第六話 「料理の約束」
放課後。
寮の共同キッチン。
「……えっと。」
西ノ宮輝夜は、目の前の食材を見つめていた。
「これ、本当に切ればいいんだよね?」
隣で雪音が包丁を握る手を止める。
「はい。」
「ただ、少し危なそうなので代わります。」
「やっぱり?」
輝夜は苦笑する。
「料理って難しいね……。」
「慣れれば大丈夫です。」
雪音は野菜を手際よく切っていく。
無駄のない動き。
包丁の音が一定の間隔で響く。
輝夜はそれを眺めていた。
「雪音さんって、本当に何でもできるんだね。」
「そうでもありません。」
「え?」
雪音は少し考える。
「できないこともあります。」
輝夜は意外そうな顔をする。
「例えば?」
雪音は答えようとして。
少し黙った。
「……。」
「人に頼ること。」
輝夜は目を瞬かせる。
「頼る?」
「はい。」
雪音は料理を続けながら言う。
「自分でできることは、自分でやるべきだと思っています。」
「誰かに迷惑を掛けるくらいなら。」
その言葉に。
輝夜は少し寂しそうな顔をした。
「でも。」
「迷惑じゃなくて、助け合いじゃないかな。」
雪音の手が止まる。
「……。」
「私、料理できないし。」
輝夜は笑う。
「雪音さんに頼ってるよ?」
「でも嫌じゃないでしょ?」
雪音は少し考える。
「……はい。」
「なら、逆もあっていいと思う。」
その言葉に。
雪音は返事をしなかった。
⸻
「できました。」
テーブルには綺麗に並べられた料理。
「すごい……!」
輝夜が目を輝かせる。
「いただきます!」
一口食べる。
「美味しい!」
「本当に美味しい!」
「ありがとうございます。」
雪音は静かに食べる。
その姿を見て、輝夜は笑う。
「雪音さん。」
「はい?」
「料理してる時、楽しそうだった。」
雪音は少し驚く。
「そうですか?」
「うん。」
「学院にいる時の方が、少し普通の女の子っぽいよ。」
その言葉。
雪音の表情が少し固まった。
「……。」
輝夜は慌てる。
「あ、ごめん。変な意味じゃなくて!」
「褒めたつもり!」
雪音は首を振る。
「いえ。」
「ありがとうございます。」
⸻
夜。
自室。
雪音は窓の外を見る。
今日の言葉が頭に残っていた。
『頼る』
『助け合う』
今まで考えたこともなかった。
その時。
スマホが鳴る。
表示された名前。
一ノ瀬雪影。
「……父上。」
電話に出る。
『学院はどうだ』
「問題ありません。」
『そうか』
短い沈黙。
『忘れるな』
雪音の目が細くなる。
『お前がそこへ行った理由を』
『五条真昼を超えるためだ』
通話が切れる。
静かな部屋。
雪音は拳を握った。
「……はい。」
小さく呟く。
「分かっています。」
だが。
その胸の奥には。
昼間の輝夜の言葉が残っていた。




