3.
この街は意外に広い。
大通りを歩いても歩いても、未だに街を出られない。
困ったもんだ。
街の東西なら一時間も歩けば外に出られそうなんだが、そこには山嶺が続いている。
山越えなんてやりたくないから行くだけ無駄だ。
このまま南へ向かうしかない。
昨日も思ったが、魔王城前とは思えない程に普通の平和な街並みだ。
冒険者や兵士達が行きかうのは半数程。
残りは商人や一般人としか言いようのないおばちゃんや子供達だ。
特にスラムっぽい場所も見当たらない。
魔王に対する最前線のはずなのに、そんな緊張感は微塵もないのだ。
変な街だな。
俺はそう思わずにはいられなかった。
昼食時になると、どこからか美味そうな匂いが漂ってくる。
歩く先に広場が見えてきた。匂いはあの辺りかららしいな。
辿り着いたそこは道に沿って縦長の場所で、陸上競技場ほどの広さがある。
トラック部分が左右に分かれた道で、インフィールドが自由に歩ける広場。
広場の中央には、横十メートル、縦百五十メートルの池が設けられていた。
噴水が五十メートル間隔で三箇所もある。
「ほええええ……こりゃあかなりの公園じゃないか」
池と道路の間には所々に屋台や露店が立ち並び、意外と盛況だ。
いくつかの屋台を回り、肉の串焼きやハンバーガー、ジュースや鳥の唐揚げなどを食べ歩く。
満足に食べたのでさっさと公園を通り抜け、さらに南へと向かった。
大通りは馬車の往来も結構あり、人と物が適度に動いてるのがわかる。
店も通りに開き、並んでる品に粗悪品はない。
食べ物なら悪くなる間も無く売れており、それ以外も埃をかぶる前に手入れされていつでも使える状態を保っているからだ。
この状態を見ると悪い印象はない。
俺が商人であれば店を構えていたな。
だが今の俺はこの世界をほとんど知らない。
だから、いろんな所を見て回りたい。
あちこちの店をゆっくり見ながら歩いていたが、そろそろ夕方になりつつある。
昨日泊まった宿屋に似た雰囲気の店に入る。
やはりそこは、酒場兼宿屋だった。
「一泊いくらになる?」
「銅貨四十枚。夕食と朝食を付けるなら四十八枚ですよ」
お? ちょっと安いな。
「じゃあ、一泊食事付きで頼む」
「はい。ありがとうございます」
サクッと金を払い、夕食にする。
酒場は半分程席が埋まっていたが、馬鹿騒ぎするような者はいないようだ。
肉の煮込みシチューと野菜とパスタのサラダ、フカフカの食パンが八枚、ミルクがジョッキに二杯。
十分満足した。
部屋に戻ろうと席を立つと、丁度五人程の冒険者が入ってきた。
世紀末でヒャッハーしてそうな連中だ。
「女将さん、麦酒五つに日替わり十人前!」
「あいよ! 何だか景気が良さそうだね!」
「おうよ! 今日はオーク十匹以上倒したんでね、肉が大量に売れたんだよ!」
女将さんの目がキラリと光ったような……
「それでその肉は?」
モヒカンは待ってましたとばかりに仲間を見ると、そいつが側に置いていた袋から、一抱えもありそうなモモ肉が四つ。
「よくやったよあんた達!」
そう言って女将さんは軽々とモモ肉を持ち上げ、厨房へと運んで行った。
そして麦酒を人数分持って来る。
「あの肉はだいぶ質が良いから、今あんた達が注文した分の代金は要らないね。更に泊まるのなら一ヶ月分だけど、どうするかい?」
「うーーん、七日は休養に当てて、それからまた狩りに出るよ」
「そうかい。なら残りの分は現金で渡すよ」
女将さんが再び厨房に下がり、今度はお金が入っているらしい袋を持って来た。
「またいい獲物が手に入ったら持って来ておくれよ!」
「ありがとう、オバちゃん」
ゴンッ!!
