4-15 魔糠味噌
サブタイトル変更をしました。
この壺の蓋を、どうにかして開けたい。
今、魔法の壺、魔壺と格闘をしている。
とても手強い相手だ。
そう。もちろん、物理的な格闘ではない。それこそ、割ったりしたら大変だよ。それでも、ミランダさんなら、許してくれそう。だけど、従魔長のゴンザ氏に叱られる。あれは怖い。
この壺の蓋を開けるために、魔素流の動きを見ようと、あれこれと、取り組んでいる。ルークは、この壺の魔素流の動きが見えるはずだと言う。さらに聞いても、約束をしたから、壺の中身を食せとの、一点張り。
それで、彼のと対話を諦めて、蓋を開ける唯一の手掛かりとなる、魔素流の動きを見ようと、この魔壺とにらめっこをしている。
大テーブルの上にある、黒と黄色の象嵌細工で美しい文様が描かれた、壺。この文様は、魔鉱石で加工しているようだ。魔鉱石は、色とりどりの種類と宝石のような光沢があり、細工物の材料として遜色がない。
目を凝らしたり、遠ざけたり。瞑想をしてみたり。下から覗いたりした。
うーん。どうしたらいいの? もう、へとへとだよ。
え。掃除の時間だって?
結構な時間が経っていたようだ。周りに、彼以外の気配がない。彼は、この食堂の代理の職員だ。存在感も薄いけれど、声も小さい。
へ。この壺ごと、自室に持って帰っていいの? 後で、容器を返してくれれば、それでいいって。だけど、面倒ごとはいやだから、壊さないでって。
彼は、ただ単に、厄介払いをしたいだけだろう。そして、こちらはまだこの壺を調べたい。この壺は両手で抱えれば、楽に持てる。それで彼の提案に乗り、自室に持って帰ることにした。今は昼下がり。夕飯頃に戻せばいいだろう。
帰り際、ルークが規定分位は食せよと、うるさい。なので、ルークが指定をする規定分の食料を、味を気にする間もなく、急いで口に放り込んだ。
自室に戻る。静かな自室内。やはり、喧噪なところより、こういうところの方が落ち着く。特に、考え事をする時はね。
さてと。続きをしようか。
何も見えてないから、面白みも何もない砂を噛むような作業。
うーん。この文様をよく見て、か。だったら、この壺の文様を、目で順に追ってみようかな。自室なら、そういった細かなことをするのも可能だ。
壺の文様の一つ一つを、じっくりと観察する。それを順に追う。
すると、緻密な文様が、ぐいんと大きくなった。
え?
いや、違う。こちらが拡大をしたんだ。これも魔法だね。だけど、今は、これが目的じゃない。この壺の魔素流の動きが見たい。
拡大をしたまま、さらに、壺の文様を目で順に追う。繰り返して追う。
う。目がかすむ。焦点がぼやけてきた。
ん? あれ。
次第に、壺の表面が、びんびんと振動しているのが見えた。そして、光る細かい粒子状の流れようなものが、見えたような気がした。
それで、文様を目で追うのをやめ、瞬きをして、壺そのものをよく見る。
うん。間違いない。振動と粒子状の流れが見て取れる。
その振動を追う。振動の周期が、音節のように、一定の時間を追うごとに変化をする。そして最初に戻る。その繰り返し。それに対応して、光る細かい粒子状の流れが変化している。
この流れが魔素流の動きかな。ルークは、魔素流の動きが見えたら自ずから対処方法が解ると言っていた。
それで、何回も繰り返して、その動きを見た。
何だろう。これって、何だか、言葉に似ているような気がする。
ん?
‘みけつくに さがらのたみの みたまもの まぬかのみみそ にえにとささぐ すみしこえ はむとのおおせ たまいなむ’
へ。言葉が聞こえる。この雰囲気は……あの平らな声?
魔素流は、このような意味合いの動きを繰り返しているようだ。
この言語変換はルークの自動意訳だろう。だけど、そのままでは解りにくいよ。
うーん。これって、日本の古語に近いよね。
それと、‘さがら’って、米を栽培しているという、あの、南サガラだと思う。
うん。そうか。じゃあ、こんな感じかな。
‘御食つ国 サガラの民の 御賜物 魔糠の御味噌 贄にと捧ぐ’
へえ。でも、何か、大仰な感じがする。
あ。そうか。もともとは、神様へのお供え物だったのかも。だったら、後半の‘すみしこえ’は、ゴンザ氏が言っていた、大きな神殿の儀式で神官が使用するという、古ドラコロイド語のことだろう。
そう。澄みし声。この喉から迸る、澄んだ鳥のような声。こちらの地声だよ。この声で、‘はむ’力ある言葉で‘食べる’と言えばいいみたい。
うん。これで、魔壺の蓋が開くかな。たぶん、食べるという意味を込めて声を出せば、その言葉が出てくるはず。
よし。じゃあ。力ある言葉で、食べるという意味を込めて。
「‘クラウーナ ティア ルアークゥールア’」
すると、魔壺が黒色に光り、何かのベルが鳴る音がした。同時に、蓋がぱかりと開いた。その蓋が開いた魔壺から、ほわっとしたようなものが漂って来て、こちらへと向かってきた。
え。あ。これって、ヤバイものじゃなかった?
と、思うかどうかのところで、それは立ち消えた。
- 何。心配ない。我がいる。ナオトは、その壺の中身を食せ -
あれ。まだ、それを言うの。ルーク?
- ん。その中身は、魔素含有濃度が高い魔糠味噌だ。食しないで批判をするのはどうかと思うぞ。ナオト -
あ。うん。お供え物のお下がりで、お味噌みたいなものだもんね。ありがたく、いただきますよ。
こちらの私物というものは、そうある訳ではない。だけど昨日働いた店、[ぐりる・まるべりー]のシェリーさんから、匙を一ついただいた。その匙で、魔壺から中身を取り出す。
匙には、ねっとりとした黒い物体が纏わり付いていた。でも、それの匂いを嗅ぐと、それこそ、味噌のような、懐かしい良い香りがした。
- その匙なら、一掬い分で良い。それで十分だ -
え。そうなの。うん。良かった。その量なら、大丈夫そう。
意を決して、それを一気に口に含み、舐め取った。
- あ -
え?
そう疑問に思った直後、身体が火照る。熱い。あまりに熱かったのと、ここは自室なので、保定魔道具の鎖を気にせずに、ポンチョを脱いだ。
- ナオト。君は、あんなに嫌がっていたのに、一気に食すか。ククク -
ふうー。熱い。汗も出る。どゆこと?
- 魔糠味噌は、魔素粒子の担体が豊富で、しかも吸収効率のとても良い食料だ。これでこの身体の魔素含有量不足が解消される。しばらくすれば、その熱さも落ち着いて来るだろう -
あ。そうなの。だけど熱い。熱すぎる!
しばらく、その身体の熱さで、のたうち回っていた。
魔糠味噌は、かなり効率の良い食料のようです。




