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第六十八話 「桜色の刃」

――キィンッ!!


雪音の刀が雪影の刀を弾く。


「……っ!」


雪影が一歩下がる。


雪音は追う。


「はあっ!」


――ガキィン!!


再び刃がぶつかる。


雪影の腕に衝撃が走った。


「……強くなったな。」


「父上に鍛えられたからな。」


雪音は刀を構えたまま答える。


「でも……。」


紅い瞳が雪影を捉える。


「俺は、父上が望んだような人間にはならない。」


雪影は黙って雪音を見る。


「私は、お前に強さを与えた。」


「それだけじゃない。」


雪音は首を横に振る。


「俺から色んなものを奪った。」


「普通に生きることも。」


「誰かに頼ることも。」


「自分のことを大切にすることも。」


雪音の声が震える。


「全部、必要ないと思ってた。」


「父上に認めてもらうためなら、それでいいと思ってた。」


雪影は刀を握り直す。


「ならば、今さら何を望む。」


「……分からない。」


雪音は一瞬だけ目を伏せる。


「まだ分からない。」


「でも。」


再び顔を上げる。


「もう、自分を捨てるのはやめる。」


雪影の表情が僅かに揺れた。


「……そうか。」


雪影が構える。


「ならば、それがお前の答えか。」


「ああ。」


二人が同時に踏み込む。


――キィンッ!!


雪音が刀を振り下ろす。


雪影が受け止める。


「ぐっ……!」


「父上!」


雪音がさらに力を込める。


しかし。


雪影は身体を捻り、雪音の刀を逸らした。


「甘い!」


雪影の刀が雪音の脇を狙う。


「――!」


雪音は咄嗟に身体を引く。


それでも。


着物が裂け、脇腹に浅い傷が走った。


「っ……!」


血が滲む。


真人が僅かに目を細める。


だが。


雪音は退かなかった。


「……まだだ。」


刀を握る。


「俺は……負けない。」


雪影が息を吐く。


「その目。」


「……?」


「昔のお前と同じだ。」


雪音が黙る。


「何としてでも私を超えようとしていた頃の目だ。」


「違う。」


雪音は静かに否定する。


「今は違う。」


「俺は父上を超えたいんじゃない。」


桜色の刀を握り直す。


「父上を止めたいんだ。」


その言葉と同時に。


雪音が一気に踏み込んだ。


「終わらせる!」


――キィンッ!!


雪影の刀が大きく弾かれる。


「なっ……!」


雪音はそのまま刀を返す。


雪影も体勢を立て直そうとする。


だが。


ほんの僅かに。


雪音の方が速かった。


桜色の刃が、雪影へ迫る。


「雪音――!」


真人の声が響く。


雪音の刀が止まった。


雪影の首元。


あと僅か。


「……。」


雪音は刀を握ったまま動かない。


目の前にいるのは。


自分を苦しめ続けた父親。


それでも。


「……俺には。」


雪音の手が震える。


「父上を殺すなんて……できない。」


雪影は何も言わない。


真人も動かない。


長い沈黙の中。


雪音は刀を下ろした。


「……もう終わりにしよう。」


しかし。


雪影はゆっくりと刀を拾い直した。


「まだだ。」


雪音が顔を上げる。


「父上……。」


雪影は刀を構える。


「私はまだ負けていない。」


そして。


最後の一撃を放つため。


雪影が踏み込んだ。

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