「誰がオバちゃんだっ?!」
ぶん殴られてその男はテーブルに突っ伏した。
言葉には気をつけないとなぁ。
翌日、朝食を平らげ、宿を出る。
目標は街を出る事だが、その前に地図を買わないと。
道具屋を探すと、近くには五件程ある。
近くから順番に見て回ると、どうやら四件目にあった地図が一番詳しいようだ。
だからその店に戻り、地図とその他必要な物を購入する。
店を出て南へと向かう。
昨日と同じような風景が変わらず続く。
そして昼を過ぎた頃、ようやく街を出るための門が見えてきた。
門の手前にある露店で昼食用の串肉やサンドイッチ・飲み物をそれぞれ二十人前程を買い込み、拡張道具袋に入れる。
これなら歩きながらでもメシが食えるな。
街を出る為の門は石造りの頑丈なもので、外壁の高さは五メートル以上、厚さは十五メートルにも及ぶ。
そんな外壁が東西に伸び、それぞれ山嶺まで届いていた。
「どんだけ作るのにかかったのやら……」
時間とかお金とか……まぁ、魔王様がいらっしゃる限り、ここが魔物で溢れる事はないだろ。
門を出た俺は、一度魔王城を振り返る。
そして、魔王様の柔らかさの思い出を胸に、街を後にした。
大きくてよく揺れたなぁ……
門を出て轍の残る道を南へと歩く事二十日。
途中では狼の群れや盗賊なんかが現れたが、俺よりはるかに弱かったので、サッサと片付けて火魔法で焼き尽くした。
戦利品? 剥ぎ取りの技術が無いから無視無視。
盗賊共の持っていたお金だけは頂いたけどな。
そんなこんなでようやく人の住む集落が遠くに見えてくると、安堵のため息を吐く。
ちょっとした林や草原があり、それが途切れて麦畑になったからだ。
二軒や三軒の家が固まってる場所がちらほらと続き、やがて五十軒程がまとまっている場所が見えてくる。
「今日はここで泊まりかな」
堀と簡単な柵で囲まれた村は、板張りの門が設えられている。
その左右に、門番がいた。
「いらっしゃい。タイーデ村へようこそ。まずは身分証の確認のため、街の滞在証明かギルドカードを提示してください」
「あ、はい」
冒険者ギルドのカードを出すと、簡単に名前とランクを聞かれた。
それを確認した門番は、あっさりと俺を通してくれる。
俺の後ろから来た馬車がいたので、いつもこんなものなんだろうな。
御者の人がカードを出すと、それを確認した門番は荷物をいくらか確認し、村へと通していた。
この村はこうした旅人の為の休憩所のようなものか。
馬車を停めるスペースがやたらと広い。
厩は屋根と後ろ壁があるだけだが、百頭ほど収容できるんじゃないか?
宿も大きいし、泊まれる人数も多いだろう。
そんな宿が五軒もある。
俺はあまり装飾のない宿に入った。
さて翌日。
地図を確認し、次の宿場町までの日数以上の食料をあちこちの店で調達して、昼前には村を出る。
畑が広がる風景は、村に入る時と同じだ。今度は逆なだけだな。
だんだんと畑が減り、柵を挟んで草原になった。
ここからまた、のんびりした風景が続いていくのか……
しばし歩いたところで殺人狼が出たり、殺人大鷲が出たり、殺人大蜂が出たり、殺人大蟻が出たり、殺人大兎が出たり、殺人大熊が出たり、殺人大猪が出たり、って、魔物が出すぎだろ!!
この辺は殺人魔物シリーズのテリトリーかよ?!
ともかく魔物を蹴散らしながら、更に二十日進むと、再び前回と同じ規模の村が見えてくる。
前回同様に宿をとり、食料等を買い込んで、今回は東へ向かう事にした。
東には国の王都があるからだ。
そういえば、国の名前すら知らなかったな(笑)
エルファレン王国というらしい。
魔王領は、王国の北西部側に接しているわけだ。
昨夜ようやく、国全体の地図を確認して判明した。
道なりに進めば良かったから、気にしてなかったわ、はっはっはっ。
だから、ようやく目的地を定めたわけだ。
歩いてきた感じからすると、王都まで二ヶ月はかかるだろう。
間に宿場町が二つほどあるからな。
ま、急ぎの用事があるわけでもなし、のんびり行きますかー。
宿場町を出て十日目。
街道を歩く俺の前で、厄介事が近づいて来た。
お約束の『魔物に襲われている馬車』である。
馬車は車輪が割れ、傾いて止まっていた。
繋がれている馬二頭は足をじたばたさせているが、繋がれている故に逃げる事は叶わない。
その馬車の橫には全身鎧の騎士が五名おり、巨大な漆黒の狼を牽制している。
狼は馬車の半分ほどの体高があり、騎士連中も迂闊に近寄れないようだ。
ん? あの狼、見覚えがあるな。
更に近付くと、頭の中に声が響く。
《私の仔を返せ! 貴様が奪った私の仔を!》
確か、魔王領の北方面を縄張りにしている、黒星狼のクロエさんじゃないか!
