第七十八話 「もう一度、家族に」
休日の夕方。
珠音と雪音は、並んで歩いていた。
昼食を終えた二人は、そのまま街を歩いていた。
「……。」
雪音は隣を歩く珠音を見る。
母親と二人で歩く。
ただそれだけのことなのに。
妙に落ち着かなかった。
「どうしたの?」
珠音が気づく。
「いや。」
雪音は首を振る。
「母さんとこうやって歩くの、変な感じだなって。」
珠音は少し笑う。
「私もよ。」
「……そうなのか?」
「だって。」
珠音は雪音を見る。
「あなたがこんなに大きくなっているなんて、実感がなかったもの。」
「……。」
雪音は少しだけ目を逸らす。
「俺も母さんのこと、何も知らなかった。」
「うん。」
「好きな食べ物とか。」
「うん。」
「どんな生活してるのかとか。」
「……そうね。」
珠音は少し寂しそうに笑った。
「だから、これから知っていきましょう。」
「……これから?」
「ええ。」
珠音は足を止める。
「雪音。」
「何?」
「あなたが嫌じゃなければ。」
少し迷ってから。
珠音は口にした。
「私と一緒に暮らさない?」
「……。」
雪音は言葉を失った。
「急に言ってごめんなさい。」
「でも。」
珠音は続ける。
「私はもう、あなたを一人にしたくない。」
「今までできなかった分。」
「これからは、あなたのそばにいたい。」
雪音は黙っている。
頭の中には。
今までのことが浮かんでいた。
母親に置いていかれたと思っていたこと。
父親に認められようとしていたこと。
そして。
天女学院で出会った人たち。
輝夜。
友人たち。
全部を捨ててしまうわけではない。
「……学院は?」
「もちろん通っていいわ。」
「今までの生活を変えなくてもいい。」
「ただ。」
珠音は微笑む。
「帰る場所を、もう一つ作ってほしいの。」
雪音は俯く。
「……俺。」
「うん。」
「母さんと暮らしたい。」
珠音の目が見開かれる。
「……本当に?」
「ああ。」
雪音は頷く。
「ずっと、母さんがいないのが当たり前だと思ってた。」
「でも。」
「もう一度、家族になれるなら。」
「俺は……そうしたい。」
珠音の目から涙がこぼれる。
「……ありがとう。」
「泣くなよ。」
「無理よ。」
珠音は涙を拭きながら笑う。
「嬉しいんだもの。」
雪音も少し笑った。
「じゃあ。」
「うん。」
「これからよろしく、母さん。」
珠音は頷く。
「こちらこそ。」
夕暮れの街。
二人は並んで歩いていく。
まだ。
完全な家族とは言えない。
けれど。
今日。
二人はもう一度。
家族になることを選んだ。




