第四話 「初めての夕食」
放課後。
授業を終えた雪音は、寮へ戻っていた。
部屋へ荷物を置き、一息つく。
その時だった。
コンコン。
扉がノックされる。
「雪音さん!」
輝夜だった。
「夕飯、一緒に食べに行こ!」
「はい。」
雪音は立ち上がる。
二人は並んで食堂へ向かった。
⸻
食堂。
今日も多くの寮生で賑わっている。
料理を受け取り、席へ座る。
「いただきます。」
二人は食事を始めた。
「そういえば雪音さんって、料理できるの?」
輝夜が何気なく尋ねる。
「はい。」
雪音は頷く。
「一通りは。」
「すごーい!」
輝夜は目を輝かせる。
「私なんて全然だよ!」
「以前、目玉焼きを作ろうとして焦がしちゃって……。」
「フライパンも焦がしました。」
雪音は思わず動きを止めた。
「……フライパンを、ですか。」
「うん!」
輝夜は悪びれる様子もなく笑う。
「料理は苦手なんだ!」
「そうなのですね。」
「だから料理ができる人って尊敬する!」
その笑顔を見て。
雪音は少しだけ口元を緩めた。
⸻
食事を終えた帰り道。
「あっ。」
輝夜が立ち止まる。
「どうかしましたか?」
「寮の共同キッチン見た?」
「まだです。」
「じゃあ行こ!」
輝夜に手を引かれ、共同キッチンへ向かう。
中には数人の寮生が夕食を作っていた。
「ここ自由に使えるんだよ!」
「なるほど。」
雪音は設備を見渡す。
包丁。
まな板。
調理器具。
綺麗に整理されている。
「もしよかったら、今度料理教えて!」
輝夜が期待した目で見つめる。
雪音は少し考えた。
「私でよければ。」
「やったー!」
輝夜は嬉しそうに両手を上げる。
その反応があまりにも素直で。
雪音は思わず小さく笑ってしまった。
「……ふふ。」
「えっ?」
輝夜が目を丸くする。
「雪音さん、今笑った?」
雪音は少し驚く。
「そうでしょうか。」
「うん!」
「初めて見た!」
雪音は照れたように視線を逸らす。
「気のせいです。」
「絶対笑ったもん!」
輝夜は楽しそうに笑う。
その笑い声につられるように。
雪音の表情も少しだけ柔らかくなっていた。
⸻
その夜。
自室。
雪音は机に向かい、今日一日を思い返していた。
輝夜。
美羽。
皐月。
学院では、誰も自分を「白夜叉」とは呼ばない。
誰も「若頭」として接してこない。
「……不思議ですね。」
小さく呟く。
こんな日常を送るのは初めてだった。
窓の外では、春の風が静かに木々を揺らしていた。