俺が四天王に上がる前に、一月程修行をつけてもらったんだよ。
十年程前に仔が生まれたって聞いてお祝いに行ったら、仔を守る母親の本能にぶちのめされたんだっけな、はっはっはっ。
その時の仔が奪われたってなぁ、物騒だな。
世話になったし、お礼という事で行ってみるか。
《おーい、クロエさーん!》
魔力を使った念話で話しかけてみたが、クロエさんは聞く耳持たずで騎士達に向かって吠え続けている。
「おいっ! 危険だぞ!」
「下がれ! 素人が近づくな!」
騎士達が注意してくるが、知ったことじゃない。
《落ち着けって、クロエさん!》
ギャウンッ!
強く念話を飛ばしながら、鞘付きの剣で頭をぶっ飛ばした。
よろめきはしたが、一歩足を横に出すだけでこちらに向かって立て直してくるのは流石。
《何をするっ?!》
ようやくこっちを見たので、魔力をぶつけながら再び強い念で話しかける。
《俺だよ、俺俺。覚えてるだろ、クロエさん?!》
《何だっ?! 誰かと思えばジョセフィーヌじゃないか!
お前も邪魔をするのかっ?! それならば容赦……》
《落ち着けって言ってるだろうが! 俺はクロエさんの味方だよ! それと、ジョセフィーヌって呼ぶな!》
《そ、そうなのか?》
《全く、母親の本能とはいえ、視界が狭いにも程があるぞ》
《面目ない……》
しょんぼりした様子に、ようやく落ち着いて話ができるな。
《んで、あの馬車にクロエさんの仔が乗っているわけなんだろ?》
《そうだ! この前の暖かくなった時期に、いきなりあの仔の足元が光ったかと思ったら、そのまま消えてしまったんだよ! 気配はつかめていたから迎えに来たら、こいつらに邪魔されているんだ! 全く腹が立つったらないよ!》
クロエさんの話からすると、どうやら使い魔召喚で捕まったようだな。
魔王領の聖獣を何だと思ってるんだか……否、この場合は偶然に縁が繋がってしまったってとこか。
俺は壊れて傾いている馬車に向かうが、護衛の騎士達が立ちはだかる。
彼等は俺に槍を向け、いまにも攻撃してきそうだ。
「そこで止まれ! 貴様はあの魔獣の仲間なのかっ?!」
「仲間というか俺の師匠だな。いろいろと戦い方を仕込まれ、鍛えてもらったから」
そう答えた瞬間、一斉に槍を突いてきた。
俺からするとゆっくりに感じるそれを屈んで避け、剣を抜いてそれらを叩き上げた。
そしてがら空きになった腹に蹴りを入れて這い蹲らせる。
「……ぐ……ぐふっ……貴様……」
こちらを恨みがましい目で睨んでくるが、それを放っぽって馬車に近付いた。
傾いているのでドアが開けられない。
仕方がないので、馬車の上半分を剣で斬り飛ばす。
中の気配から、どのような姿勢でいるのかは把握しているので、誰一人傷付けてはいない。
中には三十から四十くらいの女性が二人。
片方は豪奢なドレスと指輪やネックレス等の装飾品を身につけている事から、貴族か金持ちの商人と思われる。
馬車に乗っている人間の半分の重量を担っている。
もう片方はメイドか。
そして、十代半ばと思われる子供が二人。
男の子と女の子だ。
どちらも仕立てのいい服装だ。
そんで最も肝心なクロエさんの仔狼は、女の子に抱えられている。
体長三十センチくらいなので、まるで仔犬のぬいぐるみだ。
みんな気を失っているので、クロエさんの仔だけを掬い上げて馬車を出る。
すぐさま横になって待ち構えているクロエさんの方へと駆けて行き、乳を口に咥えさせた。
仔狼は夢中になって乳を飲む。よっぽど腹をすかせていたようだ。
《……こんなに小さくなってしまって……》
《ん? 本来はもっと大きかったのか?》
《ああ、少なくともこの三倍はあったよ》
《何てこった……》
黒星狼は魔王領の聖獣であるが故に、その身体の殆どが魔力で構成されている。
だからその成長には、母親からの魔力と知識・智慧の供給が必要不可欠なんだ。
そして、子供の身体では空気中に漂う魔素を吸収できないという制約がある。
おまけに魔素吸収ができるようになるのに、約百年かかる。
身体が馴染むのにそれだけかかるという事だ。
だから、この仔がこんなに小さくなるという事は、それだけの期間、魔力の供給が途絶えていた事になる。
