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第六九話 「父の敗北」

雪影が踏み込む。


「――雪音!」


刀が振り下ろされる。


雪音は動かなかった。


「……。」


ただ。


迫ってくる刃を見つめていた。


――キィンッ!!


桜色の刀が、雪影の刀を受け止める。


「……!」


雪音の足が床を滑る。


それでも。


今度は退かなかった。


「父上。」


雪音は刀を押し返す。


「もう終わりだ。」


「黙れ!」


雪影が力を込める。


「私は……!」


声が震える。


「私は、五条を超えなければならない!」


雪音は雪影の目を見る。


そこにあったのは。


怒りだけではなかった。


長年積み重なった執念。


そして。


焦り。


「父上。」


雪音は静かに言った。


「もう、五条を超える必要なんてない。」


「……何?」


「五条に勝ったって。」


「父上が幸せになるわけじゃない。」


雪影の動きが止まる。


「俺も……やっと分かった。」


「誰かを超えたからって、自分の価値が決まるわけじゃない。」


雪音は刀を握り直す。


「俺は俺だ。」


そして。


雪音が一歩踏み込んだ。


――ガキィン!!


雪影の刀が弾き飛ばされる。


「……!」


刀が床へ落ちる。


カラン……。


雪影は呆然と自分の手を見る。


「……負けた。」


その言葉が。


広間に静かに響いた。


雪音は刀を下ろす。


「……ああ。」


「俺の勝ちだ。」


雪影はゆっくりと雪音を見る。


「お前は……。」


言葉が続かない。


雪音はそんな父を見つめる。


「父上。」


「俺は、父上を恨んでる。」


雪影の目が僅かに揺れる。


「でも。」


雪音は続ける。


「それでも、父上に死んでほしいとは思わない。」


「だから。」


桜色の刀を鞘へ収める。


「これ以上、誰も傷つけないでくれ。」


雪影は答えなかった。


ただ。


力なく俯いた。


その時。


「……雪音。」


真人が静かに声を掛ける。


雪音が振り返る。


「はい。」


「よくやった。」


たった一言。


それだけだった。


けれど。


雪音の胸には、その言葉が深く響いた。


今まで。


父に認めてもらうために戦ってきた。


誰かに勝つために強くなってきた。


でも。


初めて。


自分自身の意思で戦い。


自分自身の意思で勝った。


雪音は静かに目を閉じる。


「……ありがとう。」


その頃。


遠く離れた天女学院では。


学園祭の喧騒が少しずつ終わりを迎えていた。


そして。


輝夜は一人。


雪音の帰りを待っていた。


「……ちゃんと帰ってきてよ。」


小さく呟く。


雪音が学院へ戻った時。


彼を待っているのは。


今までとは違う日常だった。

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