第三十六話 「メイ泣かないよ。」
薄暗い帰り道。
公園前の街灯がチカチカと点滅していた。
特別なんて、どこにもないように感じる。
「メイ泣かないよ。えらい?」
私は、泣いていた。
「ぶにゃあ……」
ムーンの鳴き声がする。
私はまわりを見渡す。
道路脇にムーンが横たわっていた。
ムーンの白い体が、赤く染まっている。
私は、迷わず抱き抱えた。
「重た……あんた、いったい何kgあんのよ。」
私は、ムーンを抱えて、不恰好な早足で国道を進んでいく。
信号を2個行ったところに、動物病院がある。
「あんた、死ぬなよ。」
「ぶにゃあ……」
ムーンは元気なかった。
『ムーンともお別れなの……?』
私の目から、大粒の涙が溢れ落ちた。
…………
「怪我は大したことないですね。命に別状はありません。」
「え?なら、なんで、あんなに弱って……」
「お腹が空いていたみたいですね。点滴をうったら元気になりましたよ。念のため、今日一日は入院ですけどね。」
ガラスの向こうで、いつものふてぶてしい顔をしたムーンが、寝そべりながらこちらを見下していた。
「良かった……」
私は、へなへなと膝から崩れ落ちた。
ふと気づくと、お気に入りの服が血で汚れていた。
私は、手だけ洗わせて貰い、マンションまで、のんびりと歩いて帰った。
「あ〜あ、お気に入りだったんだけどな。」
私は愚痴を言いながらも、なんかワクワクしていた。
物語の始まりとしては最高だった。




