第十話 「お酒もちょっぴり飲んだわね。」
雑踏のなかのチェーン居酒屋。
灯りが一つ消えた看板、張っている蜘蛛の巣。
特別なんて、どこにもないように感じる。
「でもね、特別なんてなくてもね、生きてるんだよね。」
ガラガラガラ
「いらっしゃいませ〜、あ、毎度どうも。」
「あ、今日は1人なんですけど……」
「え、あ、じゃあ静かなお席にご案内しますね。」
私は、カウンター席の1番奥に案内された。
「ご注文は。」
「そうね……生ビールを。」
「え……かしこまりました。生一丁。他にご注文は。」
「えっとねぇ……生ビール飲んで考えます。」
「かしこまりました〜」
生ビールが運ばれてくる。
私はお通しのお新香をちびちびツマミながら、生ビールをちびちび飲む。
私の隣りに、誰か案内されたみたいだけど、私はそっちを見ないようにした。
「あれ?君?」
私は、ドキッとして振り返る。
王子様か?
館長だった……
「館長、珍しいですね。」
「たまにはくるけどな。」
「え、見たことないですね。」
「僕は、君らが飲んでるの見たことあるけどな。」
「え、声かけてくださいよ。」
「そんな野暮なことしないよ。女性2人、楽しく飲んでるところに、禿げた上司なんていらんだろ。」
私は、ちょっとだけ笑ってしまった。
「館長……禿げてなんかないですよ。」
「いや、禿げてるだろ。」
「いや、禿げてないですよ。」
「いや、禿げてるやん。つるっ禿げやん。」
館長は禿げ頭を見せてくる。
「ちょっと、よく見せてくださいね……禿げてないですよ。」
「いや、禿げてるやん。一本もないやん。」
私はゲラゲラと笑った。
館長も、複雑な表情で笑ってた。
「え、めっちゃ楽しいじゃないですか。今度来る時は一緒に飲みましょうよ。どのくらいで来るんですか。」
「そんなに来れないよ。月に一度の贅沢だけど。」
「へえ…………赤ちょうちん?ですよね。」
「え?」
「え?」
「え?」
「え、間違いました?」
「いや、あってる。けど、あってない。今は、普通の会話だった。」
「あ、なるほど、確かに普通でしたね。この前、スルーしちゃったんで、気にしすぎました。すいません。」
「いや……ありがとう。」
館長はすごく嬉しそうだった。
「今日は奢るよ。」
「良いんですか?月一でしか来れないお小遣いなんじゃないんですか?」
「…………やっぱり割り勘で。」
私はゲラゲラ笑った。
「今日は奢りますよ。」




