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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

インド洋のガゼッタ

作者: 森野昴

あるウニ好きの男が海に潜り、

禁断のウニを刺したところからはじまった。


なんちゃって古語で書いた物語の叙事詩。

「インド人とウニ企画」伊賀海栗様主主催の参加作品。


詠(?)んでくれると嬉しい。

挿絵(By みてみん)

 扉絵:秋の桜子様作


 茜さす日。そは優しき光を放ちて夢幻の彩雲さいうんとなゆ。

 里程りていは遠き山を望む。インド洋へと続く穏やかな海。

 ガゼッタは伝う。かのそびえる高き白壁を越えゆきて。

 遠くに見ゆるは黒き小舟と人影。何処を目指し進む。

 泡沫うたかたはかなき命を運ぶや。大いなる静かな海の揺り籠。


 *゜・_゜*・。・_゜・。ζ゜ζ゜・。・*☆゜。・*゜・゜*☆*。



 インドの海深く。ゆらゆらと縦に揺蕩たゆたう濃緑の絨毯。

 ん。ようやく見つけた。

 銅鑼どらの紋様と瓜二つ。これにたがわず。

 自慢の腕が鳴る。三つ又のほこで狙うのだ。

 んー。やつは意外と速い。息が苦しい。もう少し我慢。

 とうとう意識がもうろうと。その鉾の先には。

 海の幸。幻とされるインドウニ。召使いの王女、ダスコウル。

 におい立つほどにその棘は美しくもなまめかしい。


 うねる口元に輝く白き五つの歯がのぞく。

 見つめるほどに昏く甘い眠りへといざなわれる。

 とおのく意識の三つ又の鉾を握る男。


 ここは穏やかな南国。椰子が立ち並ぶ。

 居並ぶ海に面する藩王のせいする小国のひとつ。

 長閑のどかに大きな葉はさやさやと潮風しおかぜに揺れる。


 もうすでに遠い、かの男の故郷。地中海。

 のっぴきならぬ初陣で敗れた果て。

 餓死寸前の奴隷となりて、この地にぬ。

 ただまとは、海松みるのごとくかれたころものみで。

 凛々(りり)しげなその身体に生傷絶えぬ。


 この者の故郷では海栗を食す。

 野良のらに出るこの男、海栗が何よりをも好物。

 押し並べてインド人の食卓に海栗は出でぬ。

 ところは海は近い。切なさが日々増してゆく。

 この運命とは残酷なり。

 能力高き男。過酷な奴隷の仕事は厭わず。

 されども憂さは晴れぬ。海栗が食いたいその一心で。

 嫌だと逃げで、海近くの漁村にかくるる。

 御免ごめん納屋なやにて三つ又の鉾を盗むまで。


 とまれ。意識を失いし男は海をただよう。

 肌に血の気なく。海を墓場に溺れ死ぬのか。


 海岸に打ち上げられ助かるか。

 息がつけても見つかれば殺さるる。

 そうされても文句は言えぬ存在。

 運命とは残酷なり。


 ふと目覚めてその身に着ける衣装は煌びやか。

 流転るてんする景色。座るは緑輝く孔雀の王座。煌めく黄金。

 さらには酒にぜいを凝らした馳走ちそうが並ぶ。

 特筆するは、好物の海栗の明るい中身が山盛りに。


 け反り目を見開く男。これは死の間際の幻か。

 夢での饗宴であれど、これはよい。

 物事のひとかけら。時を楽しむべきだ。

 外聞なぞ気に掛けるものは何ない。

 肩に触れ合うは、横に満面の笑みを浮かべる女。

 涼感りょうかん漂う薄きベールは妖艶な踊る女神に似る姿。


 気づけば、しなをつくるこの女の膝の上。

 をおこがましと跳ねあがる。心の蔵その音を聞く。

 突き進み逆上せる血潮で染まるこの身体。

 けだし。白魚の細き指にてふわりと額を押されれば。

