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第4話 熱田って誰だ?誰も知らない男(職務編)

黒崎は報告書に目を通していた。


一人、いつも同じ報告をあげてくる者がいる。




第三隊隊士の熱田だ。




「ふぅむ」


顎に手をやる。




入隊時期を思い出す。




―― 記憶にない。





「黒崎隊長、相良隊長がお呼びです」


黒崎は報告書を置いて、相良の部屋へ向かった。




「記憶にない者がいる」


なるほど相良も同じことを考えていたようだ。




「誰ですか?」


黒崎は珍しく相良の話に身を乗り出した。




「熱田だ」




(やはり)




「確か、第三隊にいたな。


 黒崎、お前の隊だ」




「そのようですね」


黒崎は首を捻った。




だが、正直、誰がいるのか把握していない。




「問題だぞ」


相良は黒崎を睨む。




「なぜ、隊長のくせに、隊士を把握せん?」


「すぐ辞めるので」


「……それが一番問題だな」




廊下を通る隊士を見かけた相良は声をかけた。




「おい!


 第三隊の熱田を呼べ」




廊下から顔を出したのは、第一隊の高岡だ。




「熱田……ですか……」




高岡は首をひねる。




「誰です?」




静かになった。




「さあ」


相良が誤魔化した。




「え?


 今、呼んでこいって言いましたよね?」


高岡の目が見開く。




「知らんならいい」




高岡が妙な顔をした。





黒崎は第三隊が集まる部屋へと赴いた。




(熱田を探すか)




用はない。


だが、どうもひっかかる。




そもそも、そんな隊士が自分の隊にいたのかどうかも怪しくなってきた。





「おい」


珍しく隊長が顔を出したせいか、第三隊の隊士たちは驚き姿勢を正した。




「珍しいですね。


 隊長がこちらに来られるなんて」




いつもは、自室に引きこもっている。




黒崎はいつもの表情の読み取れぬ目で、その場にいる隊士たち一人一人を見渡した。




知っている顔ぶればかりだ。




「ここに、熱田はおらんか?」


そのままの流れで何気なく聞く。




「――」




誰も答えない。




「あの」




入り口近くに座っていた、確か、村田?が手を挙げた。





「熱田って、誰ですか?」


黒崎は手に持っていた報告書を落とした。




(だめだ)


(これは)




動揺が手の震えとなって現れる。




(誰か得体のしれぬ者が紛れ込んでいる)




「なんでもない」




つとめて冷静に、黒崎は落とした報告書をひろいあげた。




「熱田って、誰なんですか?」


黒崎の動揺を見た隊士が不審げに聞いてくる。




「私の親戚だ」




「……」




「知りませんでした」




誰かが律儀に返事を返した。


黒崎は動揺を悟られまいとその場を後にした。





「これは困ったことになった」


ふいに言葉が口からもれた。




自分の隊に知らぬ者がいる。




確かに出入りの激しい隊ではある。


雇う雇わないの基準が緩いのも確かだ。




そもそも警察になりたいという者などそうそういない。


死ぬ者もいれば、急に加わる者もいる。




知らぬ顔を見ても、新人だろうと気にも留めない。




その自分のやり方が間違っていたのだ。





指が震えた。




(私の責任だ)




「どうしたの?」


ふいに後ろから場違いな明るい声が聞こえてくる。




「風邪?」




「なぜ、そうなる?」


顔を見なくてもわかる。




一ノ瀬紫苑だ。




「だって、震えているから。


 黒崎さん、寒い?」




震えていたのは指だけだ。




黒崎は嫌な顔をした。




だが、この男ならもしかしたら熱田を知っているかもしれない。





「一ノ瀬、お前は第三隊の熱田を知っているか?」




一ノ瀬は大きな目をぱちくりと見開く。




「第三隊の?


 黒崎さんところの?」




「ああ」


面倒くさそうに黒崎が相槌をうつ。




「うん。


 知ってるよ」




黒崎が思わず口を開けた。




「どこにいる?」




一ノ瀬は右上を見た。




「どこに……」




きょろきょろと辺りを見渡す。




そこに道場から清雅と、第一隊の隊士達が歩いてきた。




「あ!」


一ノ瀬はその中の一人を指差す。




「この人。


 確か、熱田くん。


 そうだよね?」




言うと、一ノ瀬は背の低い、見るからに体力も何もなさそうな男を引っ張り出した。




「この間、昼で一緒になった。


 その時、名前を聞いたから覚えている」




清雅は不思議そうに一ノ瀬と黒崎を交互に見る。




「熱田さんが、どうかしたんですか?」




熱田を見ると……




足が震え。




手が震え。




決して顔をあげない。




「お前、誰だ?」


黒崎が凍るような目で熱田を見た。




「す……すみません……」


その場で土下座する。






にわかに門のあたりが騒がしくなった。




「相良さん!相良さん!!!!」


誰かが隊長の名前を叫んでいる。




「後生だから!


 後生だから、だから!」


隊士達が警察へ入ろうとする誰かを必死で止めていた。




「手打ちだけはご勘弁を!」




急いで相良が出てきた。




「誰だ!


 ワシが人を斬るようなことを喚き立ててるのは!?」




門で騒ぎを抑え込もうとしていた隊士が、急いで相良のところまで走ってきた。




「隊長!


 団子屋の親父が、相良隊長に許して欲しいと願い出ています」




「何をだ?」


相良はまるで状況が飲み込めない。




「団子屋の親父の息子が、勝手に警察所に潜り込んで、警察の真似事をしているとかなんとか」




相良が口をつぐんだ。




黒崎は視線をはずす。




「警察の仕事をこっそり手伝っていると」


隊士は続ける。


「それに気づいた団子屋の親父が、相良さんが息子を斬るのではないかと……」




熱田は相変わらず廊下で土下座したままだ。




「団子屋の親父、一方的に捲まくし立てるだけで、ぜんぜんこちらの話を聞いてくれないんです」


隊士は悲痛な声を上げた。




「ああ。いつものことだ」


相良の声は低かった。





相良は熱田を見た。


黒崎も熱田を見る。




一ノ瀬は熱田の肩を叩いた。




「帰ろっか。


 お父上が迎えにきているよ」

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