第七十話 「最後の記憶」
雪音の桜色の刀が、雪影の首元へ迫る。
「……!」
雪音は止めようとした。
しかし。
その瞬間――。
「雪音!」
真人が動いた。
「……え?」
次の瞬間。
――ザンッ!!
鮮血が舞った。
雪音の刀ではない。
真人の刀が、雪影の身体を貫いていた。
「……父上?」
雪音が目を見開く。
真人は刀を抜く。
雪影の身体が大きく揺れ、その場に膝をついた。
「……なぜ……。」
雪影が真人を見る。
「お前に……斬らせるわけにはいかない。」
真人は静かに答えた。
「こいつはお前の父親だ。」
雪音の手から力が抜ける。
「……。」
雪音は何も言えなかった。
自分で決着をつけるつもりだった。
父を止めるために、ここまで来た。
なのに。
最後の一線を越えることだけは、真人が止めた。
「……父上。」
雪音が雪影の前に膝をつく。
「俺は……。」
言葉が出てこない。
雪影はそんな雪音を見つめる。
「……雪音。」
久しぶりに。
父親が、自分の名前を静かに呼んだ。
雪音が顔を上げる。
「……何?」
しかし。
雪影の意識は、もう薄れていた。
視界がぼやける。
目の前にいる雪音の姿が、少しずつ遠ざかっていく。
そして。
最後に浮かんだのは――。
幼い頃の雪音ではなかった。
「……珠音。」
別居する前。
まだ家族だった頃。
妻と口論した記憶。
雪音の育て方を巡って、何度も衝突した。
「あなたは、この子を壊している。」
珠音の言葉。
「強くなければ、この世界では生き残れない。」
雪影はそう言い返した。
「この子はあなたの道具じゃない。」
その言葉を聞いた時。
雪影は怒り、家を出た。
それから。
珠音とは別居した。
雪音とも。
まともに向き合うことができなくなった。
「……珠音。」
最後に思い浮かんだのは。
自分が愛した妻の姿だった。
そして。
雪影は静かに目を閉じた。
「……。」
雪音は動かなかった。
ただ。
目の前の父を見つめている。
「……父上。」
返事はない。
雪音の目から、涙が一筋落ちる。
「……俺は。」
声が震える。
「俺は、どうすればよかったんだよ……。」
真人は何も言わなかった。
ただ。
雪音の肩に手を置く。
「もういい。」
その言葉に。
雪音は俯いた。
長い間。
父親に認めてもらうためだけに生きてきた。
その父親は。
もういない。
雪音の戦いは。
ここで終わった。
補足するなら雪音が止めようとしたのは雪影が避けると思っていたから。東京喰種の有馬貴将をイメージしてました




