第五話 「昼休みのひととき」
昼休み。
「雪音さん、一緒にお昼食べよ!」
教室に響く明るい声。
西ノ宮輝夜が笑顔で雪音に手を振っていた。
「はい。」
雪音は弁当箱を持ち、輝夜の席へ向かう。
「いただきます。」
「いただきまーす!」
二人は食べ始める。
「そういえば雪音さんって、お弁当も自分で作ってるの?」
「はい。」
「毎朝作っています。」
輝夜は目を丸くした。
「えぇっ!?」
「すごい!」
雪音はきょとんとする。
「普通だと思いますが。」
「全然普通じゃないよ!」
輝夜は自分の弁当を指差す。
「私は家の人に作ってもらってるし、自分で作ると失敗するもん。」
「そうなのですか。」
「うん。」
輝夜は苦笑した。
「前に卵焼きを作ろうとしたら、砂糖と塩を間違えちゃって……。」
「家族に笑われちゃった。」
雪音は思わず微笑む。
「それは……大変でしたね。」
「笑った!」
輝夜が指を差す。
「今笑ったよね?」
「……少しだけ。」
雪音は素直に認めた。
その返事に、輝夜もつられて笑う。
「雪音さんって、笑うと安心する。」
「普段が綺麗すぎるから、ちょっと近寄りがたいんだもん。」
「そうでしょうか。」
「うん!」
その時。
「あの……。」
二人の横から小さな声がした。
「ご一緒してもいいですか?」
天海美羽だった。
「もちろん!」
輝夜が笑顔で答える。
「どうぞ。」
雪音も席を少しずらした。
美羽は嬉しそうに頭を下げる。
「ありがとうございます。」
三人で昼食を囲む。
「昨日のバイオリン、とても素敵でした。」
美羽が雪音を見る。
「私、部屋で聴いていました。」
「そうでしたか。」
「また聴けたら嬉しいです。」
雪音は少し考えた。
「ご迷惑でなければ。」
「迷惑なんて!」
美羽は慌てて首を振る。
「すごく綺麗でした。」
雪音は静かに頷いた。
「ありがとうございます。」
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放課後。
雪音は図書室へ立ち寄っていた。
授業で気になった本を探していると、不意に声が掛かる。
「勉強熱心ですね。」
振り返ると、生徒会長の藤田皐月が本を手に立っていた。
「こんにちは。」
「こんにちは。」
「本はお好きなんですか?」
「はい。」
「読むことも、調べることも好きです。」
皐月は柔らかく微笑む。
「分からないことがあったら、生徒会室にも来てくださいね。」
「ありがとうございます。」
短いやり取りだった。
だが雪音は思う。
学院には。
敵も命令もない。
ただ、穏やかな毎日が流れている。
そんな日常に。
まだ少しだけ、戸惑っていた。




