした。
足に力が入らない。
しばらく座ったまま動けなかった。
今日は、ひろしとの約束がある。
スマートフォンを見る。
午前七時。
メッセージが届いていた。
『昨日ありがとな!今日もよろしく!』
たかしは画面を見つめた。
「……今日もか」
昨日の夜。
りょうたと飲んだ。
かなり金を使った。
身体も限界に近い。
それでも今日はひろしとの約束。
たかしは立ち上がった。
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ホテルを出る。
外は冷たい。
大阪の街を歩く。
北海道ほどではない。
それでも、身体の芯に疲労が残っている。
駅へ向かう途中。
たかしはコンビニに入った。
水を買う。
財布を開く。
昨日より軽くなっている。
「……」
残りの金額を確認する。
あと何日、この金で過ごせるのか。
考えたくなかった。
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昼。
ひろしと合流した。
「おう、たかし!」
「久しぶり」
「昨日も飲んだんやろ?」
「うん」
「元気やなあ」
ひろしが笑う。
たかしは笑えなかった。
「ちょっと疲れてる」
「まあまあ、今日はゆっくり飲もうや」
店に入る。
注文する。
酒。
料理。
追加注文。
たかしはほとんど食べられなかった。
ひろしが聞く。
「どうしたん?」
「いや、ちょっと胃が……」
「大丈夫か?」
「大丈夫」
また言った。
大丈夫。
本当は大丈夫ではない。
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夕方。
会計。
ひろしが伝票を見る。
「結構いったな」
たかしは財布を取り出した。
「割り勘でええやろ」
「うん」
たかしが支払う。
昨日に続いて、また金が減る。
店を出た。
ひろしが言った。
「次どうする?」
たかしは黙った。
「もう一軒行こうや」
その言葉を聞いた瞬間。
身体の中に嫌な感覚が広がった。
昨日も同じだった。
そして明日も予定がある。
さらに明後日も。
「……ひろし」
「ん?」
「今日は、もう帰ってもええ?」
ひろしが少し驚いた。
「え?」
「ちょっと疲れてるから」
「なんや、付き合い悪いな」
笑いながら言った。
冗談だった。
たかしにも分かっていた。
ひろしに悪意はない。
それでも。
その言葉が胸に刺さった。
「……ごめん」
「いやいや、冗談やって」
「うん」
ひろしは笑っている。
「じゃあ、また明日な」
「……うん」
たかしは一人になった。
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駅へ向かう。
歩きながら。
さっきの言葉が頭から離れない。
付き合い悪いな。
たったそれだけ。
それなのに。
胸が苦しい。
「……俺、付き合い悪くなったんかな」
スマートフォンを見る。
明日の予定。
なおと。
その次はながと。
その次はまさと。
たかしは考えた。
明日も飲んだら。
また金が減る。
身体も限界になる。
そして仕事も休まなければならない。
「……」
立ち止まった。
初めて。
自分から約束を断ることを考えた。
なおとに電話する。
呼び出し音。
「もしもし?」
「なおと?」
「おう。どうした?」
「明日のことなんやけど……」
「ん?」
たかしは息を吸った。
「ごめん。明日、行けへん」
沈黙。
数秒。
なおとが言った。
「え?」
「ちょっと体調悪くて」
「大丈夫か?」
「うん。でも、休みたい」
「そっか」
意外だった。
怒られると思っていた。
責められると思っていた。
しかし。
なおとは、
「無理すんなよ」
と言った。
「……ありがとう」
「また今度な」
「うん」
電話が切れる。
たかしはその場に立ち尽くした。
「……怒られへんかった」
それだけだった。
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ホテルに戻る。
ベッドに座る。
スマートフォンを見る。
なおとから追加のメッセージ。
『ほんまに無理すんなよ』
たかしは何度もその文章を見た。
胸の奥が少しだけ軽くなった。
「断っても……嫌われへんのかな」
初めてそう思った。
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しかし。
その夜。
ながとから電話が来た。
「たかし、明日どうする?」
「……」
たかしは答えられなかった。
「来るやろ?」
「……」
「久しぶりやし」
たかしは黙った。
今日。
なおとには断れた。
だから。
ながとにも断ってみよう。
そう思った。
「ごめん」
「ん?」
「明日も……やめときたい」
電話の向こうが静かになる。
「……なんで?」
「ちょっと疲れてて」
「そっか」
ながとの声が少し低くなった。
「最近、付き合い悪くない?」
胸が締めつけられる。
また。
その言葉。
たかしは黙った。
「……ごめん」
「いや、別にええけど」
電話が切れた。
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たかしはスマートフォンを握ったまま動けなかった。
断った。
でも。
嫌な気分だった。
胸が痛い。
息苦しい。
「……俺が悪いんかな」
ホテルの壁を見る。
なおとは優しかった。
ながとは少し不満そうだった。
同じ「断る」という行動なのに。
相手によって、こんなにも気持ちが違う。
たかしは布団に入った。
目を閉じる。
眠れない。
頭の中に、
「付き合い悪い」
という言葉が何度も浮かぶ。
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翌朝。
スマートフォンを見る。
ながとからメッセージ。
『昨日はごめんな。体調悪いなら休んで』
たかしは画面を見つめた。
少し安心した。
「……嫌われてない」
そう思った。
そして初めて。
一つのことに気づいた。
断っても、友達は消えない。
それは。
たかしにとって、これまで知らなかった感覚だった。
しかし。
その日の午後。
まさとから電話が来る。
「たかし、来週の予定どうする?」
「……」
たかしは答えを迷った。
そして。
その電話の向こうから出てきた言葉が。
再び、たかしを元の場所へ引き戻す。
「せっかくみんな楽しみにしてるんやから、来てくれよ」
たかしは目を閉じた。
そして。
「……分かった」
そう答えてしまった。
一度断ることができても。
一度の成功だけでは、長年染みついた「断れない癖」は消えなかった。




