第6話 お命頂戴する①(捕物編)
「三日以内にお命頂戴する」
自室であぐらをかきながら、黒崎は一通の文を破り捨てた。
「何やってるんですか?」
手紙を破り捨てた黒崎の背後に、いつも間にか一ノ瀬が立っている。
黒崎は手の中の紙を、さらに片手で握りつぶした。
「田舎の親から届いた文だ」
「そうですか」
一ノ瀬の目が黒崎の手元から離れない。
「親から届いた手紙を破って握りつぶすなんて」
一ノ瀬は後ろ手に障子を閉めた。
「黒崎さんは親不孝だなぁ」
黒崎の眉がぴくりと動く。
「お前には関係がない。
出ていけ」
「僕は、この警察所の副隊長です」
黒崎は顔をあげた。
「問題が起これば対処するのが仕事」
言うが早いか黒崎の腕をつかみ、手紙をもぎ取る。
「お前は!!」
取っ組み合いになった。
黒崎は一ノ瀬の腕を押さえ込んだ。
一ノ瀬は黒崎の顎を手でおしやる。
「お前は!ずけずけと人の部屋にまで押し入って、恥ずかしくないのか?」
黒崎が一ノ瀬の手から手紙を取ろうと、つかんだ手に力を込める。
「問題が起これば対処をする。
それが僕の仕事なんで」
一ノ瀬は腕をつかまれたまま黒崎の上に馬乗りになった。
その一ノ瀬の胸ぐらを、黒崎は下から片手で掴み上げる。
「お前ら、何してる?」
障子を開けた相良が、呆然と取っ組み合いになっている二人を見下ろしていた。
「仲がいいにもほどがある」
『仲は良くありません』
声がハモった。
「で、命を狙われる心当たりは?」
二人は相良の部屋に並んで座していた。
「ありすぎてわかりません」
「黒崎さん」
隣に座る一ノ瀬が黒崎の顔を見る。
「男の人か、女の人か、どちらの可能性が高いかわかる?」
「どういう意味だ?」
黒崎は今にも刀を抜かんばかりの鋭い目で一ノ瀬を睨んだ。
「黒崎には嫁がいる。
女遊びはしないだろ」
言う相良の顔を一ノ瀬はまじまじと見た。
「私は妻以外、女には見えん」
部屋が静かになった。
「ところで」
相良は顎に手をやり二人に視線を配る。
「しばらく黒崎に護衛をつける」
「いりません」
「いや」
拒否する黒崎を相良が手で制する。
「お前に死なれては困る」
黒崎の顔が赤くなった。
「紫苑しおん!」
「はい」
「お前が黒崎を守れ」
一ノ瀬が黒崎を見る。
黒崎が鋭い視線で一ノ瀬を睨み、そのまま相良に目線をうつした。
「相良隊長……」
「なんだ?」
「一ノ瀬以外でお願いします」
「なんで?」
黒崎の言葉に一ノ瀬は黒崎の顔を覗き込んだ。
「こいつと四六時中一緒にいると、私の精神が死ぬ」
「ひどいなぁ」
相良は腕組みをし、眉を潜めた。
「いや、紫苑が適任だ。
剣の腕がたつ。
お前より腕が良いものを護衛につけなければ、意味がないだろ」
さも当然と言うような相良の言葉に黒崎はうつむき、うなった。
確かに、そのとおりだ。
「三日間の辛抱だから」
一ノ瀬が笑いかけてきた。
「お風呂は流石に遠慮させていただきます」
「当たり前だ!!」
黒崎が畳を叩いた。
「寝る時は……」
「廊下で寝ろ!」
「え?」
「同じ部屋で寝ろ」
代わりに答えた相良を、黒崎が驚きの目で見る。
「正気ですか?」
「他の隊士は同じ部屋で寝ている。
問題はあるまい?」
一ノ瀬はにこにこと黒崎を見る。
「布団は自分のものを持ってくるから」
「当たり前だろ!!!」
黒崎の唾が飛んだ。
「誰がお前と同じ布団で寝ると思うか??」
「だから、そういったのに……」
「三日間の辛抱だ」
相良は念を押した。
「お前が無事なら、それでいい」
「相良隊長……」
「相良さんって、人を動かすのがうまいなぁ」
一ノ瀬は二人を笑ってみていた。
その時 ――
閉じた障子の向こう。
廊下の方に嫌な気配を感じ、一ノ瀬が素早く動き、障子を開けはなった。
即座に相良と黒崎が刀に手を伸ばし中腰で構える。
廊下には ――
「文?」
またもや、手紙が置かれている。
一ノ瀬は、部屋から左右の廊下に素早く目を走らせる。
(誰もいない……)
つづいて庭の奥に目をやった。
奥の警察と外を隔てる石壁の上。
そこに、両掌が見える。
石壁からにゅっと突き出た両手。
一ノ瀬が見ている間に、それは下に降りたのか、ふっと目の前から消え失せた。
「見ましたか?」
一ノ瀬が振り返る。
「追うぞ!」
黒崎が刀を持ったまま門から外に走り出た。
「黒崎さん!」
一ノ瀬も急いで後を追う。
「もう、いないと思いますけど」
「なぜわかる?」
「だって、一瞬で廊下から庭の壁まで移動したんですよ?」
二人は門から外を見回す。
商人。
女。
侍。
怪しい者は見当たらない。
「相当足が早い者か……」
一ノ瀬は小さなため息をついた。
「人間ではないか……」
「妖を使ったか」
黒崎は額を手で抑えた。




