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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

インド洋のガゼッタ

作者: 森野昴
掲載日:2019/06/28

あるウニ好きの男が海に潜り、

禁断のウニを刺したところからはじまった。


なんちゃって古語で書いた物語の叙事詩。

「インド人とウニ企画」伊賀海栗様主主催の参加作品。


詠(?)んでくれると嬉しい。

挿絵(By みてみん)

 扉絵:秋の桜子様作


 茜さす日。そは優しき光を放ちて夢幻の彩雲(さいうん)となゆ。

 里程(りてい)は遠き山を望む。インド洋へと続く穏やかな海。

 ガゼッタは伝う。かの聳(そび)える高き白壁を越えゆきて。

 遠くに見ゆるは黒き小舟と人影。何処を目指し進む。

 泡沫(うたかた)の儚(はかな)き命を運ぶや。大いなる静かな海の揺り籠。


 *゜・_゜*・。・_゜・。ζ゜ζ゜・。・*☆゜。・*゜・゜*☆*。



 インドの海深く。ゆらゆらと縦に揺蕩(たゆた)う濃緑の絨毯。

 ん。ようやく見つけた。

 銅鑼(どら)の紋様と瓜二つ。これに違(たが)わず。

 自慢の腕が鳴る。三つ又の鉾(ほこ)で狙うのだ。

 んー。やつは意外と速い。息が苦しい。もう少し我慢。

 とうとう意識がもうろうと。その鉾の先には。

 海の幸。幻とされるインドウニ。召使いの王女、ダスコウル。

 匂(にお)い立つほどにその棘は美しくも艶(なま)めかしい。


 うねる口元に輝く白き五つの歯が覗(のぞ)く。

 見つめるほどに昏く甘い眠りへと誘(いざな)われる。

 遠(とお)のく意識の三つ又の鉾を握る男。


 ここは穏やかな南国。椰子が立ち並ぶ。

 居並ぶ海に面する藩王の制(せい)する小国のひとつ。

 長閑(のどか)に大きな葉はさやさやと潮風(しおかぜ)に揺れる。


 もうすでに遠い、かの男の故郷。地中海。

 のっぴきならぬ初陣で敗れた果て。

 餓死寸前の奴隷となりて、この地に来(き)ぬ。

 ただ纏(まと)は、海松(みる)のごとく裂(さ)かれた衣(ころも)のみで。

 凛々(りり)しげなその身体に生傷絶えぬ。


 この者の故郷では海栗を食す。

 野良(のら)に出るこの男、海栗が何よりをも好物。

 押し並べてインド人の食卓に海栗は出でぬ。

 ところは海は近い。切なさが日々増してゆく。

 この運命とは残酷なり。

 能力高き男。過酷な奴隷の仕事は厭わず。

 されども憂さは晴れぬ。海栗が食いたいその一心で。

 嫌だと逃げ出(い)で、海近くの漁村に隠(かく)るる。

 御免(ごめん)と納屋(なや)にて三つ又の鉾を盗むまで。


 とまれ。意識を失いし男は海を漂(ただよ)う。

 肌に血の気なく。海を墓場に溺れ死ぬのか。


 海岸に打ち上げられ助かるか。

 息がつけても見つかれば殺さるる。

 そうされても文句は言えぬ存在。

 運命とは残酷なり。


 ふと目覚めてその身に着ける衣装は煌びやか。

 流転(るてん)する景色。座るは緑輝く孔雀の王座。煌めく黄金。

 さらには酒に贅(ぜい)を凝らした馳走(ちそう)が並ぶ。

 特筆するは、好物の海栗の明るい中身が山盛りに。


 仰(の)け反り目を見開く男。これは死の間際の幻か。

 夢での饗宴であれど、これはよい。

 物事のひとかけら。時を楽しむべきだ。

 外聞なぞ気に掛けるものは何ない。

 肩に触れ合うは、横に満面の笑みを浮かべる女。

 涼感(りょうかん)漂う薄きベールは妖艶な踊る女神に似る姿。


 気づけば、しなをつくるこの女の膝の上。

 をおこがましと跳ねあがる。心の蔵その音を聞く。

 突き進み逆上せる血潮で染まるこの身体。

