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第八十一話 「特別」

休日。


昼過ぎ。


雪音は駅前で待っていた。


「……遅いな。」


スマートフォンを見る。


約束の時間まで、あと少し。


その時。


「雪音!」


聞き慣れた声。


振り返る。


輝夜が駆け寄ってくる。


「ごめん、待った?」


「いや。今来たところ。」


「ほんと?」


「ああ。」


輝夜は笑った。


「じゃあ、行こう。」


「どこに?」


「決めてない。」


「……おい。」


「だって、雪音と二人で出かけたかったんだもん。」


「……。」


雪音は一瞬固まる。


「何?」


「いや……。」


「顔赤いよ?」


「暑いだけだ。」


「ふふ。」


輝夜は楽しそうに笑う。


二人は街を歩き始めた。


――――


最初に入ったのは、本屋だった。


「雪音って、こういうの読むんだ。」


「まあな。」


「意外。」


「何が?」


「もっと難しい本ばっかり読むと思ってた。」


「俺を何だと思ってるんだ。」


「真面目な人。」


「……。」


雪音は苦笑する。


次に二人はゲームセンターへ。


「これ取って。」


「自分でやれよ。」


「お願い。」


「……一回だけな。」


雪音がクレーンゲームに挑戦する。


何度か失敗した後。


「取れた。」


「すごい!」


輝夜が嬉しそうに景品を受け取る。


「ありがとう!」


「別に。」


「大事にするね。」


その笑顔を見て。


雪音も自然と笑った。


――――


夕方。


二人は公園のベンチに座っていた。


「楽しかったね。」


「ああ。」


「雪音と二人で出かけるの、初めてだよね。」


「そうだな。」


輝夜は少し黙る。


「……また行きたい。」


「いつでも行けばいいだろ。」


「二人で?」


「……ああ。」


輝夜が嬉しそうに笑う。


「約束ね。」


「うん。」


少しの沈黙。


夕暮れの風が吹く。


「雪音。」


「ん?」


「私ね。」


輝夜は前を向いたまま話す。


「雪音が女の子だと思ってた時も。」


「男だって知った後も。」


「たぶん、ずっと同じだった。」


雪音は黙って聞いている。


「一緒にいると楽しい。」


「話してると安心する。」


「雪音が笑ってると嬉しい。」


輝夜は少し照れながら笑う。


「だから……。」


「私は、雪音のことを特別に思ってる。」


雪音の胸が大きく鳴る。


「……輝夜。」


「ごめん。」


「え?」


「急にこんなこと言って。」


「でも。」


輝夜は雪音を見る。


「伝えておきたかった。」


雪音は何も言えない。


自分の気持ちが。


もう分からなくなっていた。


いや。


本当は。


分かっている。


「……俺も。」


雪音が口を開く。


「俺も、お前といるのが好きだ。」


輝夜の目が見開かれる。


「……本当?」


「ああ。」


「じゃあ……。」


輝夜は嬉しそうに笑う。


「今日は、それだけでいい。」


雪音は頷く。


まだ。


二人は恋人ではない。


けれど。


互いの気持ちは。


もう。


以前とは違っていた。


帰り道。


輝夜は雪音の隣を歩く。


その距離は。


いつもより少しだけ近かった。

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