おそらく、あと二ヶ月とかからずに身体を維持できなくなって消滅していただろう。
全く、無差別にこういう召喚をするやり方は気に食わないな。
直接対峙して契約するならともかく、召喚された時点で強制的に契約させられるやり方には虫唾が走る。
ん? なんか魔力のつながりが見える。これは……
「コテナ〜。コテナ、どこ〜?」
馬車から顔を出しているのは女の子の方だ。
「キャーーッ! どうしたの貴方達?!」
「お……お嬢様……」
「あの男が……」
あ。蹲っている騎士達が俺を指さしている。
「あいつが……って、あああああっ! コテナ! コテナがあんな所に?!」
馬車の壊れている場所を乗り越え、女の子がこちらに走ってくる。
怒りに燃えて鬼気迫る感じだ。
そしてあろうことか、俺とクロエさんに向かって魔法攻撃をかけてきた。
「火焔矢!」
「話も聞かずに問答無用かよ……」
魔王様の四天王であった俺には大した威力にはならない攻撃を、片腕を振ることで打ち消す。
「な……」
呆然とした女の子であったが、再びこちらを睨み付けると、先程と同じ魔法を連発してくる。
「火焔矢! 火焔矢! 火焔矢! 火焔矢!」
再び魔法を打ち消したところで、今度は四人の騎士達がよろめきながらも剣で斬り掛かってくる。
今度は容赦なく剣を叩き折りながら、胴体を蹴って気絶させた。
肋の何本かは折れただろう。まあ、どうでもいいが……
そこへ、
「何だこの事態は?!」
馬車の中にいた男の子の方が顔を出す。
そして馬車から降りてこちらへ駆けて来た。
ん? 仔狼とこの男の子が魔力で繋がっているのが見える。
これが魔物との主従契約の繋がりなんだろうな。
この繋がりがなくなれば自由になるんだが、すぐこのまま切ってしまうと使い魔の方が死んでしまうのだ。
これは使い魔の方から勝手に主従契約を解消させないためにある。
主側が自ら契約を解除するしかない。
となれば、彼に頼んで自主的に契約解除してもらった方が後腐れがないだろう。
ま、いざとなれば裏技があるからどうにでもなるが……
「おい! 貴様っ! なぜ私の使い魔があんな所にいるんだ?!」
仔狼を指して俺に怒鳴りつけてくる。
ああ、これはダメな奴だ……
「あの狼達は親子で……」
「何だと?! それなら親の方も私の使い魔となるわけだな!」
はあっ?!
「いや、そんなんありえないって」
「なんだと? あの仔狼は私の使い魔だ! ならばその親の狼も私の使い魔になることは必然であろう?」
「いや、むしろ君の方が親狼に殺されるだろ、本来ならば」
「どういう事だ?」
「あの狼からすれば、あんたは子供をさらった誘拐犯だから……」
「貴様! 私は帝国貴族の次期公爵家当主となる身だぞ! それを言うに事欠いて誘拐犯呼ばわりとは!」
「実際そうでしょうが。彼らの元へ赴いて、頭を下げてお願いした上での事ならともかく、召喚陣でいきなり別の場所へ攫い、強制で主従契約したんでしょう? 誘拐とどこが違うんです?」
「貴族のする事に平民風情が口出しするな!」
ダメダこりゃ。こうなると裏技で排除するしかないな。
「……睡眠」
面倒くさいので、その場にいる全員を有無を言わさずさっさと眠らせると、このバカ貴族の少年を俯せにした。
周囲に結界を張る。どっかの種族がタックルかけても大丈夫なくらいのものだ。
そして中を浄化魔法できれいにする。
上着をめくり、背中をあらわにする。
何をするかというと、魔核臓を取り出すのだ。
ここで魔法の説明をしよう。
この世界では、すべての生物が魔核臓を持っている。
この魔核臓は心臓と右肺の間にあり、ピンポン球程の大きさの石のような物を中に持つ内蔵で、脈動はしていない。
魔核臓からは左右の肺に向かって魔管が伸びており、心臓からの血管に沿うように張り巡らされている。
空気中には魔法の元である魔素があり、それを呼吸時に肺へと取り込むと、酸素が血管に取り込まれるように、魔素が魔管に吸収される仕組みとなっている。
魔素は魔管を通って魔核臓へ運ばれ、そこで魔法の元、魔力に変換されるのだ。
