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幻想日誌:魔動物として召喚された男の物語  作者: 森野昴
第4章 従魔候補のお仕事
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4-16 子守と文字

いろいろとありました。

 あれから、ひと月が過ぎた。


 ミランダさんは、まだ帰って来ない。町の外に出かけていると分かっていても、心配をして良さそうなものだと思う。だけど、周りの施設の職員たちは何事もないように過ごしている。


 そうそう。あの魔糠味噌の壺は、ちゃんと当日の夕飯時に食堂へ戻したよ。


 蓋をしたら、開ける前に戻った。それで、ゴンザ氏に、オメエも中身を食うのをあきらめたかと言われてしまった。


 その後、身体の魔素含有量が急速に回復した。ほんと、みるみるうちに身体が軽くなったよ。身体を維持するだけでも、筋力が必要なんだというのを実感した。


 そして、ルークから、意識の表層に浮かぶイメージで、基本的な魔法の手ほどきを受けた。うん。イメージトレーニング。大変だったけど、解りやすかったよ。


 自由時間を使って、自室で実際に魔法を発動してみた。ファンタジーでお馴染みの4大元素、火水土風の基本的な日常魔法。


 日常魔法は、漏れ出る魔素流も微弱で感知されにくい。それと魔法だと知らずに使う知的魔動物も多いから、見つかっても大丈夫だとのこと。


 こちらの意識体として魔法は、水と風はいいけど、土はまあまあ、やっぱり火はあまり得意じゃないみたい。


 でもね。4大元素とかは、分類上便利だから、そのように分けているだけ。根本は同じ魔法原理とか。


 あと、残念なのは、時空系の魔法が試せないこと。ここは召喚魔術を行う施設だから感知されやすい。それに、時空魔法をあやつる魔動物は、とても高位とされているから、目立つんだって。


 閑話休題。


 こちらは、この町ニサンで姿が人間に近い無害な魔動物として知れ渡っていると、施設の職員たちから聞いた。


 そう。姿が人間に近くて無害。しかも従順だということで、人間との信頼関係が築き切れていないとされる従魔候補なのに、子守の依頼が多い。


 それで、今や同時複数指名までもらう引っ張りだこの子守だ。なので、施設内に場所をもうけて子供たちを預かる方式となった。


 ここ、ニサン伯立従魔施設院は、物理的な防衛設備はもちろんのこと、施設を守る人間の職員たちや、護衛などで戦闘にけた従魔たちの目が自然と通り、とても安心だ。


 その施設の中庭にある、こじんまりとした小屋。そして、その周辺に囲いが設置されている。こちらは、この中庭の小屋と囲い中での自由行動が許された。


 子守担当は、こちら一体となる。何かあれば、近くの誰かを呼べば良い。


 その時は、この声でかまわない。すでに皆が知っていること。この澄んだ鳥ような美しい鳴き声は、緊張感がなくて間が抜けるけど、それはそれで仕方がない。


 従魔候補としては破格の扱いだよ。もちろん監視の目はあるけど、それだけ信用をされたということ。


 今、その中庭で、従魔候補のお仕事をしている。


 子守で預かっている子供たち。うん。ちょっとした保育園だね。


 保父さん? いや、これでは、子供たちに遊ばれているともいう。


 子供たちにせがまれて、地面に文字のようなものを書いて遊んでいる。何故か、すらすらと書けてしまう絵文字をくずしたような落書き。


 中学生の頃、こんな遊びをしなかった? クラスに一人位はいたと思う。ノートの片隅に、訳の分からない文字をびっちりと書くやつ。こちらは当時、そんな文字を書くやつの一人だった。


 あの時は夢中だったけど、今思うと、黒歴史だね。


 ん? 何か、気配を感じる。


 ……あ。


 カークが、こちらの様子を見に来た。


 えー。うそでしょ。この時間帯は、来るはずがないのに。


 カークは、こちらの契約主である魔動物召喚魔術師。さらに、遺跡から出土される古代魔道具の解析を趣味としている。とても紋様魔術に詳しい文字の専門家だ。なので、こんな出鱈目でたらめに崩した絵文字を見たら、あきられてしまうと思う。


 うー。とても恥ずかしい。


「おう。ラケルタ。元気にやっているようだな」


 こちらの正式な契約名は‘リディクラム ヴェトゥス ラケルタ’。そして、ミランダさんから‘ラケルタ’という呼び名をいただいた。カークも、そのように呼ぶ。最近では、今のように、町の人間たちがこちらを呼ぶのにならって呼び名から力ある言葉も消えている。


 あ。おっと。文字を消そう。


 こんな出鱈目な落書き文字を、専門家に見られたくない。


「む。何をしておる。ほう。お絵描きか?」


 カークが近づいてきて覗き込む。


「トカゲの兄ちゃんがね。変わった文字をかいているの。面白いよ」


 ミザちゃんが答える。ツインテールの小さな女の子。ここの常連だ。彼女の両親は日帰りで隣町まで行商に出ているらしい。そのご両親は、ここなら、町の人間に頼むよりも安全だし、かなり安いので助かるとか話していた。


 いや、その、答えなくていいから。ミザちゃん。


「ぶったおれの兄ちゃん、魔動物なのに、変な特技をもっているぞ」


 アランくんもいいから。


 彼は夫婦で経営している人気食堂[ぐりる・まるべりー]の子だ。最近は特に忙しいようで、よくここに預けられに来る。もう少し大きくなったら、食堂の手伝いをするとのこと。ここでは普通のことで、児童福祉も学校もないようだ。


 何故、アラン君がぶったおれの兄ちゃんと呼ぶかと言うと、個々の依頼を受けて依頼主の所へ通っていた時、連日その食堂の手伝いの仕事をした。そのお礼にと、毎回、賄い飯をいただいた。


 人間用の食事は魔素含有量が少ない。それで腹を膨らませるのは危険だとルークから注意を受けていた。だけど、毎回、旨くて腹いっぱいに食べた。そして、その日の施設の夕飯を抜いた。


 それを、2回ほど繰り返した時、ルークが知らんぞと言ったきり、何も伝えて来なくなった。それで、ストッパーがなくなった結果、体内の魔素切れを起こして、ぶっ倒れたことがあったのだ。


 その時、カークが心配して、飛んで来てくれた。魔法で飛んではいないと思う。とにかく、それで事なきを得た。


 その代わりと言っては何だけど、こちらの保定魔道具の状態が、‘制御休止’から‘最小制御体勢’に変わった。だけど、実質的には今までと変わらない。むしろ、今の状態の方が身体の調子がいいように思える。


 うん? あ。いや。今は、目の前の出来事の処理をしないと。


 そう。そのカークが、じっと地面を覗き込んでいる。


 これは、ばっちりと見られてしまったね。消し切れていない部分がある。


 あー。うん。素知らぬ顔で、にっこりと笑ってみるか。いやー。子供たちにせがまれてね。という感じで。これは、本当のことだし構わないでしょ。


 こちらが、にこやかに笑いかけようと顔を上げると、カークがけわしい目をして、こちらに顔を向けていた。


「ラケルタ。話がある。この仕事が終わったら、俺の分室まで来い」


 え。……どゆこと?


 こちらの不安をよそに、子守で預かっている子供たちが、きゃっきゃと歓声を上げて騒いでいた。


呼び出し?

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