第十七話 「夜のハイウェイにガオー」
薄暗い帰り道。
公園前の街灯がチカチカと点滅していた。
特別なんて、どこにもないように感じる。
「でもね、私は人魚姫。歌を歌えば幸せになれるのよ。」
私は、スキップして街灯に飛びつく。
街灯を中心にクルクル回る。
「よく見て、素敵ね、これでもっと完璧」
それから、公園のよく分からない建物のドアに寄りかかる。
「ねえ、これ欲しい?20個もあるの、だけど、足りない、なにか〜」
それから、公園の良く分からないコンクリートの山に登る。
「歩いて、走って、日の光あびながら」
「自由に、人間の世界で〜」
「すいません。」
私は、急に声をかけられて、声の方を振り向く。
若いお巡りさんが、立っていた。
え?
いつものおじさんじゃないの?
王子様か?
「あなた、ご近所からクレームの電話がすごい来てるんですよ。何度か、こちらからも警告させてもらってますよね。」
全然王子様じゃなかった……
「……はい。」
「何でやめないの。」
「いえ……その……」
「とりあえず、交番まで来て貰える。」
「え、交番……」
私は血の気が引いた。
交番……
罪だったの……
「とりあえずね。事情を聞いてね。こちらとしても、電話をしてくださった家の方に、きちんとこのような対応をしましたと、連絡する義務があるんですよ。分かりますか?」
初耳だった。
あの、おじさんお巡りさん。
いつも、あの後、そんな事してくれてたの?
「あの、いつもの年配の方は……?」
「え?……ああ、塚本さん?彼は、本庁広報課に移動されましたよ。」
「あ、そうなんですか。」
「とにかく、ここで話してると、ご近所迷惑になるんで、交番まで、ご足労いいですかね。」
「…………はい。」
私は、もうしない誓約書にサインしていた。
「ま、とりあえずご近所さんには、これで納得していただきますので、本当に、もうしないでくださいね。」
「………………はい」
「このまま、あなた1人で帰すのもあれなので、どなたか迎えに来てくださる方はいますか?ご家族とか?」
「家族は、田舎にいます……職場の上司に連絡してみていいですか。」
「では、お願いします。」
私は、館長の携帯に掛けた。
何度かのコールの後で、館長が電話に出る。
「おう、どうした。」
館長の軽いトーンで、なんだか急に涙が出てきた。
「う、う、う……」
言葉が詰まって出てこない。
「お、おい、どうした?」
館長が心配してくれる。
「すいません。今、交番なんです。」
「交番!?」
「……申し訳ないんですけど、迎えとか……」
「ちょっと待ってろ、モールに一番近いところのだよな。まだ、近くにいるからすぐ行く。」
館長は、走ってやってきてくれた。
「うちの若いのが、ご迷惑をおかけしました。」
館長と2人で、頭を下げて、交番を後にする。
「あ、あの……」
「いいよいいよ、どうせ、いつもの感じだろ?」
私は、コクンと頷いた。
「あの、お巡りのヤロウ、大げさにしやがって。ただ気持ちよく歌ってただけなのにな。」
「館長〜」
私は泣いてしまう。
「おいおい、どうしたんだ?」
「館長〜、カッコいいのに、何で禿げてるの〜」
「……変わんないな。」
「王子様じゃない〜……」
「ないよ。王子様じゃないよ。まあ、一杯飲んでこう。」
館長は、屋台に入っていく。
国道バイパスの陸橋下。
いかにも、『屋台です』という屋台だった。
私も一緒に入った。
初めて入る屋台は、おじさんの雰囲気がした。
「たまには、こういうところも良いんだぞ。」
館長は、大根をツマミながら、冷酒をちびちび飲みだす。
「お嬢さん、何にしやす?」
「え、お嬢さんかな?」
「おいおい、君、そこかい?この親父さんは、80の婆さまにもお嬢さんって言うぞ?」
私は、館長のデリカシーない一言に拗ねる。
「いいじゃないですか、喜んだって。禿げてるくせに。」
「禿げは関係ないでしょうよ。」
「いや、待てよ。館長、禿げてないか。」
「禿げてるよ。一本もないよ。」
屋台の親父さんが、さりげなく頭に巻いたタオルをとる。
禿げていた。
私は思わず吹き出した。
「何で禿げコラボしてんですか。」
「たまたま禿げてたんだよ。たまたまって何だよ。」
私はゲラゲラ笑った。
さっきまでの気持ちは、どこか遠くへ行ったみたいだった。
「ガオー」
私は、国道バイパスに向かって吠えた。
禿げ2人は、少し驚いてたが、すぐに笑ってた。




