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第1話 団子屋での陰謀①(捕物編)

神田町にある江戸警察。




幕府が設立した絶対権力機関・警察隊は、奉行所を通さずに、独断で人を裁くことができる。




唯一、"侍を罰することができる侍集団"。




それを取りまとめるのが、警察隊隊長であり、一番隊隊長でもある相良 稔光(さがら としみつ)(二十八歳)だ。





「団子屋に行ってくる」





隊士たちが思わず振り返った。





「昼は戻らねぇ」




「は……はい」




警察隊の装いは、黒の羽織袴と決まっている。





しかし団子屋に出かける相良は、小袖を着流し、だらしなく帯を締めている。


相良を知らぬ者は、まさかこの男が警察隊の隊長だとは思いもしないだろう。




「風紀……乱してますよね」




第一隊の誰かが言った。




「いいんだよ。


 相良隊長は特別だから」





相良は町をぶらぶら歩く。


店の主人たちが顔を出しては挨拶をしてくる。




町に住む者たちは、この一見、浪人風情の男が、警察を取り仕切っていることを知っているのだ。




「相良さん!


 いい酒、入ってますよ」




「今、職務中だ」




ぶらぶら歩きながらも目はギロギロと町の人々を見ていた。


その目は形が良く、見るものを惹きつける力がある。




(今日あたり、あらわれるはずだ)




同心(どうしん)(下級役人)の話だと、団子屋が怪しいとのことだ。




(あそこの親父は耳が悪い。


 ありゃあ、溜まり場になっても、おかしくはない)





江戸の町は今日も平和だ。


だが、裏では色々と黒いものが蠢いているものだ。


それを見るか見ないかは自由。




相良は、それを見て取り締まるのが仕事だ。





「本音は、団子だけ食って帰りてー」




―― 入り口に立った。




中には若い女が二人と、浪人が二人、席に座って出された茶を飲んでいる。





「親父、いつもの」




「はあ?」




「親父!!」


声を荒げる。




「いつもの!!」




「はあ?」




(……)




(毎回これなんだが、わざとか?)




相良がむすっとした顔で黙ったのを見た親父は、困ったような顔をして


「はいはい、いつものね」


と、店の奥へと消えていった。




「聞こえてんじゃねーか」





店の隅に座っていた浪人が、じろりと相良を睨んでくる。


相良はざっと二人の様子を確認した。




着物、刀、姿勢 ……。




お互い、相手の力量を確認するように、しばし睨み合う。





と、奥の女二人が何かを袖から取り出した。


白いものがちらつく。




相良は浪人から目をそらす。




奥の浪人の一人が、思わず立ちあがろうとするのを、もう一人が手で制した。





相良の視線はもう、女の方に釘付けだ。




(あっちか……)




浪人は相良を睨み、相良は女二人を睨みつける。




―― 殺伐とした空気。




「相良の旦那、ここに置いておくぜぃ」




そんな空気をもろともせず、店の親父が相良の前に団子と熱すぎる茶を置いた。




「店の中で騒ぎを起こすのだけは、やめてくれ」


親父が相良にだけ聞こえる声で話しかけてくる。




「なんだ、あんたにも、わかるのか?」


団子屋の親父に、この空気が読めるのかと相良は少し驚き、親父の顔をしげしげと見つめた。




「ああ??」




(聞こえてねー)




相良は茶を飲むと、団子をひとつ口に入れた。





女たちは、明らかに相良を気にしながら腰を上げた。


店を出るようだ。




(白い包み、あれは間違いなく阿片(あへん))


相良は口元を手で隠した。


三日前から張り込んでいたかいがあった。


わずかに、にやつく。




女が勘定を支払い店を出るのを見計らって、相良も店を出た。


お代は机に置いておく。





外へ出ると、女たちはすでに後ろ姿。


町外れの雑木林に向かっているようだ。




「こりゃあ、応援を呼びに戻る暇もねーな」


そのまま女の後ろ姿を追う。




女二人だと思い、多少の油断も確かにあったかもしれない。





木々の生い茂る人目のない茂みの中。


前を走る二人の足音をたどり、相良は一人で後を追った。




部下には深追いするなと言ってある。


しかし自分は別だ。




誰しも、人に言っていることと、やっていることは違うものだ。





―― 背後に気配を感じた。




刀を抜く音が聞こえる。




(あの女だけではなかったか)




素早く振り返る。




(二、三人と言うところか)




相良は鯉口を切り身構えた。




刀を抜き放った男が二人、こちらへ近づいてくる。




(女は見失うが仕方あるまい)


唇を歪めた。


(戻ったら、団子の残りを食って帰ろう)




勝負は一瞬でついた。




二人を斬り、相良は茂みの中に立っていた。




一人は峰打ち。




情報を聞き出すためだ。




女の方は―― 取り逃したようだ。






「旦那!」


町へ戻る途中、うまい具合に同心の男に声をかけられた。


「あの林に男が二人転がっている。


 例の件の情報を持っているかもしれねー。


 あとは任せた」




それだけ言うと団子屋の方へと足を向けた。




今日の仕事はしまいだ。




まあ、あの男たちから、何らかの情報を得ることはできるだろう。






相良が団子屋の入り口に立つと……。




そこには異様な光景が広がっていた。





「なんだこれ」





相良の目の前に、あの隅に座っていた浪人二人と、店の親父が倒れていた。




「死んでいる……のか?」




首元に手をあてる。




脈がある。




生きている。




誰にやられた?




相良が女を追っている間に、誰かが団子屋を襲ったのか?




(なんのために?)






後ろからざわざわと声が聞こえてきた。




誰かが来る。




相良は振り返った。





「動くな!」




御用聞きが数人。


相良を取り囲む。




「お前がやったのか?」




御用聞きの中に、相良の顔を知っている者はいない。


まさか、相良が警察の隊長であるなど、思いもしないだろう。


ましてや、相良のいでたちは、怪しい浪人そのものだった。




「いやいや。


 ワシは……」




説明しようとした瞬間、相良は急なめまいを覚えた。




(なんだ?)




酒に酔ったような……。




いや、酒は飲んでいない。




天井がまわる。




うまく言葉が出ない。




「なんだ!


 怪しい奴。


 ひっとらえろ!」




(冗談じゃねぇ。


 警察が御用聞きに捕まるなんざ、洒落にならねー)




思いながらも膝をつく。




目の端に、倒れている浪人たちと、下に落ちて割れた茶のみが見えた。




その中に、うっすら白い粉。




(あぁ。


 まさか……)




女たちの持つ白い粉。





(やられた)





そのまま視界が真っ暗になった。




(登場人物紹介)

挿絵(By みてみん)


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