 よろしくと優しく微笑む柔らかき肉襦袢にくじゅばんの揺り籠の中。


 旨いと遠く西の作法にて寝ころび馳走をむ。

 いつしかまどろみ、深き眠りにつく。

 はかな現世うつしよの顔は幸せに満ちる。よきものかな。

 なごやかに時は流れる。こくこくと。

 したう二人。かように見える優しく静かな時間。


 女はなおも微笑む。されど今は命なき木偶のようにて。

 とても先程までの柔和な女神の微笑みとは別の顔。

 男は知らずか彼女の頭飾りには虹色に光る細い棘。

 のそりのそりとうごめく。


 ああ。鋭く細い棘と口は、かの男に近づきて。


 そして翌朝早く。霧立つ磯辺を見てみれば。

 美景びけいの岩陰。ヒト形の海松がひとつ。波に揺られ揺蕩う。

 ごろりと虹色に光る棘持つ不思議な海栗がひとつ。

 とても静かに慈しむようにかの海松に寄り添そい漂う。


 波打ち際の砂浜に使い古しの三つ又の鉾ひとつ。

 実に所在なさげにぽつねんと横たわっていた。

 かの逃げた奴隷の男の消息は不明となりて。

 端書はしがき便りに聞く話のひとつ。


 知る人なしというダスコウルとなるもの。

 螺鈿らでんの如く妖しく光る棘持つ海栗を刺し当てれば。

 熱望ねつぼうせしものの願いを叶えるとの言い伝え。

 銅鑼の紋様さえもいにしえせにけり。


 *゜・_゜*・。・_゜・。ζ゜ζ゜・。・*☆゜。・*゜・゜*☆*。


 * 追補 *


 時は経て玉響たまゆらの儚き夢と果てぬ物語のみがあり。

 手放し喜びたるはあでなる肢体に思いを馳せるる。

 藻に変ずる男のおぼろげなる意識。幸せに満ちたり。

 綺羅星のごとくに海に遊ぶ光の帯が揺れにたる。

 れきめぐるただその日限り。男は元の姿に成れり。

 いらふ海栗も人に。ウルヴァシーかくやとうたわる。


挿絵(By みてみん)

 FA:雨音AKIRA様作


 *゜・_゜*・。・_゜・。ζ゜ζ゜・。・*☆゜。・*゜・゜*☆*。

海栗の古語はガゼとか。

端緒のガゼッタは16世紀イタリアのベネチア発の不定期ニュース出版物とのこと。

それと古代ローマやギリシアでは海栗の同じ部位を食べていたそうです。

よく言われているけど、現在は世界の海栗、日本がほぼ消費。次はフランスとか。

ぐるりとそんな感じで、題名をもじってみました。

かのダスコウルはインド人の名前からの造語。Das(召使い)-Kaur(王女)

なんちゃって古語の叙事詩なのです。

竪琴を奏でてくれると嬉しい。


追記

なじかはしらねど:どうしてそうなのか知らないけれど


ウミユリをなまこ様から頂いたです☆ ** _゜ ゜・。ζ゜゜

秋の桜子様から素敵な扉絵をいただきました。ありがとうございます。

さらに雨音AKIRA様からも素敵なFAをいただきましたー☆


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― 新着の感想 ―
[良い点] 素敵ですね (*´▽`*) >*゜・_゜*・。・_゜・。ζ゜ζ゜・。・*☆゜。・*゜・゜*☆*。 これもとても可愛い (∩´∀`)∩~♪
[良い点] 素敵な文体の詩ですね。 言葉一つ一つに味があって、印象的でした。
[一言] こんにちは。 せっかくなので、音読しながら味わってみました。何回か読んでみて、気がつきましたよ。何とも味わい深い縦読みですね。もともと吟遊詩人たちがうたったものも、単純に美辞麗句を並べただ…
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