5-11 昼飯時の話
今、弁当を広げて昼飯を食べている。
場所は、魔鉱石採掘場場長クリスティーノの執務室。ここは、来客用の応接室も兼ねているようで、机と椅子の他にソファーとローテーブルもある。
そのソファーに2人と2体。そう。皆一緒になって弁当を広げている。
久しぶりだね。人間用の食べ物。カークは、あのように言っているけど、最近はそう食べさせてもらえていない。魔動物用それもリザドリスク科用のが主だ。
弁当といっても、あの南サガラの貴重な米じゃないよ。ここは麦が多くてパンがメイン。そしてこれは、黒っぽいライ麦パンに似たもの。
そう。ファンタジー系の物語で良く出てくる、黒パンだね。
黒パンの不評をよく聞く。
だけどそんなことはないよ。こちらは黒も白もどちらも旨いと思うんだけどね。ライ麦の多い黒パンを元にいた世界でも、好きでよく食べた。
ここの黒パンも酸味の少し効いた固めのパン。そして、良い感じで苦みがある穴の開いたこのチーズとよく合う。このさくりとしたパンを噛み締めれば、草原麦のライ麦に似た香りがふわりと鼻腔内を擽る。
ここのは原材料の麦の種類が異なるから、違うものかもしれないけどね。
うん。他に入っているのも旨いには旨いよ。でも人間用の食べ物は、何か物足りない。最近は魔動物としての舌が肥えてきたのかな。これだったら、人間用の食べ物も毎回となると飽きてしまいそう。
カークとクリスティーノの弁当は、同じものだからいいとして、ミルマノの弁当はどんなものかな。
ミルマノの弁当を見る。向かい合わせで座っているから、少し目線を上げれば、すぐにミルマノの弁当に目が届く。
んー。あの独特な橙色。ミルマノはとても嬉しそうに食べているけど。あれは、草魔飛の肉だよ。うん。リザドリスク科用の弁当でなくて良かった。
あれは奮発した馳走だという理解はしているんだけどね。あの肉を口に含むと、ひねた野菜のような臭いがするから苦手なんだ。
でも、あっちには魔プラムがある。いいな。
あ。ミルマノと目が合う。
「む。ラケルタは、魔プラムが欲しいようだな。やれるか? ミルマノ」
『承知しました。はい。どうぞ』
あれ。何だか催促しちゃったみたい。いいや。いただけるのなら、もらおう。
ミルマノからもらった魔プラムを丸ごとぽんと口の中に放り込む。口いっぱいになるけど、構わない。これを口腔内でプチュッと潰す。ふわりと甘酸っぱい香りが鼻腔を通り抜ける。後味の甘みを伴う独特な旨味が舌を優しく覆う。
うん。やっぱりいいね。もう声は出ないけど、安定した旨さだ。
「ラケルタ。そんなに、にやけるか。朝も食ったんじゃないのか」
『本日の朝食時は、切らしていたようで、なかったですね』
「む。そうか」
「ほう。ラケルタ君は魔プラムが好きか。魔植物の果実だったらこの近辺に豊富にある。結構変わったものもあるよ。次に来る時は、いろいろと用意をしておこう」
「うむ。頼む。こいつの食性と嗜好を知りたいでな」
「いいよ。僕にどんと任して。といっても、この細身に大男の君が襲ってきたら、潰れてしまいそうだけどね」
「ははは。随分と言ってくれる」
「あ。そうそう。変わった魔植物と言えば、ミランダさんがここに訪ねて来たよ」
「ほう。そうか。それでどうした」
「あれ。知らなかったのかい? 彼女は南サガラの方へ行くと言っていた。同行の従魔たちに、持てるだけの魔鉱石を持たしてね。何か相当珍しい魔植物の花が咲く時期だからと、とてもうきうきとしていたよ。魔鉱石を補充するために、またここに来るとも言っていた」
「来るのはいつだ?」
「そうだね。すでに一度補充しにここに来ているよ。普通に南サガラ付近で滞在するための魔鉱石だったら、まだ残りはあるはずだから、次は、もうしばらくあとだろうね。次に来たら、君に連絡するように言おうか?」
「おう。それも頼む。あいつは夢中になると細かいことが抜け落ちるでな」
「それは君に似ているね」
「言っとけ」
「それで、今回は魔鉱石採掘現場の見学で良かったのか」
「そうだな。あと、追加で急な依頼があってな」
「ん。急な依頼とは?」
「何。雑用だ。町のガキのために、変わった魔独楽石を探すことになった」
「へえ。君がそんな依頼を受けるなんて珍しいね。その探す魔独楽石は、遊戯用のだよね。今、町の子供たちの間で魔独楽石投げが流行っている噂を聞くよ」
「言っとけ。だが、受けてしまったからには、せねばならん」
「フフフ。とても君らしいね」
「ふん。当たり前だろ。そんなもん」
「そうだね。だけど、君のような人間ばかりだったら苦労はないね」
「む。何かあったのか?」
「なんでもない一般論だよ。そうそう。変わった魔独楽石を探すことだったよね。ここに、こういうのがあるよ」
クリスティーノは、装飾が施された棚の中に飾ってある正8面体の石を取り出す。これも魔独楽石らしい。だけどこれは濃い紫で、ほぼ黒といっていい。
彼はそれを掌に乗せてその石を動かした。するとその石は、虹色に移ろいながら輝いた。このオパール様の遊色が幻想的でとても綺麗だ。
「これはね、珍しいからと、現場の監督長が持って来てくれたものだよ。だから、これを君にあげることができない。だけど、もしかしたら、同じような魔独楽石が採掘現場にあるかもしれない」
「ふむ。これは遊戯用というより、標本用として飾っておきたいものだな」
「君ならそう言うと思ったよ。いろいろと変わったのが見つかるといいね」
にっこりと微笑むクリスティーノ。
「ふむ。帰りの時間までにそうある訳ではないな。早速行くとするか。クリスティーノ。案内の者を頼む」
「いや。今回は僕が一緒に行くよ」
「いいのか? 身体に障るぞ」
「大丈夫。これでも魔動物召喚魔術師の端くれだよ。現場の視察もしないとね」
「ま。無理はするなよ」
「気遣いありがとう」
この2名と2体で魔鉱石採掘現場に行くことになったようだ。




