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第七十三話 「日常へ」

学園祭が終わって、数日。


天女学院には、いつもの日常が戻っていた。


廊下を歩く生徒たち。


教室から聞こえてくる笑い声。


窓から差し込む穏やかな日差し。


数日前までの騒がしさが、嘘のようだった。


「……。」


雪音は教室の窓から外を眺めていた。


学園祭の日。


父との戦い。


一ノ瀬組。


そして、自分の正体。


いろいろなことが起きた。


けれど。


学院での日常は、何事もなかったかのように続いている。


「千夜さん。」


声を掛けられ、雪音が振り返る。


「何?」


「今日の放課後、一緒に帰らない?」


「……ああ。いいよ。」


生徒は嬉しそうに笑って、自分の席へ戻っていく。


雪音はその姿を見つめる。


以前なら。


学院で誰かと親しくすることなど考えられなかった。


けれど今は。


こういう日常も悪くないと思っている。


――――


昼休み。


雪音が中庭へ向かうと。


そこには輝夜がいた。


「遅い。」


「待ってたのか?」


「うん。」


輝夜はベンチの隣を軽く叩く。


「座って。」


「……分かった。」


雪音が隣に座る。


しばらく二人で昼食を食べる。


「ねえ、雪音。」


「ん?」


「最近、少し変わったね。」


「俺が?」


「うん。」


輝夜が笑う。


「前より自然になった。」


雪音は少し考える。


「……そうかもしれない。」


「正体を隠していた時は、いつも無理してたから。」


「……。」


「今は?」


輝夜が尋ねる。


雪音は学院を見渡した。


「今は……。」


少しだけ笑う。


「ここにいてもいいんだって思える。」


輝夜は嬉しそうに微笑んだ。


「それならよかった。」


「……ありがとう。」


「どういたしまして。」


二人はそのまま昼食を続けた。


――――


放課後。


雪音は教室を出る。


「千夜さん!」


後ろから声がする。


「一緒に帰ろう。」


「ああ。」


雪音は頷く。


数人の生徒と並んで廊下を歩く。


「学園祭が終わると、なんか寂しいね。」


「そうだな。」


「来年も楽しみ。」


「気が早いな。」


笑い声が響く。


雪音も自然に笑っていた。


その姿を。


少し離れた場所から輝夜が見ている。


「……。」


雪音はもう。


以前のように、一人で全てを抱え込もうとはしていなかった。


――――


その頃。


五条会。


学園祭を終えた真昼は、既に学院を離れ、自分の日常へ戻っていた。


机の上には書類が積まれている。


「……多いな。」


紫雲が苦笑する。


「卒業したんですから、学院のことばかり考えていてはいけませんよ。」


「分かってる。」


真昼は書類に目を通す。


それでも。


ふと。


雪音のことを思い出した。


「……あいつ。」


「どうしました?」


「いや。」


真昼は小さく笑う。


「元気にやってればいい。」


それ以上は言わなかった。


真昼には真昼の場所がある。


そして。


雪音には雪音の場所がある。


――――


夕方。


天女学院。


校門を出た雪音の隣に、輝夜が並ぶ。


「明日も学校だね。」


「ああ。」


「じゃあ、また明日。」


「……また明日。」


雪音はそう答えた。


父との戦いも。


学園祭の騒動も。


ひとまず終わった。


今は。


ただの学院生として。


この日常を過ごしていけばいい。


そう思えるようになっていた。


夕暮れの中。


雪音はゆっくりと歩き出す。


その先に待っているのが。


新しい日常なのか。


それとも。


また別の戦いなのか。


まだ誰にも分からなかった。

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