第7話 お命頂戴する②(捕物編)
廊下に置かれた文には、黒崎が警察で解決した事件が書き連ねてあった。
「黒崎は、陰陽師の力がありながら警察に組みする不届きもの」
最後の文章を相良が読み上げる。
「これを制する。とな」
「粘着質ですね」
一ノ瀬が目を細めた。
「いまだ、幕府の命のもと、陰陽師が活動を行うことを否定的に見る輩は多い」
黒崎は紙を二枚取り出す。
「つまり、同じ陰陽師が怪しいということですか?」
「そういうことだ」
黒崎の手のひらで、二枚の紙が白い鳥へと姿を変えた。
「式で見張りをたてる」
その日は夜まで何も起こらなかった。
黒崎は一ノ瀬と共に食事し、仕事も同じ部屋で行った。
厠へ行くといえば、一ノ瀬もついてきた。
家に戻るのは、流石に危険だと感じたため警察で泊まることにした。
黒崎の家には、嫁のお琴がいる。
「琴の飯が食べたかった」
黒崎の独り言に、黒崎の部屋で書き物をしていた一ノ瀬の筆が止まる。
同時に黒崎の舌打ちが聞こえた。
「お前がいることを忘れておった」
「聞かなかったことにしておきます」
一ノ瀬は仕事に視線を戻した。
「いつまでだ」
今度は黒崎の方から一ノ瀬に話しかけてきた。
「いつまで私につきまとう?」
「……ひどくないですか?」
一ノ瀬は思わず筆を置いた。
「僕は、相良さんの命令で動いているだけですから」
「その割には楽しそうだな」
「そういう顔なんで」
もともと二人は折り合いがよくない。
その上、もう丸一日ともに行動をしている。
「そろそろ限界だな」
黒崎が立ち上がる。
「夜風に当たってくる」
「やめてもらえますか?」
一ノ瀬は正座のまま立ち上がった黒崎を睨んだ。
「僕は今、外に出る気分ではないので」
「お前はここにいろ」
「そういうわけにはいきません」
一ノ瀬が立ち上がったその刹那、黒崎の式の白い鳥の一体が、二人の目の前で弾け飛んだ。
「きたか!」
黒崎が庭に走りでる。
全神経をとがらし、もう一体の式の行方を探る。
その間、一ノ瀬は刀を手に持ち、門から外へと走りでた。
庭の前に位置する土壁の下。
何かが蠢く。
「妖か?」
一ノ瀬が刀を抜いた。
いや。
「子供?」
女の子だ。
暗い壁の下で泣いている。
一ノ瀬にはわからない。
人なのか、妖なのか。
普通の人間にはその違いを知ることは難しい。
「どうしたの?」
一ノ瀬は怖がらせないように刀をしまった。
油断はしない。
攻撃をしてくるようなら、すぐに抜刀して戦う。
―― つもりだったが
「お兄ちゃん、知ってる?」
女の子が手で顔をおおったまま話けけてくる。
「私たちの力」
(子供ではない!)
一ノ瀬が刀の柄に手をかけたとほぼ同時、そのままの状態で黒い何かが巻き付いてきた。
(動かない)
手と刀が一体になったようにはりつき、刀を抜くことができない。
子供が歩み寄ってきた。
「私たちの力は
国をも変えることができるんだよ」
一ノ瀬の額に汗が滲みはじめた。
刀を掴む手だけではない。
足も動かない。
手も足も動かなければ、戦うことができない。
もう一度子供を見た。
うすら笑いを浮かべている。
「侍は――」
声が低くなった。
「我々の格下だ」
一ノ瀬の目が見開かれた。
「その下で陰陽師が働くなど、あってはならない」
黒崎さん!!
声が出ない。
―― 黒崎は庭先で、燃え尽きたもう一体の式を確認した。
式の記憶をたどる。
(男か)
平安の時代の陰陽師そのままの出立をした男が見える。
(相当な使い手)
その男が、警察の壁の前に立っている絵面が頭に流れる。
(外におるか)
そこで初めて、一ノ瀬が外へまわったことに気づいた。
「しまった!」
舌打ちし門から外へ出る。
一ノ瀬は剣ではおくれはとらぬ。
しかし、相手が陰陽師であれば話は別だ。