 けだし。白魚の細き指にてふわりと額を押されれば。

 よろしくと優しく微笑む柔らかき肉襦袢(にくじゅばん)の揺り籠の中。


 旨いと遠く西の作法にて寝ころび馳走を食(は)む。

 いつしかまどろみ、深き眠りにつく。

 儚(はかな)き現世(うつしよ)の顔は幸せに満ちる。よきものかな。

 和(なご)やかに時は流れる。こくこくと。

 慕(した)う二人。かように見える優しく静かな時間。


 女はなおも微笑む。されど今は命なき木偶のようにて。

 とても先程までの柔和な女神の微笑みとは別の顔。

 男は知らずか彼女の頭飾りには虹色に光る細い棘。

 のそりのそりと蠢(うごめ)く。


 ああ。鋭く細い棘と口は、かの男に近づきて。


 そして翌朝早く。霧立つ磯辺を見てみれば。

 美景(びけい)の岩陰。ヒト形の海松がひとつ。波に揺られ揺蕩う。

 ごろりと虹色に光る棘持つ不思議な海栗がひとつ。

 とても静かに慈しむようにかの海松に寄り添そい漂う。


 波打ち際の砂浜に使い古しの三つ又の鉾ひとつ。

 実に所在なさげにぽつねんと横たわっていた。

 かの逃げた奴隷の男の消息は不明となりて。

 端書(はしが)き便りに聞く話のひとつ。


 知る人なしというダスコウルとなるもの。

 螺鈿(らでん)の如く妖しく光る棘持つ海栗を刺し当てれば。

 熱望(ねつぼう)せしものの願いを叶えるとの言い伝え。

 銅鑼の紋様さえも古(いにしえ)に失(う)せにけり。


 *゜・_゜*・。・_゜・。ζ゜ζ゜・。・*☆゜。・*゜・゜*☆*。


 * 追補 *


 時は経て玉響(たまゆら)の儚き夢と果てぬ物語のみがあり。

 手放し喜びたるは艶(あで)なる肢体に思いを馳せるる。

 藻に変ずる男の朧(おぼろ)げなる意識。幸せに満ちたり。

 綺羅星のごとくに海に遊ぶ光の帯が揺れにたる。

 歴(れき)が廻(めぐ)るただその日限り。男は元の姿に成れり。

 応(いら)ふ海栗も人に。ウルヴァシーかくやと詩(うた)わる。


挿絵(By みてみん)

 FA:雨音AKIRA様作


 *゜・_゜*・。・_゜・。ζ゜ζ゜・。・*☆゜。・*゜・゜*☆*。

海栗の古語はガゼとか。

端緒のガゼッタは16世紀イタリアのベネチア発の不定期ニュース出版物とのこと。

それと古代ローマやギリシアでは海栗の同じ部位を食べていたそうです。

よく言われているけど、現在は世界の海栗、日本がほぼ消費。次はフランスとか。

ぐるりとそんな感じで、題名をもじってみました。

かのダスコウルはインド人の名前からの造語。Das(召使い)-Kaur(王女)

なんちゃって古語の叙事詩なのです。

竪琴を奏でてくれると嬉しい。


追記

なじかはしらねど:どうしてそうなのか知らないけれど


ウミユリをなまこ様から頂いたです☆ ** _゜ ゜・。ζ゜゜

秋の桜子様から素敵な扉絵をいただきました。ありがとうございます。

さらに雨音AKIRA様からも素敵なFAをいただきましたー☆


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― 新着の感想 ―
[良い点] 素敵ですね (*´▽`*) >*゜・_゜*・。・_゜・。ζ゜ζ゜・。・*☆゜。・*゜・゜*☆*。 これもとても可愛い (∩´∀`)∩~♪
[良い点] 素敵な文体の詩ですね。 言葉一つ一つに味があって、印象的でした。
[一言] こんにちは。 せっかくなので、音読しながら味わってみました。何回か読んでみて、気がつきましたよ。何とも味わい深い縦読みですね。もともと吟遊詩人たちがうたったものも、単純に美辞麗句を並べただ…
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