第八十二話 「答え」
翌週。
放課後。
雪音は教室に残っていた。
窓の外を見る。
あの日。
輝夜から聞いた言葉。
『私は、雪音のことを特別に思ってる』
あれから。
何度も考えた。
自分は。
輝夜のことをどう思っているのか。
「……。」
答えは。
もう分かっていた。
ただ。
口にするのが怖かった。
自分には。
一ノ瀬家のことがある。
父との過去も。
母との新しい生活も。
そして。
千夜雪音として学院で過ごしてきた時間も。
それでも。
輝夜と一緒にいる時だけは。
そんなものを忘れられた。
「……俺も。」
雪音は小さく呟く。
「輝夜が好きなんだ。」
その言葉を口にしただけで。
胸が少し軽くなった。
――――
校門。
「雪音?」
輝夜が待っていた。
「どうしたの?」
「少し話したい。」
「うん。」
二人は学院の裏手にある道を歩く。
夕方。
人通りも少ない。
「この前のこと。」
「……うん。」
「ずっと考えてた。」
輝夜の表情が少し緊張する。
「私、何か困らせた?」
「違う。」
雪音は首を振る。
「むしろ。」
「嬉しかった。」
「……。」
「お前が俺のことを特別だって言ってくれたこと。」
輝夜は黙って雪音を見る。
「俺も。」
雪音は足を止める。
「お前といるのが好きだ。」
「……うん。」
「一緒にいると楽しい。」
「うん。」
「お前が笑ってると嬉しい。」
輝夜の目が少し潤む。
「だから。」
雪音はまっすぐ輝夜を見る。
「俺にとっても、お前は特別だ。」
「……。」
輝夜は何も言わない。
ただ。
雪音の手をそっと握った。
「……それだけ?」
「え?」
「もっと聞きたい。」
「……。」
雪音は少し困ったように笑う。
「欲張りだな。」
「だって。」
輝夜も笑う。
「ずっと待ってたから。」
雪音はその手を握り返す。
「……俺も。」
二人の距離が少し近づく。
けれど。
雪音はまだ一つだけ言えていない言葉があった。
「輝夜。」
「何?」
「次に会う時。」
「ちゃんと答える。」
「……何の?」
「お前が、本当に聞きたい答え。」
輝夜は少し考え。
そして。
嬉しそうに笑った。
「うん。」
「待ってる。」
二人は手を繋いだまま。
夕暮れの道を歩いていく。
その手は。
しばらく離れなかった。