変換された魔力は心臓へと繋がっている魔管を通り、心臓から血管を血液のように通って全身を巡る。
魔管は胸の辺りにしか張り巡らされておらず、全身には及んでいないので、血管がその代わりを務めるのだ。
魔法を使う時は、体内を循環する魔力を意識的に特定部位へと集め、イメージを込める事で魔法として発動する。
その際に、呪文はイメージを補完する意味で唱えられるものであるが、人間の社会では呪文主義が大勢を占めているため、本来のイメージが伝わりきれずに威力が弱まっている。
ちなみに使われない余剰魔力は、血管から皮膚へとにじみ出て外気に放出され、魔力から魔素へと戻っていく。
次に召喚魔法と主従契約だが、先に述べたように召喚した時点で仮の主従契約のラインができあがっている。
そして本契約の魔法をかけるのだ。
このやり方の主従契約の場合、従たる魔物から主人へと魔力が一方的に流れていく仕組みとなる。
ということは主人にとって魔物とは、外部魔力タンクにもなり得る。
これが仔狼がわずかの間に身体が縮んでしまった所以だ。
仔狼ではまだ魔法は使えないからな。
主人が主従契約を解除しないので、魔力のラインがつながっている魔核臓を取り出し、魔物の方へと移植すれば、魔物は自分が主人の権限を持つことになる。
これが主従契約を強制解除する裏技だ。
魔核臓を取り出された人間は魔法が使えなくなるが、その辺は仕方がないだろう。
さて、魔核臓を取り出すためにナイフを用意し、これも浄化しておく。
そして俯せになっている男の子の背中に痛覚を麻痺させるために麻酔の魔法をかけ、右の肩胛骨と背骨の間にナイフを突き立てた。
当然そこには肋骨があるが、ナイフは抵抗なく骨を絶ち、縦に二十センチほどを切り裂いた。
それからその傷に左右の人差し指と中指を突っ込んで開くと、少し血が流れてきたが、中にある魔核臓を確認できる。
魔核臓をつまみ、魔力でコーティングを始める。
魔核臓から出ている魔管すべてに行き渡るぐらいに魔力を込めていくと、背中全体がうっすらと魔力光を発してきた。
そして徐々に力を込めて引っ張っていく。
ずるずると魔管が引き出されてくる感覚がある。
魔力でコーティングしているおかげで、途中で切れることなく魔管を引きずり出すことができた。
男の子の背中の傷を浄化し、治癒の魔法をかけて修復していく。
傷跡もなくなったところで処置は終了。
取り出した魔核臓に魔管を巻き付けていくと、テニスボ-ルくらいの大きさになった。
さらに魔力を込めて凝縮する。
すると、長さ三センチ、幅一センチの楕円形の宝石のような魔石になった。
それを仔狼の額に持って行き、魔力を込めて押しつける。すると、魔石はそのまま頭に吸い込まれていった。
《ジョセフーヌ、今、何をした?》
おうふ……その名前は心をえぐるなぁ……
《この仔を召還した者から主従契約魔法の元を抜き取ったんだ。それをこの仔に与えれば、もう誰にも召還されなくなるからな。それと、ジョセフィーヌって呼ぶな》
《ふむ。それくらいなら良いか。さて、この仔を連れて里へ帰るが、お前、この仔を抱いて、私の背に乗ってくれないか?》
《あー。口に咥えるにしても小さすぎるのか。判った。手伝おう》
仔狼を抱きかかえてクロエさんの背に登ると、スッと立ち上がる。
おー。もしかして馬よりも目線が高いか?
仔狼はキョロキョロと左右を見回している。うれしいらしく、尻尾が激しく揺れていた。
《さ、行くよ》
ドンッ!!
どわあああああっ?!!
いきなりの超高速!
上下の揺れは感じないものの、風圧が半端ない!
がっちりとクロエさんの首回りの体毛を掴み、吹き飛ばされないように伏せた。
仔狼は俺の腹の下にしっかりと伏せ、微動だにしない。
前方に見えてくる山脈をどう越えるのかと思いきや、いつの間にか足場が空中になっていた。
クロエさんは空を駆けている。
おかげで加速しながら山脈を越え、夕日が沈む頃にはクロエさんの暮らす里へと着いた。
ドンだけの速度が出てたのやら。
おそらく音速は突破していただろう。
あ、結局、魔王領に帰ってきたんじゃないか……orz




