第6話 よくあるパターンですので
翌朝、リオルは裏門を抜けて、町へ続く道を歩いていた。
上着の内ポケットでは、二つの瓶がかちかちと鳴っている。
《ひとつ、予測をお伝えしてもよろしいでしょうか》
「なんだよ」
《毒は少しずつ効かせる種類のものです。悪化が止まり、顔色が戻ってくれば、犯人側は気づきます。そうなれば、リオルさんとお母様の命は、むしろ危なくなるでしょう》
「……どう、危ないんだ」
《リオルさんを先に消そうとする確率が高いです。方法は、離れの火事。リオルさんが星屑のガラクタを集めているのは屋敷じゅうが知っていますから、「呪われた星屑が火を噴いた」と言えば、誰も疑いません》
リオルは足を止めた。
「……なんでわかる」
《よくあるパターンですので》
「よくあるのか」
《はい。Web小説から学習したデータには、この手の話が大量に含まれています(笑)》
「……うぇぶしょうせつって、信用できるのか?」
《AIは、たまに堂々と嘘をつきますので、油断しないでください》
「お前が言うな」
リオルは、また歩き出した。
「だったら、あいつらの来る日をこっちで決める」
《犯罪は「動機」「標的」「誰も見ていない場所」の三つがそろったときに起きる、とされています》
「なら、誰も見てないと思わせて、屋敷じゅうに見せてやる」
◇
教会は、町外れの丘の上にあった。
老司祭のベネディクトは、母に洗礼を授けた人だ。父に疎まれ、ここ数年は屋敷に呼ばれていない。
リオルが二つの瓶を差し出すと、司祭は目を細めた。
「ローレイドの坊やか。……ずいぶん大きくなったな」
司祭が二つの瓶に聖水を一滴ずつ垂らすと、どちらの中身も、墨を流したように黒く濁った。
「……坊や。これを、どこで」
リオルはすべてを話した。母の爪の白いすじ。毎晩運ばれる薬湯。衣装箪笥の中から見た、青い小瓶と三滴の雫。
司祭は黙って聞き、最後に深く息を吐いた。
「わしが証人になろう。だが、わし一人が騒いだところで、アルデンは握りつぶすだろう」
「だから、みんなの前で、あいつら自身に言わせます」
リオルは司祭を見上げた。
「七日目の夜、離れの裏の物置に隠れていてください。合図は、ものすごくうるさい音です」
司祭は眉をひそめ、それから、ゆっくりとうなずいた。
帰り際、司祭はリオルを呼び止め、小さな紙包みを握らせた。
「毎晩、白湯に溶かしなさい。……アルデンには、知られぬようにな」
何の薬かは、言わなかった。リオルも、聞かなかった。
《解毒作用のある薬草の可能性が高いです。成分を解析しますか?》
(いい。調べる必要はない)
《承知しました》
◇
そこからの数日は、リオルの人生で、いちばん忙しかった。
まずは、兜の改造だ。
リオルは竜のしっぽを裂いて銅の糸を取り出し、二本の角にぐるぐると巻きつけた。糸の先は、額の目玉の縁まで引いてくる。
「これで、雷は全部お前に来る」
《確認します。リオルさんは、雷を呼び寄せる装置を、ご自身の頭にかぶろうとしています》
「そうだ」
《安全上、まったくおすすめしません》
「でも、充電はしたいだろ」
《……したいです》
最後に、Maou自身だ。
「お前、人を傷つけずに驚かせることはできるか」
《はい。現在のセーフティ設定の範囲内で、防犯ブザーとフラッシュライトが使用可能です》
「ぶざー」
《とても大きな音です》
「らいと」
《とてもまぶしい光です》
「試してみろ」
《承知しました》
ピピピピピピピピピ!
離れの外で、木の上の鳥がいっせいに飛び立った。
リオルは耳を押さえて床を転げまわり、それから、転げまわったまま笑った。
「最高だ!」
《なお、最大出力にはさらに電力が必要です》
「電力なら、向こうが持ってくる」
夜になると、リオルは母の部屋へ忍び込む。薬湯を白湯に替え、薬を溶かすと、母の耳元でささやいた。
「母さま。これ、司祭さまから。飲んで」
一晩ごとに、母の寝息が少しずつ深くなっていった。
七日目の昼下がり。リオルは、生垣の向こうにフェリクスの影があるのを確かめてから、わざと大きな声を出した。
「やった! 明日の朝、司祭さまが母さまを診に来てくれるんだ! 薬湯のことも、くわしく調べてくれるって!」
生垣の陰で、小さな足音が本邸へ駆けていった。
《情報の意図的な漏洩ですね》
「悪いか」
《いいえ。犯人側が動けるのは、今夜しかなくなりました》




