第四十四話 「ただいまムーン」
見慣れた部屋。
聞き慣れた音。
生乾きの匂い。
「ぶにゃあ」
特別な物語を見ている気がする。
「ただいまムーン。」
ムーンはふてぶてしい顔でこっちを見ている。
「餌皿と水皿、買ってきてやったぞ。」
私は、猫の柄が入ったかわいい餌皿をムーンの前に置いた。
「今日は特別に猫缶ね。明日からはカリカリだからな。」
猫缶マグロ味を、餌皿に入れてあげる。
ムーンは不細工な格好で餌を食べ始めた。
私は、ムーンの頭を軽く撫でる。ムーンは無反応で、猫缶をガツガツ食べていた。
「ぶにゃあ」
食べ終わったムーンが蛇口を見つめて鳴いた。
「はいはい、お水ね。」
私は、餌皿とおそろいの水皿に水を入れて、ムーンの前に置いた。
「どうだ?水が溢れにくいし、飲みやすいデザインらしいぞ?」
ムーンは無反応のまま、蛇口を見つめている。
「え?どうしたの?お水飲まないの?」
ムーンの視線の先には、キッチンの棚に置いてある、サラダボールがあった。
「え?駄目だよ、こっちで飲みなさいよ、飲みやすいんだから。」
「ぶにゃあ」
「駄目だって、こっちにしなさいよ、割と高かったのよ?」
「ぶにゃあ」
「…………仕方ないなぁ」
私は、サラダボールに水を入れてムーンの前に置いてあげた。
ムーンは不細工な格好で水をガブガブ飲み始める。
「私と同じものが気にいっちゃったのか?かわいいヤツめ。」
私はムーンの頭を撫でた。ムーンは無反応で水をガブガブ飲んでいた。




