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幻想日誌:魔動物として召喚された男の物語  作者: 森野昴
第6章 草原と森の入り口
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6-13 黒色の矢じり

 地べたにおいた魔真水ままみずの実の中身が、赤く染まった。


 パシャ。


 そこから手を出して振ると、水しぶきが飛んだ。


 うん。これはいいね。指のべたつきが消えたよ。


 この実の中身で、手を洗ったんだ。


 それから。おもむろに立ち上がる。


 手を下にして、ぐいっと両足を踏ん張り身体の末端に力を込めた。


 んー。はあぁ。気持ちがいい。


 ほんと。同じ姿勢で作業をしていたら身体が凝るよね。


 このような時は、伸びをすればとてもすっきりとする。


 ん?


 少し離れたところで、魔鳩麦まはとむぎの葉が波打ち、さやさやと鳴る。


 そして、草原の心地のよい爽やかな風がほほを優しくぜた。


 あー。大変だけど、野外っていいね。


 うん。今は、ひと休みをしているところ。


 近くには、切り分けた生々しい走魔牛そうまうしの肉塊がごろごろと置いてある。


 そう。作業そのものはまだ途中だよ。


『……それでな、俺はスパっと、こうやった訳だ』


 この解体作業で、限界近くまで力を使い果したエンタ先輩。


 彼の目の下に隈のようなものがある。なので、完全に回復をしていないと思う。だけどもう、いつものようにイエン先輩と軽快に武勇伝を話し合って笑っている。


「休みは、そろそろ終わりにするぞ」


 ジュライさんの静かに響く少しドスの効いた低い声。


 彼女のその声に反応して、皆がさっと注目をした。


「後はそうだな。この走魔牛がここまで来たという行動が少し気に掛かる。一応、部位ごとに調べておこう。特に、背骨、脳そして目だ」


 ジュライさんはそう言うと、かたわらから頭陀袋を取り寄せ、その中から小さな金属光沢のある香炉のようなものを取り出した。それは魔力紋の独特な細かな紋様と宝石のような魔鉱石が付いていた。


 どうやら、あれは魔道具のひとつらしい。


 そして彼女は、それに向かって、何かをつぶやいた。


 すると、その香炉のようなものから銅鑼どらに似た音がグワ~ンと大きく鳴る。


 それと同時に、四方に開いている窓のようなところから水蒸気に似た白い煙が、もわもわと多量に噴出した。その白い煙は走魔牛の肉片の全体を覆いかぶさるようにして包み込んでいく。


 ジュライさんは何かを探すようにして、その白い煙の中を見つめている。


「どうやら、何もないようだな」


 湯気のような白い煙に、その目を離さないで、ジュライさんは言う。


 こちらも同じく、白い煙に包まれた走魔牛の肉片を見ている。


 そしてこの死んでいるはずの走魔牛。その骨が付いている肉片の一か所が、まるで生きている時のような周期的な魔素流の動きがあるのを感じた。それで意識をしてそこに注目をすると、点滅して光るものが見える。


 ん。あ。そうだ。


 これは、重要だよね。ジュライさんに伝えないと。


 そう思って、彼女がいる方角に、こちらの目を向けた。


 すると、ジュライさんは感づいてくれたのか、こちらが先程まで見ていた方角に目を向けて、再び白い煙に包まれた走魔牛の肉片を見つめた。


 ジュライさんは、それを見てかすかに驚く。彼女は、その肉片から白い煙に微かに映る、光の点滅に気が付いたのだと思う。


「否。仙骨に近いところに、異常な魔力反応がある。ギトラン、ガトラン。そこの場所だ。その肉片にある背骨の尻の方を詳しく調べて欲しい」


 そしてその部位を指差して、彼女の従魔である近くにいた二体のフェリスアンに指示を出す。そして、ゴトランとは別の大型猫科頭をした従魔たちはジュライさんの命を受けて、その走魔牛の背骨を調べ始めた。


 すると、虎のような頭部をしたギトラン氏がその背骨付近から矢の先の方だけが出て来たと言って、その場所を示す。


 こちらも、その黒色の金属的な光沢がある矢じりのようなものを観察してみた。すると、それからかなり強い魔素の流れが感じられた。これには何か強い魔法的な付加が掛かっているらしい。


「魔法のやじり? この矢柄やがらは失せたのか。これに何の魔法が掛かっている? 簡易探査では魔法の種類までは判らぬからな。普通に考えれば獲物を仕留めるために行う何らかの強化魔法。だが、その用途のためにこの黒色の鏃を用いるのは余りにも高価。何かおかしい」


 ジュライさんは、その黒色の鏃を凝視ぎょうしして、考え込んでいる。


「やはり、これは解せん。持ち帰って詳しく調べるしかないか。残念だが、この走魔牛を昼に食するのは、お預けだ。食肉としての安全性を施設で確認する」


 それを聞いたゴトラン氏をはじめとするフェリスアン属種の従魔たちは、とてもがっかりしたような顔をしていた。


 聞くところによると、フェリスアン属種は、新鮮な走魔牛の肉が物凄い御馳走で背骨に近い部位の肉や脊髄が、もうどうにも堪らないとのこと。


 それでも、他の部位は特に異常がなさそうだった。


 だけどジュライさんは、恐らく大丈夫だろうが念のためと言った。


 それで、解体した走魔牛のブロックを馬車まで運び、狩りで得た他の肉とともに保存庫に保管をすることとなった。


 これはもうリザドリアン属羽毛種(ペンナティ)のパラ先輩とオルト先輩姉弟の独擅場どくせんじょうとなる。


 リザドリアン属羽毛種(ペンナティ)。もともとが長距離を速く走る属種。それで足腰がとても強い。力持ちといえば、リザドリアン属亀種(テストゥードーティ)のイエン先輩だろうけど、その足の速さには、まるでかなわない。


 大きな肉塊。といっても、それなりの大きさに切り分けてある。それを袋に包み、袈裟懸けにして背中に背負い、鱗に羽毛が覗く姉弟は、走る、走る、走る。


 頭部と尻尾を平行にして、タッタッタッタと。力強く軽快に風を切る。


 そして見る間の内に、その山のように積んであった走魔牛の大きな肉塊がなくなっていった。それは驚異的に短い時間。


 凄い。これは確かに郵便配達に適しているよね。


 そして、そろそろ昼飯時。だけど、まだすることがある。


 森の境界線上にある泉に行く。


 そこで昼飯にするんだって。


ここに読みに来てくれて、ありがとうございます。

とても嬉しいです。

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