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第2話 団子屋での陰謀②(捕物編)

次に目を覚ました時、相良は畳に敷かれた布団の上にいた。




見慣れた天井が目に飛び込んでくる。




はっと、目を見開く。




「牢屋じゃねえ!」




「牢屋が良かったですか?」




ふいに横から聞き慣れた声。




相良を覗き込む、にっこりとした、人懐っこい笑顔が見える。




「紫苑か」




相良は、黒い羽織袴に身を包む一ノ瀬紫苑いちのせ しおんを見やった。


警察第二隊隊長で警察随一の剣の使い手だ。




「ところで」


一ノ瀬の隣に、肩まで黒髪を伸ばした、同じく黒の羽織袴に身を包む、静かな男が座っていた。


警察第三隊隊長 黒崎 玄真くろさき げんしん。




「ところで」


言いかけた言葉を復唱する。




「あなたは、何をやってるんですか?」


黒崎は言いながらため息をついた。




「警察隊の隊長が、御用聞きに捕まるなど、前代未聞」




「やはりな!


 捕まったか!」


相良は笑いながら身を起こした。




「黒崎さんが、奉行所まで引き取りに言ってくれたんです」


一ノ瀬はおかしそうに笑っている。




「でも」


急にそこで真顔になった。




「倒れるまで薬を飲むなんて……。


 悩んでいることがあれば、僕たちに言ってくれたら良かったのに……」


悲しそうな目で相良を見つめた。




「自分で薬は飲んでおらん!」




「知ってます」




「紫苑!!」




相良はため息をつき、両腕を袖に入れる。


「薬の取引現場に張り込みに行ったら、知らぬ間に飲まされておった」


「団子屋の主人も同じことを言っていました。


 茶に薬を入れられていたのでしょう」




「やられたな!」


相良は悔しそうに唇を噛む。




「一人で動くからです」


一ノ瀬が珍しく注意した。




「隊長自ら動くことではない」


黒崎も腕を組む。




「なんじゃお前ら。


 ここぞとばかりに不満を言いおって」




相良は天井に目をやった。


「ここで騒ぎを起こしたということは、別の場所で大きな取引を行う予定か」




「そう思い、第五隊を調査にやっています」


黒崎は抜け目が無い。


「薬を混ぜられたのは団子屋だけではありません。


 そのほか、いくつかの店で人が倒れています」




「診療所は大騒ぎですよ」


一ノ瀬は楽しそうだ。




話しているうちに、廊下に第五隊の隊士が現れた。


「京橋川あたり、船が数隻。


 今晩あたり取引が行われる可能性があります」


その後ろからもう一人、隊士が走ってくる。




「相良隊長がとらえた浪人が口をわりました!


 相手は、巴屋のようです」




「決まりですな」


黒崎の口元に笑みが浮かんだ。




「今夜、巴屋を抑えるぞ!」




『はい!!』




相良は布団から勢いよく立ち上がった。






―― 京橋川




人目を気にするように、船には灯りがない。


事前の情報がなければ、そこに誰かがいようとも、まるで気づきもしなかっただろう。




相良、一ノ瀬、黒崎は、身をかがめる。


第一隊は反対側の茂みに配備し逃げ道を防ぐ。




第五隊数名が、船の間近まで近づいた。




本当に薬の取引が行われているのかを確認しているのだ。




「これで、何も出なければ、全部無駄ですね」


一ノ瀬が黒崎に話しかけた。


「お前は黙っておれ」


黒崎はにべもない。




前を進む第五隊の一人が、こちらを振り向く。




「なんだ?」


相良がよくとおる声で男を睨みつけた。




男の顔が引き攣っている。




「何かあったようですね」


黒崎は冷静に船の方に視線をこらす。




「人質がいます」




「なんだと!?」


相良の声が大きくなった。




「しーっ!」


さらの大きな音で一ノ瀬が口の前で指を立てる。




「女が二人、縛られて船の中に連れて行かれました」


「二人……」




相良は頭をめぐらせた。




「現場を抑えるだけじゃなく、人質も助ける」


「それならもう、ここに隠れている必要はありませんね」


「薬が出なくても、捕縛する理由にはなる」


一ノ瀬と黒崎が立ち上がる。




「お前ら、ワシの指示を待て!


ギリギリまで船に近づき、合図を待って突撃」




見張っている浪人の数は、ざっと二十程度。




「紫苑は人質を。


 黒崎は現場を抑えろ!」




『はい!』




「突撃!!」


言うが早いか、相良が船に一番に乗り込む。




「警察だ!!」


誰かが叫んだ。




船が大きく揺れる。




中から、巴屋の主人が顔を出す。


急いで散らばった、白い袋を体で覆い隠した。




「斬れ!斬れ!」


船の周りに溢れる浪人どもに、第五隊の警察たちが立ち向かう。




夜空に刀の擦れる音が響き渡った。





一ノ瀬は女二人を探した。


「いない!」




―― 船室


「いない!」




もう一艘、船がつないである。




後ろの船に飛び乗る。




「一ノ瀬!」


黒崎が叫んだ。




「大丈夫です。


 僕はこっちを探します」





黒崎は巴屋を探す。




もう一艘船が近づいてくる。




―― そこに 




飛び移ろうとする巴屋の姿。




「待て!」




「ひぇええ」


巴屋の着物の袖を掴み、引きずり倒した。


白い袋が船板に飛び散った。




「濡れる!


 やめてください」


急いでかき集めようとした巴屋の襟首を黒崎は掴み上げた。




「人を狂わせる薬だ。


 全て沈めてもかまわん」




巴屋はがっくりうなだれた。





相良は巴屋の取引相手と思われる洋装の男を追い詰めていた。




男の背後に船室。




右手には川。




「観念しろ」


言うと、刀を相手の目の前に構える。




男がにやりと笑った。




「それはこっちの台詞だ」




素早く懐に手をいれる。





―― パアン





銃声が響き渡った。





黒崎が思わず顔を上げる。


第五隊の隊士たちが立ち上がった。




「相良隊長!」




暗闇の中、目をこらす。


第一隊の隊士たちも船に駆け寄ってきた。





「大丈夫だ!」


目をこらすと、洋装の男を引きずる相良が現れた。


「懐に手を入れたら銃。


 最近はこれが主流だ」




相良は銃を投げ捨てる。




「だが、それさえわかっておれば、


 武士の方が早く動ける」




「違いない」


どこから現れたか一ノ瀬が、人質の女二人を連れて戻ってきた。




「後ろの船に閉じ込められていました。


 手伝いをさせられて、口封じに連れて行かれるところだったようです」




相良は二人の顔をまじまじと見る。




「お前ら、あの、団子屋にいた……」




女二人も、相良の顔をじっと見つめて口を開けた。




「おじさん、警察だったの?」




三人は、お互いを指差しあった。




「相良さんの変装は、大成功みたいですね」


一ノ瀬の言葉に


「あれは変装ではない。


 ただ、ふしだらなだけだ」


黒崎が突っ込んだ。





とにもかくにも、今夜も江戸の平和は守られたのだ。

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